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ケージ・オブ・メモリーズ

次の階層に落とされた瞬間、三人は凍りついた。

そこは無限に並ぶ無機質な白い檻の中。無数の扉が迷路のように連結され、床も天井も存在せず、ただ上下左右に「檻」が並んでいる。


空間には、鈍い電子音が響いていた。


「試練開始。条件:他者より早く正解の扉を選び、最終層に到達せよ。

ただし、遅れた者の酸素は減少し続け、最終的に0となる。」


ジュードが即座に反応する。

「結局また殺し合いってわけか……!」


だがカンナは既に周囲を分析していた。

「待って。この試練、明らかに"時間制限の罠"が仕掛けられてる。焦った方が負ける。」


サクヤが檻の中でくるくると回りながら言う。

「そうだね、焦ると"間違った扉"を選ぶ確率が高くなる。

ちなみに、間違った扉を選ぶとどうなるか知ってる?

"空間ごと消滅"だよ。君ごとね。」


ジュードが歯を食いしばり、カンナが言葉を続けた。

「ルールを整理する。

一、正しい扉は必ず存在する。

二、間違った扉は即死。

三、正しい扉は何らかの法則で決まっているはず。」


「法則は分かるのか?」ジュードが短く尋ねると、カンナは即答した。

「まだ分からない。でも、仮説は立てられる。」


最初の檻には、三つの扉があった。

それぞれに**「1」「3」「5」と数字が刻まれている。

さらに、壁には微かに「1+2=3」「2+3=5」**という数式のような刻印。


カンナが素早く言う。

「パターンはフィボナッチ数列。次は"8"の扉が正解。」


ジュードは確認もせず、8の扉に突っ込んだ。

空間が歪み、彼は次の檻に転送された。


カンナも後を追うが、サクヤはその場に立ち止まったまま、手を叩いた。

「ふふん、すごいね。でも、次の問題はどうかな?」


次の檻には、五つの扉があった。

数字は「13」「21」「34」「55」「89」。

だが、壁には数字ではなく、**「赤」「青」「緑」「黄」「紫」**と色が表示されている。


「次は色か……!?」

カンナが一瞬眉をひそめたが、すぐに目を細める。

「待って。この色、可視光線の波長順だ。

つまり、色の番号=波長の数値順で並べ替えた位置。**」


彼女は計算を終えると、声を上げた。

「正解は21の扉!」


ジュードが振り向かずに突っ込み、正解だった。

だが、彼の酸素メーターは徐々に減少していく。

「チッ……時間がない!カンナ、急げ!」


カンナが続こうとした瞬間、サクヤがふわりと彼女の腕を掴んだ。

「ねぇ、どうしてそんなに必死に合理性を求めるの?この街の法則は、時に『非合理』も飲み込むんだよ?」


「離せ、サクヤ!」

「いいよ。でも、君は自分が"合理的な敗北者"になっていくことに気づいてない。」


サクヤは笑いながら後ろに跳び、消えていった。

カンナは一瞬迷ったが、ジュードの声で我に返った。

「おい、カンナ!止まるな!ここは理屈じゃなく、生き残るために突っ込むしかねぇ!」


息を吐き、全身の神経を集中させ、カンナは21の扉に飛び込む。


正解だった。

だが、すでにジュードの酸素残量は20%を切り、カンナも25%を切っていた。

時間は残されていない。


そして最後の檻が現れた。

扉は**「0」「1」「∞(無限大)」**の三つ。

壁にはただ一言、こう記されていた。


「存在するとは何か?」


「……哲学だと?ふざけんな!」

ジュードが叫び、カンナは震える手でメモを握りしめた。


「0は無、1は有、∞は超越。

でも……"存在"って言葉が示すのは"有"であって、"超越"じゃない。

無限は存在の否定でもある。

だから正解は――"1"!」


「任せたぞ、カンナ!」

ジュードが叫び、カンナは"1"の扉に向かって突っ込む――。


世界が再び反転し、三人は崩壊する空間から跳ね飛ばされるように抜け出した。


荒い息をつきながら、カンナは呟いた。

「……生き残った。ギリギリ、だな。」


ジュードは汗だくで座り込み、サクヤは遠くでまた笑っていた。

「おめでとう、君たち。

でも、次の試練はもっと面白いよ。

だって、"物理法則そのものを変える階層"だからね。」


そして、彼らは次なる狂気の階層――『加速する時間の迷宮』へと足を踏み入れるのだった。



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