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番仙奇譚  作者: 秋尾 萩
狸の話?
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 驚きで声も出ない有海を見てニコニコと笑う女生徒。

 固まったままの有海のわきに手を入れて軽々と持ち上げる。

「立ち話もなんだから、座って話そうか」

 

「わわ!?」

 人形の様に持ち上げられたままスタスタと歩いて席に着く女生徒。そしてそのままくるりと有海の向きを変えて、自分の膝に座らせる。


「???」

「うん、ジャストフィット」

 嬉しそうに言う女生徒。何がなんだか分からない有海。


 他の3人の先輩たちもそれが当然の様におのおの椅子に座る。

 そこでやっと我に返った有海が口を開く。


「あの、先輩は魔法使いなの?……ですか?」

 言ってから先輩である事を思い出し、敬語を取ってつける。しかしそんな有海を膝に乗せた女生徒は笑いながら答える。


「ははは、無理して敬語を使う必要はないよ。言葉だけ敬意をはらっているふりをしても心がこもっていないと意味がないし、普段の言葉使いでも敬意は伝わるよ。だからここではいつも通りでいいよ。まあ他の先輩たちには頑張って敬語を使いなさい。

 さて、さっきの質問の答えは、違う、だよ。私は超能力も魔法も使えない。私が使えるのは忍術だけだ。忍者だからね」


「あれが忍術なの?ボク忍術って分身したり、壁を歩いたり、水の上を歩いたりするんだと思ってた。です」


 素直な感想を聞き楽しそうに有海をこねくり回す。

「もちろん、それも忍術だよ。魔法だっていろんな事ができるだろう?忍術だって色々できるのさ。魔法も超能力も使えない者が強くなるための術。それが忍術だ。そして魔法も超能力も使えないけれど強くなりたいからここに来たんだろう?」


 それを聞きハッとする。

「そうだ、えっとボクでも強くなれますか?」

 抱きかかえられたまま後ろを振り向き、女生徒の顔を見上げる。首が痛そうだ。

 その辛そうな姿勢を見て、女生徒は有海を横向きにして膝に座らせる。膝から降ろす気はないようだ。


「もちろん、と言いたいが時間はかかるよ。そして強くなるための修業は厳しいよ。どうして強くなりたいんだい?」

 有海を膝に乗せたまま優しく問いかける。

「どうして?えっと、ボク、……どうしてかな?」

 あらためて問いかけられ、自分でもよく分からないことに気づく。


 それを見て女生徒は嬉しそうに笑う。

「ふむふむ、では私が当ててやろう。どれどれ」

 そう言って膝に乗せている有海を撫でまわす。

「あはは、くすぐったい」


 周りは冷たい視線だ。


「なるほどなるほど、守られるだけの自分は嫌、か。なにか怖い事があったね。そして誰かに助けられた。ふんふん、その人の力になりたい、でも自分には力が無い。魔法も超能力も使えない、どうすればいいか分からない。だからここに来たんだね」


 有海をこねくりまわしながら言う女生徒。だがその答えに有海は驚く。

「!!どうしてわかるの!?」


 それにドヤ顔で答える。

「もちろん忍者だからね」

 周りの視線はさらに冷たくなるが、有海だけはキラキラと見つめる。


「忍者すごい……!」


「う……」

 さすがにちょっと罪悪感が沸いた様だ。



 有海の純粋な目で見つめられ、少し辛くなった空気をごまかすように話を切り替える。

「さて、挨拶がおそくなったね。私は忍術部部長、星田 静香(ほしだ しずか)。よろしく穂村有海くん」

 

「星田先輩。……ボク、あっちの大きな先輩が部長さんだと思ってました。この間のクラブ見学の時も色んな術を見せてくれたから」

「ああ、彼は副部長だよ。あの時は私は他の仕事が忙しくてね。まあそれもやっと片付いたから、こっちに戻れたのさ」


「他のお仕事?」

 何か委員会でもしていたのだろうか。


「ははは、まあそれはいいさ。さて、穂村くん、いやもう部員になる予定だから有海でいいかな?」

 別に後輩だから呼び捨てでいいのだが、一応確認してくれる。


「あ、はい、いいです」

「うん、じゃあ有海。忍術部に入るには試練がある。それが君にできるかな?」

 にやりと笑いながら問いかける。

「試練?」

「そう。これができなければ我が忍術部に迎える事は出来ない。どうだい、挑戦するかい?」


 弱い自分は嫌だ。守られるだけの自分は嫌だ。有海の答えは決まっている。

「ボクやります!何をすればいいの?」


 その答えを聞き、静香は嬉しそうにうなずく。

「その意気や良し。その試練だが……」


 ゴクリと唾をのむ。


「今後、私の事をおねえちゃんと呼ぶのだ!」

 ドンと慎ましい胸を張る静香。

 周りの3人はあきれ顔だ。


「え?」

 何を言われたか分からない有海。


「え?じゃない。私の事を静香おねえちゃんと呼ぶのだ。さあ早く」

 じれったそうに要求する静香。ちょっと息が荒い。


「えっと、それが試練なの?」

 内容は理解できても理由はさっぱり理解できない有海。多分理解できる人はいないだろう。

「そうだ。さあ、さあさあさあさあ」

 食い気味で要求する静香。


「えっと、静香おねえちゃん?」

 おそるおそる呼びかける。


「ブラボー!!!!!」

 叫ぶ静香。ビクッと怯える有海。部長ってこんなのしかいないのだろうか……。


「部長キモい」

 横にいる女生徒が非難するが、静香は意に介さない。

「何を言うか。この妹力が分からないのか?」

 また出た妹力。

「え~、ちょっと私にも言ってみてくれる?」

 非難しつつもちょっと興味ありげに言ってみる。

 

 ちょっと戸惑いながらも素直に言ってみる有海。

「おねえちゃん?」


「おおう!……なるほど、これは」

 まんざらでもなさそうな女生徒。

「そうだろうそうだろう。だが、おねえちゃんと呼ばれていいのは部長である私だけだ!」

 宣言する静香。


「ええ、ずるい!俺も……」

「僕も」

 抗議する男子二人。


 だが静香はそんな男どもに牙をむく。

 左手は有海の腰を抱いたまま、右手が一瞬霞んだかと思うと2枚の手裏剣が二人の男子に飛ぶ。


 カツカツ!!

 男子二人が座っていた椅子に手裏剣が突き刺さる。

「「あぶね!」」

 とっさによけた二人。

 その恐ろしいスピードで投げた手裏剣も、よけた動きも有海には全く見えなかった。


「10年早いわ、未熟者が!お兄ちゃんと呼ばれたければ私を倒すことだ!」

 なんかシリアスっぽく言ってますが、内容はすごく残念だった。


「えっと、静香おねえちゃん、これでボク強くなれるの?」

 いまだ理解できないが一応聞いてみる。


「もちろん!私を信じなさい。私が君を最高の忍者にしてあげよう。ああ、怖い、自分の知力が怖い!こんな素晴らしい作戦を思いつくなんて!知将!私知将!」

 やけに興奮しながら自画自賛する静香。なんという頭の悪そうなセリフだろうか。


「作戦?」

 その静香のよく分からないセリフに質問する。

「そう。有海は忍術を覚えて強くなる。私は嬉しい。ウィンウィンというやつだな。あとついでに桜も嫉妬して私に冷たい視線を向けてくるだろう。ああ楽しみだなあ」

 どんな未来を創造しているのか、遠くを見つめながら楽しそうに語る静香。息も荒くてちょっとキモい。

「桜ちゃんを知ってるの?」

「もちろん。桜は同じクラスだし、私は桜の恋人だ」

「こ、恋人!?」

 突然の爆弾発言に驚く有海。桜から恋人がいるなんてことは聞いたことがなかった。


 そんな有海の周りにいる3人の先輩たちは揃って首を横に振り、手で違う違うとアピール。どうやら周りの認識では恋人ではないらしい。おそらくそれが正解だろう。

 だが、驚きで周りが見えていない有海はそれに気づかない。静香も楽しそうだ。

「恋人……。すごい、さすが桜ちゃん、大人の女の人だ」



「さて、それはともかく、君はどんな忍者になりたい?一人でどんな敵も倒せる忍者?闇にまぎれてどんな秘密も探し出す忍者?それとも、……どんな男の子も虜にするえっちな忍者かな?」

 にまにまと楽しそうに有海に問いかける。

「え、えっちな忍者!?」

「そう、えっちな忍者。女忍者、くのいちはえっちな技で男から情報を引き出すのさ。私はマスターニンジャだからね。どんなえっちな技でも教える事ができるぞ」

 自信満々な静香。だが、それに対し周りの3人は、

「「「はて、えっちな技?……妙だな」」」

 と、どうやら認識にずれがあるようだ。


 しかし、まだ静香の事を知らない有海は大焦りだった。

「え、えっちなのはダメ!そんなの大人にならないとダメだよ!」

「そうか、えっちなのは駄目か。残念だな。えっちなくのいちのパイオニアと呼ばれた私の技を見せてやりたかったのだが……、まあいいか。

 だが、有海。君は好きな人の力になりたいと、自分で強くなりたいという道を選んでここに来た。それはもう子供ではない。まだ大人ではないが、大人の階段を上り始めたんだよ」

 はじめはえっちな技を教えられない事を残念そうに、だが次には自分で道を選んだ有海を褒めるように優しくささやいた。好きな人の事など有海は何も言っていなかったはずなのだが。


「……大人に?」

「そう、大人に。そうだ、今日帰ったら桜に連絡するといい。『今日ボク静香おねえちゃんに可愛がってもらって大人になったよ』と。きっと桜も喜んでくれるぞ?」

 とてもいい笑顔で教えてくれる静香。

「桜ちゃんに?そうかな?」

「もちろん!!私が保証しよう!」

 周りの3人はあきれ顔だった。ブチ切れの桜の姿が目に見える様だ。



 後日、烈火のごとく怒り狂った死天王の紅一点が、完全武装で学校中を走り回ったという。



 そうしてしばらく有海に忍者の事を教えていると、突然静香が何かを見つけた様に声を上げる。

「おや、面白そうな事をやっているな。ほう、なるほど……」

 目の前にいるのに有海を見ずに、どこか遠くを見つめるようにつぶやく。


「静香おねえちゃん?」

 いきなり遠くを見てひとりごとを言い出した静香に不思議そうに問いかける。

 しかし周りの部員たちはこれには慣れっこらしく、驚いた様子はない。

「面白そうな事?どこでやってるんです?」

 副部長が質問する。


「ああ、校庭だよ。運動部たちの場所を借りて、番長たちがやってるな。おや、君の好きな人もいるぞ、有海」

「黒森くんが?」

 素直に反応してしまう有海。

「ほほう、君の好きな人は黒森くんというのか。そうかそうか」

 楽しそうにニマニマ笑う静香。

「え!?あ、あの、違うの、ボク、ボク……」

 恥ずかしそうにうつむく。

 周りの先輩たちはちょっとかわいそうと思いながらも微笑ましそうだ。


「あっ、それより黒森くんがどうしたの!?どうして静香おねえちゃんはそんなのわかるの?」

 当然の疑問を投げかける。それに対し静香は何でもない事の様に答える。

「ああ、私はたくさん目があるんだ。いろんな事を見ているよ。忍者だからね。例えばこんなのも見ていたよ」

「目がたくさん?」

 言っている事がよく分からない有海を立たせて、自分も立ち上がり優しく抱きしめる。そして有海の髪をそっとすくいあげ、誰かの真似でもするようにつぶやいた。

「『綺麗な、髪だね』」


「!!!?」

 それを聞いた有海はあの夜の事を思い出し硬直する。

「え!?え、え、ど、どうして、どこで見てたの?だって桜ちゃんと輪と桃しかいなかったのに……」

 髪切り魔を桜が捕まえた夜の事は他の人は見ていなかったはずなのに。だが、そんな有海の疑問には答えず、静香は離れる。


「まあ、それは置いといて、私たちも見に行くとしよう。なかなかの好カードだ。金を払っても見られるものじゃないぞ。みんなも良く見ておけ。参考になるだろう。彼の実力は気になる、私も直に見たい」

 そう言って部室を出て行き、部員たちもそれに続く。よく分からないが紅が関わっているらしいので、ここで待つなどできない。有海も後を追った。





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