第二話 水神の剣
”格付祁”、この学院全校生徒実に千と数百人…
全員が”異能力者”と言う脅威。
国はそれを統括し、一つの学院に集め、個々の能力を選定し、”格付祁”を付ける。
それは国にとっての脅威度を示すと同時に、異能力者個人の実力を表す。
一年生全800名、二年生全322名、三年生…全10名。
最底辺である千位未満は格落地と呼ばれ、上位10名を…
”天限”と呼ぶ。
そしてあの日、入学初日にゼスくんが倒した彼…
キル・デンジャーの順位、30位。
天限の少し下、上位ランクの三年生。
それを入学初日で倒したその実力…
今や、全校中に…
その正体と共に知れ渡った。
《生徒会室》
「あいつが…噂の魔王の孫か…」
ランキング二位、天限
役職生徒会長、学年三年生。
ナイト・レイド 18歳。
《二年生教室》
「へぇー彼が噂の…」
ランキング21位、上位格付祁
役職剣道部主将、学年二年
牙・研正
「僕も…戦ってみたいものだね…」
この学園の最大のタブー、それは目立ってしまうこと。
この学園の卒業試験は三年の夏、それまでに皆が他者を蹴落とし合う殺し合いが勃発する。
一年生の内に半数以上が消え、三年までに残るのはわずか…両手の指ほどの数のみ…
そのため、学年が上がれば上がるほど、強さは増していく。
それが初日に、ランクは一番下とは言え、三年生まで生き残った彼を…倒してしまうのは…
流石に、”悪手”としか言いようがない。
「これから…どうする気だい?…ゼスくん。」
「どうするもこうするも…面倒事を避ける。そのためのマスクだ…」
「だから!そんなものじゃ、誤魔化せないってぇ!」
彼はふざけているのか?余裕を見せているのか?それともたんに天然なのか…
ずっとこの様子で、目立ちたがらない。
”が”…
彼の噂はもう全校に流れた、きっと狙われる。
「頼もうぉ!」
ほら、言わんこっちゃない。
早々に他学年から一年A組のこのクラスに、殴り込みが入った。
「このクラスにいるぅ~ゼスティエル・ベンジャミン・デェス・グラットくぅ~んってぇ~…どこにいますかぁー…」
「はい…」
彼は迷わず出た、二年生の先輩の目の前に堂々と!
「でっけ!」
「でもまぁーどんだけ体格が良くたって、図体がデカくたって…所詮は無能力者ぁ!?」
一撃だ、またも一撃、無能力者である彼は、異能力者同士の果し合いのルールを知らない。
「兄貴!」
「おいテメェ―!まだ兄貴は構えてすらいねぇーのに!」
そう、異能力者同士のランクをかけた果し合いでは、生徒会を交えた場で、一体一のタイマン。
両者がお互いの異能力を見せ合ってから始めるのが基本。
しかし…
「正面玄関から堂々と挑戦状叩きつけて来て、構えてねぇーもクソもねぇーじゃないっすか。先輩方…。」
そう、彼はランクに興味がないのだ、だから公平な場など設けない、しかし…
「お前馬鹿かぁ!」
「はい?」
「この学園にランキングシステムがある理由、それは三年生までに、上位30位以上に入らない奴は全員
落第で試験も受けられない。卒業後、超能力者になるチャンスを永遠に失うだよ!」
「うん…そうすか…」
「だからお前は、兄貴との果し合いを受けるべきだったんだ。これからは気負付けるこったなぁ…」
「それで、そこの倒れてる先輩の順位は?」
「それは…」
「211位…テラ・キンバー・アデク先輩ですよね。」
そう、三年生までに30位以上と言うことは、30より下の人を倒しても意味はない…
「だったら、公式バトルしても意味ねぇーじゃん。他を当たるわ…」
しかしどうしてそれでも、下位の者同士での潰し合いが起きるのか…
それは…
「30位、それは三年生までに達成していればいい目標、上位の強者を倒すのが不可能と判断した者達は、他者の数を三年生までに減らして、最終的な人数を減らし、自身の低い順位の繰り上げを狙っている。」
そこに現れたのは、生徒会の先輩だった。
「初めましてゼスティエルさん、わたくし…生徒会書記、ミラ・ジャスタ・ウェイと申します。御見知りお気を…」
「どうも…」
僕はその瞬間、冷や汗が止まらなかった。
礼儀正しく挨拶をしたその人は生徒会…ほとんどが三年生をしめる天限の中で数少ない二年生のランカーの彼女が…
「まさか!?…ゼスくんを潰しに…」
「まさか、わたくしは天限…経歴から見て、確実にのちの脅威になりえる逸材とは言え、新入生を入学して一週間もたたぬうちにその根をつむほど…不作法ものではないつもりです。」
「じゃーなんで…」
「あれ?お忘れですか、わたくしは生徒会、ランキング制度の審判者…才能あるものにチャンスを与えるのもわたくしの務めと思っております故…」
「チャンス…」
「どうですか、ゼスティエルさん。”格上解”に…挑戦してみる気はございませんか?」
格上解…
それは、総合ランキングを潰し合いによって三年生までの最終人数を減らすと言う弱者の悪知恵ではなく、堂々と、ランキングトップに殴り込みが出来る唯一の手段。
一定の実力を示さなければ、そのチャンスすら与えられない。
だからこそ、その実力を生徒会に認めさせるためにも、この学園では潰し合いが絶えないのだ…
「俺が…」
彼は受けるのか!?誰もが喉から手が出るほど欲する最大のチャンスを!!!
「えぇ~めんどくさい…」
断ったぁぁぁ!!!
「あら、でも良いんですか?ゼスさん…」
「何がですか?」
「30位を倒したとは言え、非公式、それに貴方、彼にとどめをささなかったそうですね…」
「あぁー。」
「それじゃぁー意味がない、意味が全くない、当然非公式な場ですから、順位の変動はなく格落地のまま、しかもとどめをささなかった事で彼は今だ30位の座に居座っている…。仲間と共に…」
「どうでもいい…です。」
「良くないでしょう、あなたは力を示しにこの場所に来たはず。格落地のままではあなたは政府にその優位性を見せつけられず…”和平”交渉は決裂、貴方のお爺さんも予定通り…」
「…」
「改めて聞きますが…本当に良いんですか?チャンスを摑まなくて…」
「…」
迷っている、彼は迷っているのだ、正直戦いに消極的な彼だが、こればっかりは自信と祖父の命に関わることだから、だからこそ自身の心を度返しにしててでも受けなければならない。
この学園の卒業は、彼にとって超能力者を目指す学び舎ではない…
”和平のかけ橋なのだ…”
「分かりました…受けます…」
「それでは、実力30位相当の貴方に相応しい対戦相手は…」
そして来た、剣道部の畳の上…
「僕、入学したら、剣道部に入ろうと決めていたんだ。だから…こんな形でここに立つ事になるなんて思わなかったよ…」
「肩の力を抜いた方がいいよ、クラスメイトくん…」
「僕の名前はベイル・マクレガー・マクスウェイだよ!」
「そうかベイルくん…別に君が戦うわけじゃないんだから…」
彼は堂々としていた、動揺も迷いもなく、いつも通りのけだるげな感じで道場に入っていく。
「おっと…来たね…」
【ランキング21位 牙・研正】
この国で、他国から伝来した剣道と言う戦闘術、それをこの国一操る者…
「大日本帝国からの唯一の留学生…」
「君の剣、少し見させてもらった…あれは”武士”の動きだった。」
「はい…私の祖父が、赤の国の出身でして、昔東洋の国ならった剣術と母国の剣術を混ぜて編み出した独自の流派だと…言っていました。」
「そうかい、僕もそれには少々の興味がある。ぜひ手合わせを…」
「そのつもりでここに来ました。」
両者は構えた、凄い殺気だ。
先輩はやはり凄腕、構えただけでそれが伝わる。
だが、ゼスくんも負けてはいない、自身の愛刀を構えるその姿はまさしく武士。
(僕もいつか、あれに並べるぐらい強く…)
僕の国、西洋の英国にはで習った”騎士”の剣。
それとは異なる二人の戦い、僕も勉強をしなければならない。
この場で見て、盗む。
そのために来たぁ!
そう…張りきったものの…
「始め!」
生徒会書記、彼女の号令と同時に始まったその戦闘は…
未熟な僕の目には、映ることすらない景色だった。
「はぁ!」
青い閃光、両者お互いの”もの”を抜かない。
が、強い。
威力にして、畳をえぐり、地面に大穴を開けてしまうほどに異次元。
「…」
無言…故に精確!
まるで機械のように相手の急所を狙う殺人の剣。
「流石…赤の国の剣、東洋の技とは一味違う…」
「剣を抜いてください、でないと…」
「”殺して”しまう…かい?」
その瞬間、先輩は不適に笑った。
そして今の数瞬で察し、剣を抜いた。
すると剣の形状が大きく変わり。
「”水流斬鉄”」
形状、歪!あまりに奇怪なそれは、剣とも刀とも呼べない代物…
「どうしたのかな、ゼスくん…」
先輩が、そう発した瞬間。
(!?)
先輩の姿が、この場の全員の視界から消える。
(どこに行った…)
ゼスくんが迷っていると、その首筋に鉄の感触…
「この美しい剣のデディールに…見とれてしまっていたかな?」
「ゼスくん!!!」
飛んだ、首が飛んだ、その場の誰もが叫びを上げる衝撃の映像…
しかし!!!
「あぁーすみません、昼に飲もうと思ってた”トマトジュース”…服のポケットに入れてたの忘れてた…」
ゼスくん、間一髪で回避、上着を脱いで戦闘を続行。
しかし…
「流石、流石、でもすまないね、この剣を抜いた時点で君の負けは決定している…」
「え?」
「だってこの剣は…」
その剣の仕掛け、見ていた僕にはわかった。
水流斬鉄は、水のように華麗に舞うように動き、その複雑な形状は、振るわれた大気中の空気の流れを操り…
「それらが”風”となった、敵の動きを操る。」
風、それは物体を拒む最大の見えない障壁、強い逆風は人の道を阻み、爆風となれば人を遥か彼方に吹き飛ばす凶器。
水のように軌道を描くそれは、水ではなく風を生みだす兵器。
彼の異能はそんな力を持った剣を手元に出現させてる能力、それが生み出す強風に、自然とゼスくんは動きを制限され…
「動きがわかっているのだから、斬るのは簡単…」
操られるがまま、それを支配する先輩に斬られる他なし…
「そういう”種”か…」
その仕組みを知った、ゼスくんの次にとった行動は…
(キン)
「なぁ!」
刀を、素手で止める。
「馬鹿なぁ!鉄おも切り裂く刃だぞ!素手で触れれば一たまりも…」
「見てみろよ、先輩、これが素手に見えるのかい?」
それは素手ではなかった、よく見るとそれは…
「鎧?」
「俺の妖刀、村正の鞘、これは鞘じゃない、”甲冑”さ。」
「ありえない!どう見たって質量が…」
「おっと、異能蔓延るこの国で見た目の質量なんかがそんなに大事か?…この剣はな、爺ちゃん曰く数百万を超える魑魅魍魎の”怨念”を小さな小さな剣の形状に圧縮した代物。だから、見た目以上に大きいし、その能力も多岐にわたる…」
無茶苦茶、なんでもあり、後出しジャンケン、意味不明。
でもそれがまかり通るのがこの世界、異能殺しと呼ばれた最強の無能力者が振るった兵器の正体。
その底は今だ見えないが…
「そうか…取り合えず、今は言及は止そう、取り合えず君を倒す。そのために…」
先輩は剣を消した、そうだ、先輩の能力はその手にいつでも自身の剣を出し入れできること…
それは例え剣が奪われたり、摑まれたりしても…
「一度消してしまえば問題ない!」
出した、剣を出して突きをした。
彼の心臓目掛けて迷いなく…
しかし…
「先輩、もうその剣の軌道は見飽きました。」
剣の軌道、風圧、突きをすれば遥か彼方に吹き飛ばされるはずの所、彼はそれを止めた、その片腕にのみ纏った鎧の欠片で再び止めた。
「な…」
「次はこちらから…」
鎧、それを纏った手、それが止めている剣の先端を押し返すと、
あの頑丈そうな鉄の塊、いやそれより遥かに硬度な剣を、いとも容易く破壊した。
「こんなぁ…」
駆け巡るひび、崩壊する剣、その光景に先輩は絶望…
「まだ…やりますか?」
怒り、先輩は激高し彼に蹴りかかろうと飛び上がったが…
(ダン!)
彼は蹴りかかった先輩の足を、例の鎧を纏った片手で思いっきり殴り、足を折る。
「うわぁぁぁ!!!」
泣き叫ぶ先輩、ランキング21位がこのざまである。
「凄い…これが…ゼスくんの強さ…」
僕はこの日を境に、剣道部に入るのをやめた。
「ゼスくん!」
「なに?」
「僕に!戦い方を教えて欲しいんだぁ!」
僕は、彼の剣を習うことにした。