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13話

 アニードは苦い顔のまま乾いた空気を切るように歩き、『黄昏の燕』の前に立っていた。看板は先ほどと変わらずドス黒く、建物は貧相だった。

 アニードは扉を開けた。中は意外なほど明るく、小綺麗だった。アニードは無駄な力みを抜き、カウンターで暇そうな受付嬢に声をかけた。


「すまんが聞きたいことがある」

 前髪を寄り目で弄り、化粧の濃いメイド服姿の受付嬢はその姿勢のまま目線だけをアニードに向けた。

「あぁん? 知らんし」

 顔に似合わずドスの聞いた声だった。アニードはむしろワクワクした表情で受付嬢へ話しかけた。


「見てもらいたいものがあるんだが」

「お前の汚いものなんか願い下げだよ」

 即答した受付嬢は視線が前髪のままだった。


「そっちも見応えあるが、こっちだ」

 アニードは懐から一枚出した。受付嬢は初めて顔を動かし、それを見た。


「金貨なんか出してどうしたいんだい?」

 アニードは金貨をつまんだ手を右に左に動かした。受付嬢はそのまま付いていった。アニードはニコリと笑い、それを放り投げると、手の甲で受け止め、反対の手で蓋をした。

「表だ」受付嬢はニコリと笑って言った。アニードは手を素早く返すと受付嬢に放ってやった。


「それで、何が知りたいんだい?」

 賭けに強すぎる受付嬢にアニードが三枚目の金貨を放った後だった。アニードは懐から木札を1枚出した。


「これの依頼を知りたい」

 受付嬢は木札を引ったくるとちらりとそれを見た。まるで老人が近い場所を見るような目で木札を見ると、受付嬢は言った。

「あん、どこから引ったくってきた? チンケな恐喝の依頼じゃねぇか。馬鹿にするのも大概にしな」

 アニードは大げさに驚いた。

「よくわかったな。それはさっき路地で小僧にもらったのさ」

「へぇ、これはまだ終わってない依頼だ。その小僧、しばらくわたしの前に顔をだせないね。殺してないだろうね? あの子はお気に入りだったんだよ。わたしを喜ばせたいのか、怒らせたいのかはっきりしな」

「すまんすまん。悪気はないんだ」

 アニードは手を上げてみせた。その手の指に二枚の木札を挟んでいた。受付嬢は目ざとく目線を向けた。


「ちょっとそれを見せてみな」

 アニードは金貨を放るようにそれを渡した。

 受付嬢は見事な手つきでそれを掴むと手の中で転がした。


「あんた、これをどこで。いや……これは子猫のお守りと迷子の子犬探しの依頼だ。要件はそれだけかい?」

 受付嬢はチラリと後ろを見た。アニードはそれを目線で追うと受付嬢から木札を受取り、後ろを向いた。

「邪魔したな」

「もう来るな」

 受付嬢の言葉に手を振りながらアニードはギルドを出た。外の風は相変わらず乾いていた。


「子猫のお守りと迷子の子犬……なんの意味が」

 アニードは呟いた。ただ思考を巡らす暇はなかった。


「どうやら受付嬢に惚れてる輩が多いみたいだな」

 アニードの前には数人の男が立っていた。ただし、この路地の奥に相応しい真っ当な輩ではなかった。きっちりとした黒服に身を包んでいる輩だった。


「知ることと寿命を縮めることは同じ意味だ、アニード君」

 男たちの後ろから執事の格好をした小柄な男が現れ言った。

「へぇ、そうかい。なら俺は例外だな。何しろ今生きているからな」

「これは警告だ。自分の職務だけに専念すれば君は長生きできる。ジャック君の受けている依頼を知る必要などない」

「言いたいことはそれだけか? 残念だが俺は昔から何にでも関心をもつタイプでね。今もそうだ。とても関心があるね」

「残念だ」

 小柄な男が下がると同時に男たちが身構え、静かにアニードの周囲を囲んだ。


 アニードは腰を軽く落とすと素早く周囲に目線を配った。

「まだ自由を謳歌したいんだ。邪魔をしないでくれ」

「警告はいたしました」


 アニードは相手の言葉が終わる前に男の一人に飛びかかった。腹に一発食らわせると、男の身体がくの字に曲がった。


 そのまま包囲を抜けようとしたアニードは左ももを抑えた。

 勢いのままたたらを踏んだアニードが足に目をやる。服の一部に穴が空いているのが見えた。血の匂いがする。

「アニード君、君のスキルは戦闘向きらしいですな。そして接触型である。そう聞いています」

 小柄な男の声が響いた。男達は距離を保ったままアニードを囲んでいる。そのうち一人がアニードに手を伸ばしているのがみえる。

 アニードは舌打ちをした。

「暗器か」

「私がこの状況なら、素直に相手の言う事を聞きますよ。君はどうしますか」


 アニードは男たちの後ろにいるはずの小男を睨んだ。

「そうまでして何を隠したい? 何がある?」

「君に答える必要はないですな。私には私の役割がある。それだけです。そして君は話が分かる人だ。そうでしょう? 安心してください、毒は塗らせていません。殺すつもりはありませんから。さぁどうしますか?」


 アニードは言った。

「嫌だね。気に食わない」


 男たちが一斉に腕をアニードに伸ばした。

「残念だ」


 アニードが直撃を避けるべく身構えたが、その視界に男の一人、いや一角にいる数人が吹っ飛んだのが見えた。

 そのまま大きな手が伸び、アニードの身体は引っばられ、男たちの包囲から飛び出していった。

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