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05話

「わからんか。忍び込むったらこうだろ!」

 アニードは不可解なダンスを繰り返していた。

「アニード兄ぃ、全然わからなかったです」

「……理解力の問題だな」

「よくわかりませんが。兄ぃの奥さんになる人は苦労しそうですね」

 レナードは半目でアニードを見ていた。

 アニードは咳払いをした。一度目を逸らすと、姿勢を正した。


「マリアは、かなりご機嫌だったな。どう思った?」

「カエサルのところに言ったとアニード兄ぃは思っているんですよね。私もそう思います。もしターゲットが大金を掴んでいたとしたらそれで釣ったのかもしれませんね」

「あぁ、その可能性は充分あるとみた。カエサルがただの節操なしの可能性も捨てきれんが」

「どちらにしてもその読みならターゲットはすぐには戻りませんね」

「そうだ、家の住人が今いない。これはチャンスだ」

「やけに無防備ですよね。この家に例のものを隠しているとして、家を留守にするものでしょうか」

「それだけ自信があるんだろ。マリアのスキルは不明だ。もしかしたらびっくりするようなレアかもしれんぞ」

「なるほど、ありえますね」


 アニードはそこで話を終わった。両手に未だ持っていた紙袋を床に置く。忍込みに必要な道具の入った小袋を手に持った。レナードはそれを見て、両手に抱える木箱を持つ。中身は空だ。

「キャビアとフォアグラは夜だな。いくぞ」

「ワインで祝杯といきたいっすね」


 アニードとレナードは部屋を出た。何でもない風を装い、無人である屋敷に直行する。通行人には配達人が荷物を届けに屋敷に入ったように見えただろう。

「ごめんください。どなたかいらっしゃいませんか」

 さすがに表は空いていない。たが使用人を幾人も使う富豪なら、どこかは開けている家が多い。

 アニードは声をかけながら裏口に回る。鍵が掛かっていた。アニードはドアを押したり引いたりして確かめた。

「しっかり施錠しているな。関心だ」

「兄ぃ、職業意識は今は置いときましょう」

「そうだな」


 アニードは手持ちのカバンから道具を取り出した。鍵穴を道具で探るとドアの鍵を五秒で開けた。

「そんな技、どこで覚えるんですか」

「持つべきものは酒場の友だな」

「竹馬の友なら聞いたことがありますが」

 レナードは呆れた顔を隠さなかった。


 アニードとレナードは素早く中に入るとドアを閉めた。中は静まり返っている。

「さてと。どこから行くか」

 屋敷は住んでいるのが二人だ。しかしやけに屋敷は広かった。部屋数を考えても十人は軽く住める。

「屋敷の主は年に数度、仕えている使用人を引き連れて滞在すると調査にあった。そんな部屋に隠すようなリスクは侵さんだろ」

「今はターゲットとその姪だけで住んでいるってことですが、通いの使用人が頻繁に来ていますよね」

「あぁ、雑用はほとんどやらせているんだろ。マリアはこの屋敷の持ち主の腹違いの妹って話だ。メイドという(てい)だが、実際はメイドではなく普通に暮らしている」

「そして腹違いの兄の子どもの教育係ですか。何かありそうですね」

「このくらい南部の富豪なら普通じゃないのか」

「まさか」

 レナードは笑った。

「理由はどうあれマリアが例の物を隠している可能性は高い。ヘンリーが横流しした『砂漠の瞳』をな。積み重なって結構な量になっている。一部を売りさばいても、まだまだ在庫はあるはずだ」

「ヘンリーは幼馴染をそんなに信頼していたんでしょうか」

「さてな。詮索と推理は後回し。今は探し物の時間だ」

「私は二階を見てきます」

「よし、二階は任せた。俺は一階だ」

「了解しました」


 レナードは二階へと続く階段を駆け上がっていった。上がってすぐの部屋から順番に調べるつもりのようだ。扉を開け、中に飛び込んでいくのが見えた。


 アニードは一階の奥にある部屋に足を向けた。一階だけで部屋は幾つもある。大半は使用人の部屋と思われた。ただ奥の部屋は扉の造りが他と違った。

「まさか罠が仕掛けてあるとは思わないが」

 呟きながらノブを慎重に回し扉を開けた。アニードの目に整然と本棚に詰められた多量の本が目に入った。

 文書庫だ。かなりの量の書籍が並んでいる。見た目にも高価な本が収まっている一角もあった。それらは無雑作で、施錠もされていない部屋にあることがアニードには奇妙に思えた。

「主人用の倉庫か? 一階にあるのは何故だ」

 アニードは本を上にあるものから順に目で追っていった。本棚の他にはテーブルと椅子、脚立があるだけのシンプルな部屋だ。

「床に埃はないが、本が動かされた形跡もない。外れか」


 アニードは他の部屋を当たるべく部屋を出た。目の前に開けていない扉が二桁は現れた。

「片端から探すしかないか」

 ため息とボヤきをこぼしながら、隣の部屋に向かう。

 その部屋は使用人の部屋ではなかった。大きなベッドに豪華だが小さめのテーブルと椅子、他にも調度品がある。ただ使われている形跡はない。布団はなかった。調度品は落ち着いた、悪く言えば古臭い、アニードはそう思った。

「どうやら御老体が住んでいたことがあるようだな。先程の文書庫はこの部屋の主のものであったか」


 その後、いくつかの部屋を探すがいずれも外れであった。物置、調理場並の台所に貯蔵庫、貴賓室、大広間……、使われていない様子の使用人部屋もあった。


 調査を始めてかなりの時間が経っていた。特に注意して痕跡を消しているからこそ、時間がかかる。

 レナードからも特に声はない。

「二階も何もないか。マリアはこの屋敷の主ではないがあらゆる自由を許される。そして幼馴染みに頼まれ非合法の品を隠した。出入りの使用人が許可なく立ち入らず、例え見つかっても本人は言い逃れができる場所……」

 アニードは呟きながら必要な条件を頭に浮かべた。

「最後の条件に合わないが、隠し部屋の類か。見た中で怪しいのは地下の貯蔵庫と文書庫だな」


 地下の貯蔵庫は後回しに、アニードは文書庫に向かった。

「本には埃がない。部屋がかび臭いわけでもない。見落としがあるとしたら」

 アニードは一歩引き、しばらく観察した。

「一部が欠けている気がするな」


 目の高さに揃いの背表紙の本が並んでいた。豪華な装飾はそれだけで高価なものとわかる。だが背表紙の色目が微妙に不揃いだ。

 その横に系統の違う本が並んでいた。


 アニードはそれらの本を取り出しめくる。本は、ただの本だ。それ以外ではなかった。


 アニードは本棚に本を戻そうとした。しかし手を止め、本棚に手を伸ばす。

 本棚の背板が外れる構造になっていた。中に紙束が見える。

 アニードは紙束を取り出した。

「古い書類のようだが、中に書かれている名前は聞いたことがあるな」

 紙束をめくり、書かれた細かい文字をアニードは目で追っていった。


「おいっ!」

 部屋の入口から男の声がした。

 顔を上げたアニードは身構えることもできなかった。

 身体は吹き飛び、本棚に叩きつけられていた。

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