第三話 部活選択
前回、僕とゼスくんは剣道部主将、元第21位の先輩の元を訪れた。
21位はゼスくんのパンチで気絶、ゼスくんは新たな21位となった。
そうなると当然、クラスからのゼスくんの印象は大きく変わる。
「ゼス…様…」
「うん?」
「あの、我々をどうか”舎弟”に置いてくださらないでしょうか?これ!”焼きそばパン”です。」
「あ!どうも…」
この学園では非公式な殺し合いが多発する現状、弱者は強者の下に付きたがる。
お伺えを立て、ごまをすり、そうして安全を得ようとする人は多い。
しかし…
「パンありがとう、でもごめんね、俺はそう言うの…興味ないんだ…」
ゼスくんは席から立ち上がり、その場を立ち去った。
「ゼスくん、よかったの?」
「…別に俺は正義のヒーローじゃない、他人の命のために組織を気づいて護るなんてカッコいいことはできないし、それと…」
「それと?」
「…俺、人付き合い苦手なんだ…」
「あぁーあー…」
ゼスくは、少し人見知りのようだ。
《体育館》
「えぇー本日、新入生の皆さんに集まって貰ったのは他でもない…」
今日は、僕ら新入生の部活動選択の日だ。
今日この体育館で、部活事のPRが挟まり、それを指標に今日から一週間以内に部活見学
その経験を元に、これから3年間(死ななければ…)所属する部活を正式に選択することになる。
「ゼスくんはどれにする?」
僕は前回の21位対ゼスくんの戦いより前までは、必ず剣道部に入ろうと思っていた…。
しかし、今はゼスくんに教えてもらった技をいくつか練習して剣の腕を磨いているので、
それは必要ない。
「うぅ~ん…入らないってのは?」
「ゼスくん、先生の話聞いて無かったでしょ。この学院は”絶対”一つは部活動に所属するのが決まりだよ。」
「えぇ~めんどくさい。」
「全く君は、本当に意欲に欠けるね!」
ゼスくんは、めんどくさがりで若干出不精気味なので、早く家に帰って充実な睡眠をとりたいらしいが…
残念ながらそんな部活はない。
「あ!これ、これにしよう。」
(え!あった。)
僕がそう驚くその場所は、”帰宅部”の部室。
「帰宅部って…部活なの?」
「部室があるんだから、部活だろ。てことで…」
「ちょっと!ゼスくん!」
「失礼しまぁーす。」
帰宅部部室、こんな部活があっていいのか?と戸惑う僕をよそに彼は部室の扉を開いた。
「うむ、いらっしゃい、入部希望の新入生諸君。ここに来ると言うことは、随分と意欲に欠ける人間性をしていることは、理解しているよ。それとも?何らかの事情で、アルバイトの希望でもあるのかな?」
「いえ、意欲がないです。正解です、なので早く入部させてください、そして早く帰らせてください、眠たいです、ぶっちゃけこの会話もだるいです。
「ゼスくん!一応入部する部活の先輩なんだから、正直すぎるのは考えものだよ。せめて発する言葉ぐらい選んで…」
「いや、問題ない。僕は意欲に欠け、怠惰で、我儘な人間が大好きだ。紹介が遅れたね、僕はこの帰宅部の部長…”久我・キリシュティーナ”だ。」
久我?大日からの留学生だろうか?いや、名前の響き的に留学生ではなく…
「あぁーそこの君、随分と鋭いね。僕はハーフだよ、ハーフ、ここと大日本帝国のね…」
驚きを隠せなかった、久我部長もまた、僕の心を読んでいる。
ゼスくんと同じ、”読唇術”の使い手であることに…
「すまない、無駄話が多くて…部活の性質上、ここには人が少ないからね、久々の会話に少々興奮してしまって…」
部長さんは丁寧なもの物言いでそういった、それにしても話し方の気品に対して外見が…
「君…そこの白髪のちみ…随分と失礼じゃぁないか、僕の外見を笑うかい?」
小太りで無造作なボサボサの髪…そばかす…って!こころ読まれてるんだった。
「そうだよ、全く失礼してくれる。」
「あの…」
ゼスくんが早くしろよ…的な目で僕らを見ている。
「あぁーすまない、僕はどうも話過ぎてしまう性分でね。とにかく、部活動に入部する以上…入部試験を受けてもらう。」
「帰宅部に!?」
「入部試験!!!」
あまりの驚き、あまりの衝撃に、僕ら二人は目を点にしてその場に立ち尽くした。
「あたりまえ…じゃぁーないか、ここは神聖な部活動の場…まぁー本当はあまりに入部希望が多すぎて、生徒会から選別しろと注意を受けたから作っただけなのだけど…」
「ぶっちゃけますね…」
でもこれで納得した、確かにこの学院に通う生徒の多くが親元を離れ、こちらに引っ越して来た者が多くいる現状、部活に性をを出すよりも、アルバイトをしたいはず…。
「それに、遅くに帰れば襲撃を受ける危険性もある…」
「そうだね、命を賭けたこの学院生活に置いて、我々は自身の安全を気遣わなければならないし、襲う側も、周囲の状況が見えにくい夜の方が襲撃のリスクが低くなると言うもの…それだかこそ、この部活は多方面の意味でアドバンテージになる…」
何より、部活動に入ろうが入るまいが、超能力者の試験には一切に関わりのないこと…ならば無駄に襲撃のリスクを上げ、かつバイトの時間を喰う部活動の時間は極力比重を軽減させた方がいい…
「それで…試験て何ですか?」
「それはね、簡単さ…”この僕より先に、自身の自宅に付くこと…”…」
「はい?」
「それじゃーはじめぇ!」
先輩は消えた、一瞬だった、手を叩いた瞬間、その場から姿が跡形もなく消えたのだから…
((異能力!!!))
僕ら二人で、同時に同じことを考えた、そして各々が急いで自身の家に走り、辿り着いた。
「随分と…遅かったじゃないか…」
ターゲットは最初から、ゼスくん一人だった。
「先輩…」
なぜなら、僕は簡単に、普通に家に帰って終わった試験…
しかしゼスくんだけは、帰るとそこに、いつもゼスくんが暇をつぶすゲーム機の前…
自身が座ってゲームやテレビやSNSを見聞きし、寝静まるそのベットに…
「君は”不合格”だ…ゼスティエル・ベンジャミン・デェス・グラットくん…」
先輩は座って、ゼスくんの部屋の本棚から漫画を取り、読んでいたのだから…
「残念だが、別の部活を…」
「もう一度!…もう一度だけやらせてください…」
これは後からゼスくんに聞いた話なのだけれど、この時ゼスくんは、いつもの余裕をかいて焦り、先輩に懇願したと言う…。
「ダメだね、チャンスは一度きり…」
「それは!」
当然、屁理屈もごねた。
「”今おっしゃった言葉ですよね?”」
「…確かにそうだね、僕は先ほどは言っていなかった、チャンスが一度なんて…じゃー戻ろうか…」
先輩がそう言った瞬間、僕とゼスくんはいつの間にか、先輩と共に部室へ戻されていた。
((空間操作!!!))
「あたりだよ、二人とも、ベイルくんは合格おめでとう、これからよろしくね…」
「うっす!」
「そしてゼスくん、二度目のチャンスでラストチャンスだ…君らの住所が僕に知れていることはよくわかったと思うが、ルール通り僕より先に帰路につけ、できなければ不合格だよ…今度こそ…正真正銘ね…」
「はい…」
先輩の目は力強かった、あのゼスくんが固唾を飲んで「はい…」と答えるしかないほどに追い込まれている…。
「それでは僕のこの指が”パチン”っと!…言うのが合図だ…よぉーい…」
(パチン!)
「スタート…」
これは後から久我部長から聞いたことだが、先輩がスタートと言ったのは、すでにゼスくんの家についてからだと言う…。
「これで僕の勝ち…またつまらぬ勝負だったよ、どうせ僕が勝つのだから…それじゃー次はどの漫画を…」
久我部長から聞いた話だが、久我部長がゼスくんの家について再び漫画を読もうとした時…
「随分と…遅かったですね…”部長”…」
そこに、先ほどまで自身が腰かけたベットにはすでにゼスくんの姿があったと言う。
「まさか…」
しかし、その風貌は大きく異なっていた、それは古めかしい黒い鎧。
僕の生まれた英国で言うとこの、黒騎士といった風貌の鎧に身を包み、しかしその節々に近代的な謎の噴射口があったと言う…
「”超速移動”…か…」
「正解です、そしてこれで…”文句”は…ないでしょう?」
「合格だよ、ゼスティ…」
「ゼスでいいです、時間の無駄なのでいちいちフルネームでなくて結構です。」
「そうかい、それは失敬、それにしてもその鎧…」
これも後から久我部長から聞いた話なのだけど、先輩はメカが好きらしく。
ゼスくんの鎧の構造に興味を持ったらしく、聞こうととした、触って確かめようとしたがその瞬間。
「無駄話はいい、早く帰ってください。帰宅部の目的は速く迅速に正確に…家へ帰宅すること。帰宅とは家とは、やすらぎの場所であり自身を誰も脅かさない絶対のパーソナルスペース…招かれてもいない部外者はとっとと出て行ってください。お願いします…」
丁寧とは程遠いものいい、それに部長は激怒するかと思ったが…
「そうだね、君とは本当に気が合いそうだよ。自身の世界を邪魔されたくない、触れられたくないと言う思い、一人を楽しみ、一人を好む…正真正銘合格だ、ゼスくん。これから、会う事は少ないと思うが、ぜひともよろしく…」
そう言って、ゼスくんの家から先輩は一瞬で消え…
「はぁー…」
ゼスはやっと、その心を落ち着けられたと言う…
《生徒会室》
「すみません生徒会長…」
「失敗…したのか?」
「はい、彼の優秀さは目を見張るものがある…そうおっしゃられて何とか入部を阻止しようとしたのですが…」
「まぁーしかたないさ、予想以上に…彼の力は強大なようだからね…」
「はい、恐れ入ります…では…」
先輩はゼスくんの家から帰還後、直ぐに生徒会室に空間移動で飛んび、何らかの怪しげな会話をしていたと言う。
「ゼスティエル・ベンジャミン・デェス・グラット…魔王の孫か…」
そして、生徒会長は怪しげに微笑みながら窓の外を見ていたのだった。
「おい!」
その頃、僕もとある生徒に因縁を付けられ、校舎裏へと呼び出されていた。
「お前、随分と第21位の中がいいみてぇーじゃねぇーか…」
「はい、そうですが…」
始めて、初めての戦闘の申し込み。
「俺とやれ、もちろん公式戦じゃねー…俺ら…格落地どうし出しな…」