19話
姿を表したレナードの質問に、アニードは答えた。
「いろいろある。一つ一つは小さいことだったが、繋ぎ合わせれば間違いなかった。まぁ、ジャックが吊るされている。それが何よりの証拠だがな」
「ふーん。そうか。鬼兵ってあだ名だけで判断していた。腕っぷしだけだと思いこんでいたよ」
「レナード、どうやってジャックを連れてきた? 兵士はどうした?」
「あぁ、それなら眼の前にいるよ。そこのチンピラ共さ。兵士の格好させていたってことさ。俺のアイデアだ」
レナードは鼻を鳴らした。
「そこのチンピラ共は兄ィにやられて死んだようになっているが、まだ死んじゃいないんだろ? 戦争では人を殺しまくったくせに、いまじゃ殺しを戸惑う脆い野郎が」
レナードは吐き捨てるように言い放った。
「レナード。正気で言ってるのか?」
「正気も正気さ。俺のスキル知っているだろ。誰が付けたか知らねぇが『残念な思念伝達』、残念だとよ。その中途半端なスキルのおかげで俺の華やかなはずの人生はうだつがあがらねぇただの通信兵。ヘンリーも同じ様なものさ。でも俺達はやれる。組織でのし上がるのさ」
「『俺』とはね。丁寧に、『私は』とか言ってたのも仮面か」
「そうだよ。他所で素を見せるなんて、そんな愚かなことはねぇ」
レナードはヘラヘラと笑った。
「あの家にヘンリーが軍部から盗みだした軍用魔石があるって情報もお前が流したのか? あれを手土産にでもするつもりか。俺を巻き込んだのは何故だ?」
「ヘンリーと俺は協力していた。軍の裏をかいて魔石を盗み出すなんて一人じゃできねぇよなぁ。それとあそこに魔石があるって話、あれは嘘だ。俺達にはマリアの他にもう一人、幼馴染がいるんだ。マリアは何も知らねぇ。ともかく物はそっちにある」
レナードは得意そうな顔を隠さず話した。アニードはタバコを吹かすと、口から吐き出し、息を吐いた。
「そうか。ヘンリー、マリア、そしてお前も南部出身、実は幼馴染ということか。するとあと一人、そいつが魔石を持っている」
「へー、鋭いねぇ。殺しの才能だけじゃないたぁ。さすがアニード兄ぃ」
レナードは馬鹿にした声で挑発していた。
「てめぇ、虫酸が走る!」
「うひゃー、怖いねぇ」
レナードは大袈裟に怖がってみせた。
「あの執事面した奴が親玉か」
「執事面? 知らねぇな」
アニードは息を吐いた。
「違うのか。ジャックはてめぇの差し金か」
「それは正解だよ。それにしてもジャックなら兄ィは倒せると期待していたんだがなぁ。ジャックが組織を二股するとはね。制裁は当然だ。まぁ兄ィの弱点を知れたのは奴のお陰だがな。まともにやり合って勝てるやつはいねぇ」
レナードはいまだ吊るされているジャックを見上げた。すでに血も流れていない。アニードは木の根元に倒れているビクトリアを見ていた。
「 お前にこの二人の気持ちがわかるか」
「ふん、どうでもいいな。何を肩入れしてやがるんだ? こいつのお陰で組織への手土産が減りそうなのによ。良いこと教えてやろう。監視していた家のセシリアってお嬢はな、宝石の重要人物だ。それも手土産にするつもりだ。幼馴染がまさか宝石の縁戚とは俺も運が良いぜ。うまく使えばこれからも役立ちそうだ」
レナードはアニードの方を指さした。
「なんだと? どういうことだ」
「ちなみにアニード兄ィ、鬼兵の首も土産の一つだ。単独で無駄に強く、軍で最強の切り札の死体、この大樹の良い栄養になる。その後もな、死体には色々と使い道があるのよ」
アニードは背中側の建物から人が二十は出てくる気配に気づいた。
「さて兄ィを殺す準備の時間も稼げた。兄ィの始末は組織に任せる。俺はヘンリーと合流して、魔石とお嬢を確保しに行くよ。兄ィはここでくたばる。そして俺達は組織の幹部。兄ィはこの大樹の栄養。いいねぇ」
レナードは薄く笑い、手を振り、アニードに背中を向けた。
「あばよ、戦場の英雄。鬼兵のアニードさんよ」
「逃げるのか」
「恩人の死に際だ。豪勢にしといたぜぇ」
レナードは振り向くことなく路地の一つに消えた。
アニードは後ろを振り返った。そこには弓矢を構えたゴロツキが並んでいた。
「冒険者崩れか……早いとこ追いかけたいんだが」
アニードはゴロツキ達を睨みつけた。
いよいよ物語大詰めです! 次回セシリア回