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番仙奇譚  作者: 秋尾 萩
髪切りの話
6/51


 昼休みになり、朝のメンバーで一緒に昼食を食べ終えたところで、有海がマイ飴ちゃん袋からお菓子を取り出す。有海は大阪レディの雛なので、ちゃんと飴ちゃん袋を常備しているのだ。そこから栗落雁を取り出しポリポリとかじり始めた。飴ちゃん袋だが飴ちゃん以外が入っていても問題はない。


(リスみたいだな……)

「あ、黒森くんも食べる?おいしいよ」

そんな有海を見ていると栗落雁を差しだしてくる。

「ありがとう」


「先輩って何し来るんだろ?クラブ紹介は後でするんだよね。あ、ねぇねぇ、黒森くんクラブって決めてるの?」

 有海が紅に話しかける。

「いや、まだなんだよ。それにしても本当にクラブが多いね。」

 クラブ紹介が書かれたプリントを見ながら答える。

「ねぇ。ボクたち輪がどうしてもこの高校って言ってたからだけじゃなくて、クラブが盛んなのもここを選んだ理由の一つなんだ」

 他も同じようにクラブを見ていく。

「聞いてた以上に多いな。野球、サッカー、陸上とか定番のやつ以外に、超能力研究部、魔法研究部、忍術研究部、錬金術部、名探偵部、怪盗部、なんだよ怪盗部って。高校の部活でこんなのあっていいのか?」

 覚がつぶやく。

「あ~、色々候補があって迷うなぁ。ボクも超能力とか魔法が使えたらよかったのになぁ。カッコいいよね、超能力。あっ、そういえば黒森くんは何か能力あるの?」

「有海ちゃん、自分から言わない人に能力を詳しく聞くのはマナー違反だよ」

 やさしく桃香がたしなめる。

「あ、そっか、ごめんね黒森くん。今の質問は無しね」

有海が申し訳なさそうに詫びる。

「大丈夫だよ、残念ながら僕も超能力も魔法も使えないんだ。でも本当に使えたらいいよね」 

 ほんの一瞬、少しだけ何か残念そうな顔で有海を見て、紅が答える。

「あたしも何も使えないわよ」

「あ、えっと、わ、わたしも全然、です。憧れるけど、高校生になってから使えるようになるって少数らしいし、両親も使えないから」

 彼女の言う通り、超能力や魔法には遺伝の影響も大きく、能力者の家系では結婚相手にも能力者を求めるのは当然の事となっている。先天的に備わっているだけでなく、成長とともに能力に目覚める者も多い。


 そんな中、覚が空気を読まない発言をする。

「俺、能力者だぜ」

 紅が驚いたように覚を見る。

 有海たち3人は知っているようだ。

「名前で分かったと思ってたけど、サトリの家系なんだよ」

「!」

「あ~まあ、気持ちは分かるけど、そんな心配しなくても大丈夫だよ。俺の能力ってほとんどゴミみたいなもんだから。俺の体調が絶好調で、目の前の相手が警戒してなくて、こっちがかなり集中して、断片的に今考えてる単語が分かるって程度だから。俺のひい爺さんだかひいひい爺さんだかの頃は、山に住んでて山に入って来た奴の人数とか、考えてる事も分かるような本物の妖怪みたいな感じだったらしいんだけど、一般人と結婚を繰り返してだんだん弱くなったらしい」

 軽い感じで覚が告白する。



サトリ(覚)。昔からこの国に伝わる妖怪である。山に住み相手の心を読むと言われている。その姿は猿の様とも人の様とも。人と結婚を繰り返してと言う話から考えて、実際に妖怪かどうかは不明だが、少なくとも強い精神感応系の能力を持つ者だったことには間違いがないだろう。

 テレパシーや特に相手の心を読む、という精神感応系能力は非常に有用な能力である反面、強力であればあるほど人から疎まれる能力である。当然と言えば当然で、誰が自分の頭の中を覗かれてうれしいはずがあろうか。それに覚が言っている事も本人の証言のみで、実際はどうなのかは本人にしか分からないことである。他人が警戒するのも当然のことだった。


「ちゃんと使えるような強い能力だったら、ここじゃなくて1組になってるって」

 そう、この高校が有名なのはクラブに力を入れているからだけではない。そういう能力者の育成に力を入れている高校だからでもある。

 そして10組あるクラスの中で、特に超能力や魔法の有望な者が集められるのが1組である。それ以外の組にも何人かは何かしらの異能(超能力や魔法、その他の能力)を持つ者はそれなりにいるはずだが、やはりその能力には強弱があり、強い者が1組に集められる、というのは一般常識とも言えた。ただしそれらは一般的な能力の事であり、あまり例のない固有能力などは例外となる。固有の能力の場合、その強弱が測定できないという理由もあるためだ。もちろんその年により人数はバラつきがあり、1組に収まらなければ2組になったりするし、逆に人数が少ない年は1組の人数を減らしたりして調整はされる。(1組に一般生徒を混ぜる事はほぼない)


 

 そんな様子を見て、紅が心配そうに尋ねる。

「言ってしまっていいのかい?」

「そうは言ってもなぁ。この名前だろ?佐取だけならまだしも、覚まで付けられたら流石にな。うちの親もどういうセンスしてるんだか。中学から一緒の奴らも多いし、いずれ嫌でもバレる話だ。それにバレてから言うより、先に言っといた方がまだ言い訳が立つってもんだ」

 そんな覚を見て、同じ中学だった有海たちが少し悲しそうな顔をする。

 おそらく中学時代に何かあったのだろう事は容易に想像できた。精神感応系の能力者のトラブルは毎年数件はニュースでも取り上げられる。その多くは傷害で、時には殺人にまで発展する。そして被害者の多くは能力者の方である。そのほとんどが小中学、高校で起きる。多感な学生時代に、心を読んだ読まれた、などと言う事がトラブルにならないはずがないからだ。

 結果的に多くの精神感応系の能力者は迫害され、孤立、登校拒否になることが多いとされている。その事から考えても、覚の明るい性格は非常に珍しい例と言えるだろう。

 


 そんな場の空気を気にしていないような素振りで、輪が問いかける。

「それで有海はどこに入るか決めたの?」

 その場の全員が少し強引とは分かっていても、その助け舟に乗ることにした。

「うん、いくつか候補はあるけど、せっかくクラブ紹介があるなら、それを見てからいくつか行ってみる。輪はやっぱりサバゲ部?」

「ええ、そのつもりだったんだけど、よく見たらサバゲ部の他にも、狙撃部、射撃部とか色々あるのよ。何よ狙撃部って……」

「おおぅ、なんだそれ。まとめたらいいのにね。でもサバゲかぁ、受験でしばらくできなかったから久しぶりにやりたいね。あったかくなってきたし」

「サバゲ……」

 明るく答える有海と違い、なぜか桃香が暗い瞳でつぶやく。なにか嫌な思い出でもあるのだろうか。


「桃香は?」

「あ、えっと、せっかくいろんなクラブがあるから、わたしも何か新しいこと始めてみたいなとは思ってるんだけど、まだ決めてないの。私、気が弱くてなかなか最初の一歩が踏み出せなくて……」

「まあ、色々回ってみたらいいさ」

「俺はどこ行こうかなぁ」





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