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十話 たくあん、好きそうだもんね

「以外と早かったな。要するに面接官(オレタチ)狙いってこった。それはよう、つまり勝てると思ってるって事だよなぁ。普通に一時間、逃げながら探したほうがお前のためなんじゃなえかな」


 黒いスラックスパンツに白いシャツを入れ込みくたびれたネクタイを締めている男──守川男志(かみかわだんし)。外にいた彼らと同じようなジャンパーを羽織っている。背丈は百七十センチメートル前半。年齢は二十台前半で、目つきは鋭く、両耳にリングのピアスをしており、リーゼントの髪型は茶色に染められている。


「早めにクリアしたいんだ。そのための面接官(アンタ)だ」


「試験会場に入ったら挨拶、そして名乗る! これが基本でしょうがぁぁ!」


 激昂し、怒鳴り散らす守川。同時に体から怒りのようなオーラが沸々と湧き出る。桃里はその凄みを肌で感じ取った。


「それもそうか……星南桃里です! 趣味は映画鑑賞。神威が第一志望です! 座右の銘は、先手必勝」


 そう言うと空手仕込みのステップで守川へと距離を詰める桃里。すかさず左右でワンツーパンチ。


 しかし、守川は桃里の呼吸を読み、柔らかな腰を使って避ける。そして、桃里の打ち終わりの隙を狙った右のボディフック。桃里は辛うじてこれを避ける。


 桃里は自分でも気が付かないうちに男の圧に萎縮して、少し離れた位置から攻撃を繰り出した。しかし、結果的にその僅かな距離感で守川のカウンターを避ける事に成功した。


「大口の割にはビビりじゃあないか。もう少し話をしていけよ。まずは志望動機!」


「真実を知りたい。あと、宇宙人をぶっ飛ばす! それに、シルヴィアさんにこの戦いを終わらせるって言っちゃったから、男に二言はないだろ!」


「悪かない答えだ。だが、軸は一つに絞れ! お前の中で一番強い思いはどれだ?」


「復讐……!」


「六階だ! そこに木箱はある。……どうする? やるか?」


 守川はにやりと笑う。桃里の答えを気に入ったらしい。そして、両者、戦う動機を失う。それでも、桃里は戦う事を選ぶ。そうでなければ、強くはなれないと考えたから。


「うん。戦う。正攻法で勝ってこそだろ。今の情報は聞かなかった事にするよ」


「俺の名前は守川だ。てめえのその言葉クールだぜ。フェアにいこう、一本勝負だ」


「夜露死苦ってやつだね。先輩」


 ──戦法は変えない。相手に対応される前に流れを自分のものにして、押し切る。


 守川と対峙する桃里は足腰の脱力からストンと態勢を下げる。そして、そのまま筋肉の収縮。守川の視覚外から攻める。


 刹那。守川の視界から消えた桃里。しかし、彼は驚きつつも構えを崩さない。桃里の放たれた左拳を冷静に掌で受ける。


 拳を掴まれた桃里。守川の意識は彼の上半身に集中していた。


 守川の足を狙った桃里のローキック。筋肉と骨のぶつかり合う音。歯を食いしばる守川は痛みに耐える。


「あっぶねえな!」


 喋る余裕を見せる守川は桃里の蹴りを一蹴する。依然、彼の拳を掴んだままだ。すると、守川は桃里の顔に頭突きを喰らわす。


「いてっ! ……まだ離すなよ」


「離さねえよ!」


 負けられない意地の張り合いがそこにはあった。桃里はやり返すように頭突きを守川へと繰り出す。


 頭突きの鍔迫り合い。


 ──分かりやすい直情型。乗せれば乗せるだけ、引けなくなるタイプ。だからこそ引く。


 桃里は全身の力をひと思いに抜き、一歩後退る。前に踏み込んでいた守川はバランスを崩し、一瞬、体勢がふらついた。


 焦りの表情を浮かべる守川。そして、掴んだ桃里の左手を守川は離した。


 ──狙い通り。


 男が地面へと叩きつけられ、固い空気の衝撃音が響いた。天井を仰ぎ見る守川。そして、勝者として立つ桃里。


 守川が態勢を崩した一瞬の隙。桃里は左手で守川の襟を掴むと。すかさず、空いた右手で守川の腕を掴み、背中で抱え一息で投げ飛ばした。


 背負い投げで飛ばされた、仰向けで横たわる守川。綺麗な背負い投げ。両者の勝敗はつき、守川は敗北したが、嬉しそうに笑う


「やるじゃねえか! 早くクリアしろよ! さっさと六階へ行け」


「とりあえず俺の一勝ってことで!」


「はっ! 抜かせ。仲間になった奴とは戦わねぇよ」


 実に清々しい男だと桃里は笑った。守川に背中を押されるように颯爽とエレベーターの前へと歩く桃里。エレベーターのボタンを押す。


 いつもの焦りならエレベーターなど待たずに階段を使う桃里であったが、今後の戦闘を見据えて体力を温存する事を選択した。


「エレベーター使うのかよ! よくわからねぇ漢だぜ。ったく!」


「たくあん、好きそうだもんね」


「適当にしゃべるなよ! ったく! で沢庵連想するやついねぇよ。あと、それギリギリ悪口だからな!」


 ベルのような音を立ててエレベーターが二階へ到着すると、桃里は速足に乗り込む。


「それじゃ! 次ぎあう時は仲間だ」


 桃里はそう言って左の親指をグッと立てる。そして、エレベーターのドアは静かに閉まった。


皆さま読んで頂きありがとうございます。

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