笑ってはいけない婚約破棄
年内間に合いましたー(´∀`*)
しょーもないお話でえせ関西弁注意ですすいません!
よろしくどうぞです〜!!(*´∀`*)ゞ
——妖精には気をつけて——
——妖精が見えると気付かれてはいけないよ——
——だって、
つれていかれてしまうから——……
「メリッサ・マルガス!貴様との婚約を破棄する!!」
王宮での夜会、一人壇上に立つ王子は叫んだ。
「殿下、婚約破棄とは?」
指をつきつけられたメリッサは、いつもの如く淑女の鏡と言われる佇まいのまま、静かに尋ねた。
「そういうところだ!貴様のそういうところが気に食わんのだ!!
その冷徹な表情!!貼り付けたような笑み!!
心のかけらも感じられぬ!
せめてすがってみせれば可愛げもあろうに、そのような温かみのない女など国母たりえぬ!!」
「それはー……」
メリッサは唇を噛んだ。
王子はフンスと喜んだ。悔しがってる〜wwとなっていた。
周囲の貴族たちはざわざわとしつつあまりの事態に視線をあちこちへさまよわせている。王子に対峙しているメリッサはそうはいかない。きっと目に力を入れる。
王子の横には美しい少女がいる。可憐なドレスに身を包んだ、一目見れば心奪われるような愛らしい——
……しかし、ちょんまげの。
(あれは……東方の国の風俗のはず。なぜあのような……?)
メリッサは考える。警戒している。
王子は横にはべるちょんまげ娘を少しも気にせずメリッサをせせら笑った。
「貴様は学園でも同窓の子女たちにその鉄面皮を強い、少しでも自由な感情をあわらそうとするものを叱責、果ては打擲していたな!我が目を逃れられると思うたか!そのような女——……」
ちょんまげが伸びた。
「ぶふっ!!」
デデーーン!!
『リンドル子爵ーー、アウトーーー』
メリッサははっと振り返る。
その背後のちょんまげ娘がリンドル子爵とともにきらきらと消えていく。
「ああそんな…!!あなた!あなた!!」
「お父様ー!!」
嘆いているのは子爵夫人とその子であろう。
「くっ……!!」
メリッサは伸びちょんまげに乱された心を整えるべく、息を整えた。
——この国には、妖精がいる——
妖精たちは加護を与え、国を富ませる。
しかし妖精たちは、お友達を欲しがるのだ。
妖精が見えていると気付かれれば、彼らの世界に連れて行かれてしまう———……
それはこの国に古くから伝わる言い伝えである。
実際にはこの国の貴族には皆妖精が見える。それが貴族たる条件でもある。
しかし、妖精が見えていると気付かれれば、彼らの国へ連れて行かれてしまう。
だから、妖精にお願いをするには決して彼らに目を向けず、中空に向かい願い事を言うのがいい。彼らの行動に心乱してはいけない。
妖精たちは奇怪な行動…主に笑わせるような行いをを多々とるが、それに反応すれば——先ほどのように、デデーーンというどこからか聞こえる天の音とともに、連れ去られてしまうのだ。
ゆえに、この国の貴族たちは妖精に気取られぬよう、常に無表情なのだった!
メリッサが学園でまだ未熟な生徒たちを叱責などしていたのも、その為である。
あわや!というところで打擲され、笑いを堪え妖精に気づかれなかった生徒はメリッサに感謝している。しかし——……
(多い!いつにもまして——…!!)
メリッサは歯噛みする。妖精たちが常より多い。いつもなら「場」に現れる妖精は一人。それをやり過ごせばその場はしのげるのだ。しかし既に王子の横には次の妖精が現れている。
端正な顔立ちの、夜会服を着て穏やかに微笑む紳士である。
それはメリッサを罵倒し続ける王子の横でただ静かに佇み、じっとしている。
(一体何をするつもり…??)
メリッサは警戒する。
「…と、以上の理由で、貴様は俺の婚約者にふさわしくないの——…」
だ!のところで紳士がくるっと背中を向けた。
けつ丸出しであった。
紳士の服は前方しかなかったのだ!!
「くっ…!!」
メリッサは耐えた。耐えて——はっ!と気づいた。
紳士の尻に割り箸が挟まっている!!
パキッ!!!
箸が割れた!!
尻の力で!!
「ぐぶっ!!!」「ぶっ!!!!」
デデーーーン!!!
『ナントカ男爵ーカントカ令嬢ーーアウトーー』
「くうっ…!!」
メリッサは喋れない。必死に口の中を噛み素数を数えている。
集まった貴族たちも皆必死にぷるぷると震え、なんとか堪えている。
ただ一人、王子だけは——……
「ちちうーー…国王陛下も、そう思われるでしょう!!」
平気の平左でのたまった。
国王夫婦もこの場にいるのだ。
入場してすぐなんかはじまったので壇上にはあがっていない。みんなと王子を見上げている。それでいいのか国王。
そんな国王陛下は真っ赤な顔でこくこくと頷いている。陛下はゲラなので妖精のいる場では全く喋れなくなるのである。口を開くのは危険だ。
一方王妃は——……
(さすがだわ、王妃様——……)
ただ穏やかな笑みをたたえにこにこしていた。
この王妃は国政には向かないからと口を出すことはないが、妖精の行いに少しも動じない強い心を持つ姿で尊敬を集めていた。
その息子である王子もまた、王妃譲りの強い心をもち、真横で妖精が尻で箸を割ろうとも少しも動じることがない。
メリッサも、幼い頃の出会いから、親に決められた婚約に反抗し八つ当たりをしてくる王子を全く好きではないが、その強さ、豪胆さを尊敬はしていたのである。これであほじゃなけりゃなあとは皆の思うところであった。
その王子はいまだぺらぺらと何かを喋っている。止めるものがないので増長していた。
そこへ新たな妖精たちが現れた。小さな子猫ほどの大きさの、三角帽をかぶったいかにも妖精妖精した可愛らしいこどもたち。六人ほどが王子の横に並んでふわふわしている。
その妖精たちがすーっと息を吸う動作を見せた。
(喋るタイプか!!)
メリッサは腹に力を込めた。一体何を……
「「「どゅーーーわーーーー♩」」」
見事なテナー!バリトン!バス!
「くっ!!」
小さく可憐な妖精たちから発される低音ソングはメリッサの頬を振るわせた。しかし、耐えられないほどではない。他の者たちもそうだ。長年妖精の所業を耐え切ったつわものたちだ。第一声をのりきればなんとかなる。小さな妖精たちが歌い終わった。
きりぬけた——……
ほっと息をついた瞬間——
「……であるからして、悪女メリッサよ!貴様には国外ちゅいほうが相応ちい!!」
「ぐぶっ!!」
王子が噛んだ!!
誰も聞いていないのにぺらぺら喋る王子が噛んだ!!
それは妖精の攻撃に耐えぬき安堵した者たちへのあまりにもあまりな仕打ちであった!!
デデーーーン!!
『マルガス婦人ーーアウ…』
お母様!!?
「ほーーーーほほほほほほ!!!!」
メリッサは高笑いした。
「「「!!!???」」」
一同ギョッとした。まだいた小さな妖精たちは、先ほどまで誰も気づいてくれなかったというように落ち込んでいたが、メリッサを見て目をキラキラさせている。相性のいい子が見つかった!てなもんであろうか。
『メリッサ・マルガスーーアウーー…』
「あーーはっは!!あーーおかしい!!国外ちゅいほうですって!!相応ちいですって!!!殿下ったら!!
笑ってしまいますわーー!!思わず笑ってしまいますわね!!ねえ皆さん!!!」
一同ははっとした。
母の危機を悟ったメリッサは、咄嗟に妖精のせいで笑ったんちゃうぞ!王子やぞ!!と主張したのだ。
天の声は沈黙し、メリッサとその母は消えることなく、小さな妖精たちは消沈した顔で消えていった。
それを確認した一同はーーー……
「わはーーーーーーはっはーーーーー!!!!まったく殿下は!!!」
「ほほほほほ!!!ほほほほほほほ!!!!!噛まれるなど!!!!」
「あーーーーはーーーーあーーーーはっはーーーーー!!!大事なとこで!!!!」
堪え続けたものを爆発させた。王子に罪をなすりつけながら。国王に至っては倒れ伏してひいひい言っている。
「なっ……!!き、貴様らっ……!!不敬ではないか!!」
王子が顔を真っ赤にして怒っている。それはそうだ。しかし——……
「殿下、いささかお戯れがすぎようというもの。
このような茶番ーー……」
メリッサがこの場を終わらせようとしたところで……
『どうも〜〜〜!!!』
さわやかな青年態の妖精二人が壇上に現れた。
「……っ!!!このような茶番!!我らをお守りくださる妖精様たちもご不快でしょう!!!今宵の宴はお開きにいたします!!陛下よろしいですねっ!!」
妖精を無視して早口で言い切った。
国王が口を押さえてこくこく頷いている。言質?はとった!!
「さあ皆様帰りまーーー」
『嘘やん!!もうしまいなん!!?』
妖精が慌てている。
『この日のためにめっちゃネタくってきてんけど!!?』
なんだこの妖精。そして王子はーー
「何を勝手な!!貴様にそんな権限はない!!
大体妖精だと!!?昔から気に食わなかったのだ!!妖精を理由につべこべうるさいこと言い合って!!そもそも…
妖精などいるわけないではないか!!!!」
しーーーーーーーん。
「は?」
『は?』
「殿下……それは……あまりにも……」
メリッサは愕然とした。
お前の横におるねんぞー。
『わしら存在せんのやて』
『泣いてまうわー』
『泣くと言えばこの間ーー』
「やかましい!!よいか皆知っての通りこの国は危機にある!!あまりにも多い行方不明者!!メリッサと他国の共謀によるものである!!
それを妖精のせいなどと!目に見えないだと!?そもそも存在していないからに決まっている!!
このような欺瞞許せるものか!!!」
どこからつっこんだら…
メリッサは目眩を覚え、しかしハッとした。
まさか……本当に見えていないのでは?
この国の貴族は皆妖精が見える。
見えないふりをしているが、妖精の動向を伺い、加護を願うためには見えていることが必要で、それが貴族の条件だ。
なぜ見えるかといえばこれは完全に血の問題で、彼らがその祖——はるか昔に妖精と信仰を結んだ聖女——を同じくしているからである。
つまり、その血をもたぬ平民に、妖精は見えない。
メリッサはバッと国王夫妻の方を見た。
王妃は男爵家の出身だ。当主が若い頃に手をつけた平民が密かに産んでいた子を、後に引き取ったという。
そのような出自だが、国王——当時の王子——と運命的な恋に落ち、結婚した。
これは国王が笑い上戸なためでもある。彼は周囲が笑いを堪えていると釣られて余計に笑いそうになるので、彼女の動じなさはありがたかったのだ。
王妃の母は平民だが、片方でも貴族の血が入れば妖精が見える。
平民に妖精が見えるものがあれば、それは貴族のおてつきと断言できる。
子供の頃には妖精が見えたとばれても連れて行かれることはないので、大人になると見えなくなるふりをするのが通例だ。それゆえ彼女も幼い頃に妖精が見えるか確認され、それで実子として認められたわけだが、それが勘違いかなにかだとしたら——……
そして、王妃の側には幼馴染だという護衛騎士が常にいた。王妃の助けになろうと平民ながらに騎士団に入ったという、妖精の見えない騎士が。
((((見えていないのでは!!!??)))
ほぼ全員が同一の結論に至った。
国王が笑いも忘れて王妃を凝視している。
(まずいーーー…!!!)
メリッサは必死で考えた。
王子が妖精の前で妖精を否定したのも問題だが、なにより妖精が見えていないのが問題だ。
王の実子でないこともそうだし、妖精が真実見えないことから王子が連れ去られた者たちに関してよくわからない結論をだしたのも、それをメリッサになすりつけたのもそう、そして、妖精が見えないもの——……
祖先の、聖女の血を継がないものに、妖精は加護を与えない。
彼を王にしてはこの国の加護が失われてしまう!
(だけど…!!妖精が見えないから王に相応しくないと言ったところで、殿下が納得するはずがない。
皆も見えていないと思っているのだから!
そして、それを否定し、私たちには見えていると言うこともできない。この場に妖精がいるのだから!聞かれれば連れ去られてしまう……!!)
どうすれば!!?
メリッサが必死に考えるうちにも王子はぺらぺら喋り妖精たちはなんか言っている。
「メリッサの悪辣なところはほかにもうんぬんかんぬん」
『ほなわしがコンビニ店員やったるわ、ウィーン、いらっしゃいませー』
『ウィーンてそれわしがやるやつ〜〜!!』
つまらん妖精であった。
メリッサは腹を決めた。
「殿下!妖精が見えないとは真実ですか!それでは王冠を頂くことはできませぬ!!」
妖精のつまらなさゆえ王子の話が耳に入り、なんでこいつにここまで言われなきゃならんのかとなった。積年のいらいらによりこいつ消すと決めた。
「何を!!真実に決まっておる!
祖先が見えるふりをしていたとしても——」
「そんな!!王家の直系は妖精が見えるはず!!それゆえ加護を頂けるのだと!!
まさかご存じなかったと!?
あれほど学ばれますようにと申し上げましたのに!!」
「なにを——」
メリッサは嘘を並べた。
王子に苦言を呈しては聞き流されていたのは事実なので、どうせばれんやろと思い、そして王子もまた、あれっそんなん言ってた…??となった。
「成人ころより戴冠までが最も見える力が強く、以後は加護のみが残るという王家直系の正しい血筋のみがもつ力——……陛下もお若い頃には妖精がお見えになっておられたのですよね!?」
「い、今はもうっ!!今はもう見えぬがなっ!!」
メリッサの魂胆がわからぬながら、とりあえず肯定しつつあせる国王。ちなみに王家の直系とか正当ななんとかと強調しているのは王族含め貴族みんな親戚だからである。それもまた王子は覚えているとも思えないが。
「そんな!?ち、父上嘘はーー…」
「真実ですわ!!
妖精が見えない、それすなわち王家の血を継がぬということ!!
は!そういえば王妃様は常に護衛騎士様を従えて…愚かな流言と思っておりましたがまさか…!!」
「母上を侮辱するか!!」
「ではなぜ妖精が見えぬのです!!
伝承によれば一目見れば笑ってしまうような朗らかさをもつといわれる妖精を!!
陛下のお子であるなら見えるはーーー」
「見えている!!!」
王子は叫んだ。
母親の噂は知っており、常から心を痛めていたことと、メリッサの勢いにより叫んでしまった。
「見えている!!先ほどまではえっとーーーあーー貴様らを試していた!!試していたのだ!!」
何をだ。
「えーーとーー!!貴様があれだ、我が妃に相応しいかどうかだ!貴様はまんまと惑わされ母におぞましい妄想で不敬を申した!!だめだ!!」
お母さん好きなんだなあと一同は思った。だめだが。
「だから!見えているのだ!!我が血統を疑うなど不敬である!!」
『なんや兄ちゃん見えとんのけ』
『なにそれ見えててわしらの漫才無視しとったん?ひどない?』
『せやから漫才こういうとこ向かんのやって。えろうお話しとったがな』
『はーー腕見せる場ぁがないがな。しんどー』
場ぁがあってもお前らは無理だとメリッサは思いつつ王子に言った。
「本当に妖精が見えてますの!?
でしたらどのようなお姿ですの!?
伝承にあるように一目見れば笑ってしまうような朗らかなお姿ですの?」
『わしらそんなおもろい顔しとります?』
『失礼な話やでー鏡が割れるほどのイケメンよ』
『破壊兵器やがな!』
やっぱ無理だなとメリッサは思った。
「見えているに決まっている!!貴様のごとき蛆虫には見えぬであろう!!
あー朗らかだ!!朗らかな姿だ!!まことに笑ってしまうなあ!!」
『ほないかせてもらいますー。
おならぷう』
「わーっはっはっはっーーーーー!!!」
デデーーーーーーーーン!!!
『王子ーー!アウトーーーー!!』
『もうええわ』
『ありあっしたーー』
キラキラキラ……
王子と妖精は光になり消えていった。
「殿下……」
メリッサは複雑な思いでそれを見送った。
夜会はそのまま急ぎ撤収となった。
王子はなかったことにされ、王妃は護衛騎士と共に罪人となった。王妃曰くなんか子供の頃からにこにこしてたらここまできてしまったのだという。ある意味すごい才能だった。
多くの犠牲をだした夜会だったが、いつまでも引きずってはいられない。
慌ただしい日々の中、メリッサは前を向く。
なぜならこの国には、妖精がいるのだから——……
『コインランドリーとかけて〜兵隊さんとときます〜』
『その心は〜?』
日々戦場(洗浄)です!!
♡!!完!!♡
♡妖精の国♡
『あかーーん!!あの国客重すぎひん!?』
『せやから言うてるがな!舞台に足向けとる客笑かしてこそ一流や!!見てみケツ割の師匠を!!』
『うわあーすごいトロフィーや!
かなんわーー。やっぱわしら漫才諦めたほうが……』
『何抜かすねん!!しゃべくり一つではっ倒す!!それがわしらの道やがな!!無理にもこっち向かせるまで腕を磨くだけのことやないか!!』
『…!!せなや!!せやったで!!
それにしてもあの国の連中、人界ではつーーんとしとんのに、こっちつれてきたらめっちゃ笑いよんな』
『それだけ人界の暮らしが辛いんやろ…。加護ったり加護ったり』
『せやな!!』
♡♡♡
実は妖精は貴族連中が自分ら見えてることは知ってました!!
笑わせ好きの妖精たちは、人間界におりてはネタをくりだし、笑ってしまった人間をトロフィーとして持ち帰っております。ろくでもない!!
トロフィーたちはぼちぼち暮らしていますが、ネタを見せられてはアンケートを書かされるのがちょっとしんどいそうです。
王子は妖精の国にいても妖精が見えず、ネタ見せしても意味がなく、トロフィーたちが王子あほだけど環境がわるかったよなあーと気の毒がってアンケートにあれ捨ててきたらどうです?とかいたため他の国のそのへんにポイされました。
妖精たちは今日もお笑いバトルを頑張っているのでした……
ありがとうございました!!(*´∀`*)ゞ




