10話
セシリアは『ジャポン魔眼連盟』なる木札を呆気にとられた顔でみていた。その様子を見たローリーは、横から覗き込んだ。
「うわっ何? 確か最東の国の名前じゃない? このジャポンて」
ローリーは眼を寄せていた。セシリアも同じだ。
「ほんとだよね。ジャポンて珍しい響き」
「うんうん、ジャポンて知ってる? 建物が全部金で出来てるって」
「うそぉ。ローリーってば、そんなわけないじゃない。それならみんな金持ちだよ」
「いや、みんな金持ちじゃなくて。私の見解ではきっと金が珍しくないんだよ。だから逆に石ころとか凄く高いんだよ」
「えぇー。そんなわけ無いじゃん。だって石ころは石ころだよ」
「いや噂だとね、すべて石でできた指輪があって、それが家と同じ価値だって」
「それ、誰が言ったのさ。それなら貿易したら大儲けじゃないの。信じられない」
セシリアとローリーが話を盛り上げていると、横から見慣れない青年が口を挟んできた。
「あの、ジャポンというのは確かにその国の名前と聞いていますが。そっちより魔眼に注目してほしいなって。魔眼ですよ、魔眼! ロマンあふれるじゃないですか」
「えーと、あの」
セシリアはそういえばこの人いたっけという顔で男を見つめた。すでに名乗っているわけではあるが、セシリアの頭からはすでに消えていた。いや、忘れたかった。ストーカー紛いの男に助けられたかもしれない、いや助けに入ってくれたところまでは事実であるが。
「マイケルです。ジャポン魔眼連盟のマイケルです」
「……あぁ、そうだった。マイケルさん」
「はい」
マイケルは居住まいを正した。セシリアはその様子を見て、まず聞くことがあった。
「マイケルさんて、ストーカーですか?」
そこからだった。
「ち、ちがいます! 僕はその、あの魔眼を持っていまして、それでですね。僕は色んなところを回って探しているんです」
見た目はおかしいが、中身は真面目らしいマイケルは慌てて否定した。
「冗談だから。助けてもらってストーカー呼ばわりなんて。ねぇセシリア」
ローリーがフォローに入った。セシリアは真面目にストーカーと聞いただけだが、さすが親友だということにしといた。
「まぁストーカーの件はあとで解決するとして、助けてもらったお礼がまだだった。ありがとう。えぇと……」
「マイケルです。ジャポン魔眼連盟のマイケル。気軽にマイポンと読んでください!」
「ありがとう、マイケルさん。それで、本当にストーカーじゃないよね?」
セシリアはしつこかった。ただセシリアからすれば、遠くから見つめられて微笑まれたのである。ストーカー呼ばわりの割にはマイケルを見たのは初めてだが、気持ちは悪かった。
(気は許せないけど。話している感じだと色恋とかじゃなさそう)
「違います。ストーカーではないです。僕は魔眼のスキル持ちを探しているんです」
マイケルは言った。
「魔眼のスキルを探しているってどういうこと? もしかしてセシリアが魔眼の持ち主なの?」
「そうなんです。喫茶店で座っているのを見つけて、出てくるのをまっていたんです」
セシリアよりもローリーの方が食いついていた。セシリアは聞いた。
「それで、私と眼が合って微笑んだと」
「あっ、いやそれは勘違いされたのなら謝ります。師匠に第一印象は大切だから、何かあったら微笑めと言われていたものですから」
マイケルの奇行は師匠とやらのせいだとセシリアは理解した。少なくともマイケルさん悪い人間ではない。
(ストーカー疑惑はこのまま無かったことにしよう。そうしよう)
切り替えたセシリアは聞いた。
「それで、魔眼のことを教えて」
「はい。まず魔眼というのはですね世間で言ういわゆる当たりスキルの一つと言われています。まず名前のとおり、眼に力が宿っています。特徴としては自力では消せません。常にスキルが発動しているんです。セシリアさん、て呼んでいいですよね。セシリアさんも何か他の人と違うものが見えているはずなんです」
マイケルは長々と説明した。魔眼の説明でいつも言っていることなんだろうとセシリアは思った、しかしである。
「私、変なものが見えたことないんだけど。そもそもなんでマイケルさんに私が魔眼を持っているってわかったの?」
セシリアには当然の疑問だった。生まれて今まで他の人と違うものが見えていたとするならば、とっくに気づいているはずである。
「えぇと、セシリアさんが気づいていない理由はわかりません。ただ魔眼の持ち主であることだけは間違いありません」
マイケルは言い切った。今度はローリーが聞いた。
「ねぇ、マイケルさん。何か根拠とかあるの? やけに自信たっぷりだけど」
「僕も魔眼を持っているんです。『魔眼が分かる魔眼』です」