2020年8月10日、栃木県某市某喫茶店にて
(好きな物を注文していい、と促す)
あの、こういうの、本当にやめて欲しいんですけど。
あなた、教授先生って話ですけど、嘘ですよね?
ホウジョウ先生の頼みだから聞きますけど、こんな小さな街で噂になると、私本当に困るんです。
ただでさえ……。
なに、なんです?
(経験したことを話してほしい、すぐ終わるから、と促す)
……わかり、ました。
見ればわかると思いますけど、この街、本当に何もないでしょ。
宇都宮って、栄えてるイメージありました?テレビだと駅の周りとか、大きなアーケードとか映してますもんね。でも、実際はちょっと街の外へ行くと、田んぼばっかり。夕方になれば、うちの吹奏楽部がタダで演奏を聴かせてくれますよ。練習曲でよければ。
……別に、だからってわけじゃないんですけどね。
あの……わかります? この窓から見える、うちの学校、その奥の山、ありますよね。
この街とあの山って、踏切で別れてるんです。
で、あの日。
暇つぶしに、ぶらっと、踏切の向こうに行こうと思ったんです。
登山道を登れば展望台があって、そこでボーッとするのもいいかなって。
で、渡ろうとしたら、運悪く踏切が降りちゃって、待ってたんです。列車が行くの。
だけど、変だったんです。
遠くから来る列車、ずっとクラクション……警笛?を鳴らしてるんです。
ぷあーん!って
ずっとです。
なんだろう?って見てたら、線路の奥から、電車と……その。
(大丈夫だから、と続きを促す)
人が。
なんか、被り物をした人が、逃げるように走ってたんです。
ぷあーんっていう警笛の中で、聞きました。
その人叫んでるんです。
ぎゃああああ!って。
今にも転んじゃいそうなくらい手足をバタバタさせて、逃げてるんです。
私、一瞬体が固まっちゃいましたけど、踏切って非常ボタンがあるの、わかります?
あれを……押したんです。
でも……その人は列車に追いつかれました。
私の目の前で、その人は轢かれたんです。
だけど……警察も来て、全部説明しました。
でも、変なんです。
誰も、轢かれてなんかないって。
どんな人?って聞かれて、被り物をしてた、それ以外はわからないって言うと、なんか、こっちがおかしいみたいな流れになりまして。
で、こうです。
変な噂になりました。
話は終わりです。
(被り物の形を尋ねる)
知りません。私もパニックでしたし、よく見えませんでした。黒っぽい段ボールの箱って感じです。
本当にダンボールかは知りません。
あ……でも。
あれに似てました。なんだっけ……。
墨?
書道のセットに入ってる、金色の糸みたいな文字が彫られた、墨……。
待って。
墨って言うか……。
お墓?
(最後に、『カシラさま』『カワラさま』と言う言葉に聞き覚えはないか、と尋ねる)
いえ……。
なんです?それ。