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3/5

酸素と命の等価交換

酸素の奪い合い。

それはつまり、この空間で「他人の酸素を奪わなければ自分が死ぬ」というルールだった。

周囲には何もない。浮遊する破片、壊れた階段の破片、無限に広がる空間。

酸素の供給は、各個人の生命維持装置――つまり体内の小型デバイスに委ねられており、残量は全員で「合計100%」しかない。

誰かが多く吸えば、他の誰かが苦しむ。


「まるでバランスゲームだな。」

ジュードが苦笑しながら銃を構えた。

「撃てば終わりだが……さて、どうする?」


カンナは既に計算を始めていた。

「この状況で最適解を出すなら、3人で均等に酸素を使う。奪い合いは非合理的。」

「でもその"均等"が崩れるのがこの街だろ?」ジュードが睨む。

「しかも、試練の条件に"奪い合え"とある。つまり、協力は不可能な設計になっている。」


一瞬の沈黙。

だが、その沈黙を破ったのはサクヤだった。

彼はにこやかに言う。

「君たち、"酸素を奪う"ってのは何も直接攻撃だけじゃないんだよ。」


そう言うと、サクヤは自らの装置のバルブを操作し、酸素放出量を最大にした。

周囲に酸素が充満し、カンナとジュードの酸素メーターが一瞬上昇する。


「……何をしてる?」

カンナが驚くと、サクヤはケラケラ笑った。

「これでいいんだ。奪い合え、というルールを満たすには、"供給の奪い合い"も成立する。ほら、キミたち、僕の酸素を勝手に奪っただろ?」

彼の酸素残量は急激に減り、10%を切っていた。


「リスクを背負わずにリターンを得たら、ゲームマスターは怒るよ?」


途端、空間に警告音が鳴り響き、機械音声が告げた。


「ルール違反検知。制裁措置を実行。」

「サクヤの酸素残量、強制ゼロ化。」


「ははっ、やっぱりね。」

サクヤの笑顔がかすかに揺らぎ、口元から血が滲む。だが彼は目を細めて言った。

「さて、次の合理的手段をどう考える?」


ジュードが息を荒げながら銃をサクヤに向けた。

「お前、何者なんだよ……!」

「僕はただの"傍観者"さ。観察と干渉が趣味なんだ。」


一方、カンナは酸素残量の表示を見つめていた。

自分:38%

ジュード:42%

サクヤ:20%(強制ゼロ化中)


「ルールを満たしながら、全員が生存できるパターン……いや、ある。」

彼女はメモ帳を開き、震える手で書き殴った。

「酸素消費率の低下を共有すればいい。全員が息を止める時間を交互に設ける。」


「はあ?息止めゲームをしろってのか?」ジュードが苛立つ。

「合理性を考えろ。ルールに『攻撃で奪え』とは書いていない。"酸素を奪い合え"が条件なら、最小限の奪いで済む方法を探すべき。」


「ふーん、それ、僕も乗るよ。」

サクヤが薄ら笑いながら口を拭う。

「僕はもう死にかけだから、あとはキミたちに任せる。さて、この街はキミたちをどう評価するかな?」


カンナが提案した「交互の息止め作戦」。

ジュードが信じられない顔をしつつも、その合理性に賭けることを決意する。

一人が酸素を吸い、他の二人が止める。それを数十秒ごとに交代する。


極限の呼吸制御と自己抑制。

それは、理性と肉体の限界を超えた、命を懸けた「協力」だった。


そして、ついに機械音声が響く。


「条件達成を確認。全員の酸素残量、最低限に到達。試練クリア。」


直後、空間が歪み、三人は次の階層――

『記憶のケージ・オブ・メモリーズ』へと放り出される。


カンナは荒い呼吸を整え、虚ろな目で呟いた。

「……この街、私たちの心理を試してる……。」


ジュードは銃を持つ手を強く握りしめ、サクヤは薄く笑ったまま、次の狂気を待っていた。



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