2020年8月1日、神奈川県某市アパート306号室にて
(話を促す)
いやまじ、びっくりしましたね。
ああいうの、本当にあるんすね。
子供の頃はオカルトキャラのクラスメイトがどこどこで見たーって騒いだりとかはあったんですけど。
なんつったかな、「カシラさま」、でしたっけ。あ、「カワラさま」? だっけ。でしたっけ。
俺らの頃は、宿題サボったり、手伝いを嫌がったりするとくるぞーって教えられてたんすけど。
結局、アレ、なんだったんすか?
お隣さんのやつ
(男性に、経験したことを話すように伝える)
はじめは、ほんと、二年前とかなんです。
学校から帰ってきたら、隣の305号室のドアの前に変な爺さんが立ってて、ぴんぽん、ぴんぽーんって何度も呼び鈴鳴らしてるんです。
で、まあ、無視して? 自分ち入ろうとしたら、「なあ」って声かけられて。「ここんひと、知らんか?」って。
「知らないです。ご家族さん?」って聞いたら、「いや、下のもん。あんた、知らんか? 夜中この部屋うるせえのが」
そこまで言われて察しましたね、確かに隣の人、夜中たまに変な音がするんすよ。
(音について詳しく尋ねる)
いやなんかあ、なんつーんかな……引越し、みたいな?
どん、どん、どん、どん……って
軽いものでもなく、大きすぎるものでもない、両手で抱えられるようなものを、ダンボールみたいなもんを、何回も床に下ろす……みたいな?
俺、音とかあんまり気にしないタイプなんで、おー、やってるやってるなんて思いながらスルーしてたんすよ。
どん、どん、どん、どん……。
お、やってるねえ!みたいな。
毎日じゃないっす。一週間に一回くらい?かな?
で、爺さんが来てからしばらくして、アパートの管理会社に連絡あったんすかね、流石に注意喚起来まして、でもまた、どん、どん、どん……ヤバくないすか?メンタル。
爺さんは結局、しばらくしたら見なくなりましたね。音は続きました。
あの時まで。
(“発見時”の話を聞く)
いやーっ、一週間前っすよね、あれビビりましたね、でもあれ、結局頭おかしくなっちゃったんすか?変な被り物作ってーって。
(“発見時”の話を聞く)
……はい、まあ。その。
あん時、シャワー浴びてまして。
シャワーのジャーって音の中に、また聞こえたんです。どん、どん、って。
しばらくすりゃ、やむだろなー、シャワー出たらゲームでもすっかなーって出ようとしたら、すごい音がしたんです。
どぉん!「うっせえんだよ!」って。
303の人でしたねー、あ、304は無いから、305を挟んだ、俺の反対側の人。
「毎日毎日毎日毎日、頭おかしいんかオメエ!出てこいよ!」って。
やべ〜!こりゃすごいことになるぞ!って俺、ヒヤヒヤしながら玄関に耳当てて様子聞いてたんです。
303の人、「なあ、ちっとちゃんと話そうや、出てきてさあ!」っていきり立ちまくってて、ドンドンドン!ってドア叩いてるんです。いやいやいや、誰があんたと話できるんだよなんて笑ってたんすよ。
そしたら、その人、ドアノブ掴んだっぽくて。
がちゃん、って。
いやー、鍵空いてたっぽくて。
……ね。
(続きを促す)
……まあ、そっすね、はい。
流石に警察か?なんて、スマホ構えてました。俺、風呂場に持ち込む派なんで。
防水のやつ買ったんで。
(続きを促す)
はぁ……はい。
お隣さんから、「ぎゃっ」って声が聞こえましてね、流石にやべえって、ドア開けました。パンツは履いてたんで。サンダル履いて。
そしたら、どうやらその声って、303の人のもので、ドアの前の廊下で固まってました。
どん、どんって引越しみたいな音は、ドアが開いてたからすごく大きく聞こえてました。
どん!どん!どん!どん!って。
何見たんだろ。って思いますよね、俺も思いました。
だから、303さんに挨拶もしないで、覗いてみたんです。部屋ん中。
俺んち……この部屋と同じ間取り、ワンルーム。普通に廊下に洗濯機とか冷蔵庫とかが置かれてて、奥がリビング。
そしたら……いたんす。あれが。
どん!どん!どん!どん!って。
頭が、ブラウン管の、男でした。
(音の正体を聞く)
ずっと……ずっと、だったんすね。
あの音がする間、ずっと。
あの人は土下座してたんすね。
頭は、テレビの頭は、ずーっと、土下座してた。頭が床に叩きつけられる音が、ずっとしてたんす。
それに、変なことがあって……。
……いや、そんなでもないかな。
(追求する)
あー、えっと。
部屋って、この部屋みたいに、廊下の先にあるわけで、普通家具はそのまま部屋を突っ切って窓まで行けるように、そのルートを避けるようにして置きません?
ほら、洗濯機から取り込んだ服をベランダで干すのに、ルートの上に家具を置いちゃってくねくね曲がりたくないっすよね。
あの部屋も、そうだったんす。
ルートがちゃんとありまして、ベッドとか、テレビ……これは薄型のテレビっす。あと、テーブルとかが置かれてました。
なのに、変だなって。
あの人、体の向きを、窓側とか、玄関側とか、左右の壁に向けて、じゃなくて……斜めに向けて、土下座してたんです。
廊下から窓へのルートに対して、無理やり体を斜めに向けるようにして。
あれ、なんだったんすかね?
(方向を尋ねる)
あっちっす。
えーっと、待ってください……スマホどこやりましたっけ、あ、それとってもらっていいっすか。あざます。
……大体北北東っすね。
(礼を言い、最後に尋ねる)
あの後っすか。警察呼びました。明らかに様子おかしかったんで。
次の日から三日位友達と旅行行ってたんすけど、戻ったら、ドアにダイヤル錠みたいなんがついてました。空き部屋にあるやつ。
で、あー、いなくなったんだなって。
それだけっす。はい。
いえいえ、どうもでーす。
え?はい。
まだ住み続けますよ。