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06話

(見つからない基本は気配を消すこと。)

 セシリアは店を出るときから意識していた。とはいえ、別に隠密スキルがあるわけではない。

 そもそもセシリアは自分の個人能力(スキル)が何かわかっていなかった。

 この世界で一人に一つ授かるというスキルは人生を左右することもある。神からの啓示であり道標とも言われている。


 セシリアは自分の将来が何に向かっているのか早く知りたかった。ただ、鑑定には結構なお金が必要で、大半の人はきっとこれが自分のスキルだろう、そうに違いないと思いながら生きていくことが多い。逆を言えばなんでこれが道標だと言いたいほどに、くだらないスキルが多いのだが、稀に大当たりして世の中に名を残す人もいる。


 セシリアは大当たりに期待していた。そんなスキルは誰もが夢見る幻想と友達は言う。しかしセシリアは日々の生活でスキルらしき出来事を感じなかった。つまりまだ可能性がある。セシリアは前向きだった。

 たま~に帰って来る親に聞いてもスキル鑑定にはまだ早い、今は勉強しろの一点張りだった。一緒に暮らすマリア叔母さんも同じ事を言った。

(そもそも年に数回しかいない親ってなんなのさ。私、放蕩するからね。)


 そんな事を考えつつも根が真面目なはずのセシリアはそれなりにいい子である。たまに冒険者の真似事したり、たまに仮病を使ったり、たまに習い事からの大脱走をする程度である。少なくとも口に出せないような悪い事は考えてもいない。恋愛事に関しても無頓着だ。憧れはあるが。


「何してるの、セシリア?」

 セシリアが懸命に物思いにふけ、隠密スキルのつもりで歩いていたところに声を掛けてきた人が現れた。セシリアは顔を上げ、そこに親友の顔を見つけた。

「や、やほ。ローリー、元気?」

「元気だよぉ。なにやってるの? 変な動きして」

「しっ! 見つかりたくないんだから。気配を消して動いているの」

 ローリーはしばし硬直した。

 セシリアは大真面目である。


「うん、声をかけづらい点では成功してるね。でもセシリア」

「何?」

「人を寄せ付けないだけで、気配ガンガン出てたよ」

 その声をセシリアは上の空で聞いていなかった。後ろを向き、何かを気にしていた、なにか寒気を感じたのだ。ローリーは首を傾げた。

「何かあるの?」

 ローリーはセシリアの背後を見て、セシリアを見た。眼には好奇心しか映っていなかったが、今のセシリアに気づく余裕はなかった。

(ローリーなら助けてくれるかな)

「巻き込みたくないけど、助けてくれる?」

「いいよ。面白そうだし」

 類は友を呼ぶものである。いや同類が友になるのか。

 ローリーはセシリアの真似をして腰を落とすと声を潜めて言った。


「それで、なにをすればいい? てか何があったの?」

 セシリアはゲンサンのスイーツ店での事を話した。

「それでね、とりあえず叔母さん怒ると後に支障が出るからお使いは終わらせたいの。ローリーは周囲を警戒して。不審な人が来たら頼むね」

 ローリーはセシリアの背後を見ると、セシリアに視線を戻した。

「わかった。任せといて。こういう時こそ私のスキルの見せどころ」

 そう言って胸を張ったローリーのスキルをセシリアは思い出した。


「匂い感知だっけ? それで不審な人がわかるの?」

「そそ。匂いに色がついて見えるの、私のスキルって。それでね、最近発見したんだけど、悪いこと考えてる人は色に出るの。少なくともこの周辺の人は大丈夫みたい。割と善良な人ばかり」

 ローリーは周囲を見ながら言った。

「そりゃ、この辺は通行人と私達しかいないじゃない。多分だけど、遠くから私を監視してるし、追いかけられてるかも」

「なにそれ怖い。ストーカーみたいじゃない。そういうことなら私が可愛いセシリアを守ろうじゃないの、任せといて」

 ローリーは胸を張り、大任を任された顔をした。

 セシリアは何となく安心した。この友人は信頼できる。

「背後は任せた。じゃあ行くよ」

「任された」


 セシリアは周囲を警戒しながら歩き出した。ローリーはその一歩後ろに付いている。

 しばらくと言っても十メートルくらいだろうか。ローリーがセシリアに話しかけた。


「ねぇセシリア。服掴んどいていい?」

「いいけど? ローリー、変なの見えたの?」

「ううん。異常はないよ。そうでなくて、人も多いし、露店も多いから。匂いが凄くて前がまともに見えない」

 大事なことをローリーは言った。

 ローリーのスキルは匂いがあると視界がないも同然になる。色付きの深い霧の中を歩くようなものだった。匂いに色がついているのだから当然だ。

 匂いスキル。匂いに色が見える。これも使い所の難しい残念スキルに分類される一つである。

「前見えてないの。だから服を掴んで歩くから。でも安心して。悪い匂いが見えたらすぐに声を掛けるから」

「わかった。ゆっくり行くからね」

 親友が当てにならないことに気づいたセシリアは荷物が一つ増えた気分になった。


「ねぇセシリア」

 しばらく歩いたところだった。目的のフロランスさんの家までもう少しである。

「何? あっイタッ」

 後ろを向いたセシリアは何かにぶつかった。

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