表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
番仙奇譚  作者: 秋尾 萩
猫の話
35/51


 有海の家を知っている者たちと一緒なので迷う訳はないのだが、それを抜きにしても有海の家はすぐに分かった。有海が家の前に立っていたからだ。


「あっ、黒森くん!こっちこっち!」

 紅の姿を見つけた途端、元気に手を振る有海。紅も軽く手を振り挨拶を返す。


「こんにちは、穂村さん。今日はお招きありがとう」

「うん!入って入って。こっちこっち」

 嬉しそうに紅の手を引き、門から庭の方に連れて行く。


「……俺たちは?」

 その声でやっと残りの二人に気づく有海。

「あっ、二人も来てたんだ」


「思いっきり3人並んで歩いてたじゃねぇか」

「ほんとに黒森くんしか見えてなかったんだ……」

 ちょっと本気で驚く二人だった。


「えへへ、ごめんごめん。今日はお庭でバーベキューなんだ。二人も早く」

 少し照れ臭そうに笑う有海。そう言って庭に3人を連れて行く。


 着いた庭ではすでにバーベキューの準備が整い、いや、すでにバーベキューが始まっていた。


「遅かったじゃないか。待ちきれないからもう始めちゃってるよ」

 輪に甲斐甲斐しくお世話されながら、もぐもぐと食べていた肉を飲み込んで桜がそう言った。

 有海の幼馴染みたち以外にも、髪切り魔を捕まえて本当に有海を助けた(紅視点で)桜も今日は招待されていた。


「交野先輩、西矢さんこんにちは。遅くなってすいません」

 約束の時間にはまだ少しあるのだが、謝る紅。


 すると横から、

「大丈夫よぉ。桜ちゃんが我慢できずに始めちゃっただけだから」

 有海に似て小柄な女性が紅に声をかけた。

 有海ほどには長くはないが、背中まである髪を後ろにまとめエプロンをしている。少し年の離れたお姉さんと言っても通じるだろう。

「あなたが黒森くんね。初めまして。有海の母の須美(すみ)です。今日はわざわざ来てくれてありがとう。本当ならこちらから伺わなくちゃいけないのに」

 そう言って頭を下げる。


「とんでもありません。実際に犯人を捕まえてくれたのは交野先輩ですし。あ、初めまして、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。黒森 紅です。今日はお招きありがとうございます」

 遅れて挨拶を返す。そして紅の認識では実際にそうだった。あくまで自分は時間稼ぎをしただけである。


「いや、その前にも娘を助けてくれたと聞いているよ」

 有海の母親の後ろから中年男性が声をかける。

「初めまして。有海の父の哲だよ。黒森くん。娘を、有海を助けてくれて本当にありがとう」

 そう言って改めて二人で頭を下げる。

 年上の大人にこれほど真面目に頭を下げられた経験の無い紅は焦ってしまう。

「あ、あの、本当にもう頭を上げてください」


「ほら~、哲さんも須美さんもいい加減にしなよ。黒森くん困ってるじゃないか。そんな風にしないために今日はバーベキューにしたんだろ。早く食べようよ」

 焦ってどうすればいいかわからなくなっている紅に桜が助け舟をだす。本気で肉を食べたいだけかもしれないが。


「ああ、そうだった。すまないね。さあ皆今日はたっぷり用意してあるから遠慮なく食べてくれ。黒森くんもね」

 桜にたしなめられて哲がコンロの前で肉を焼き始める。


「輪ちゃんと桃香ちゃんはよく来てるけど、さーくんは久しぶりね。えっと、可愛く?なった?わね?」

 褒めて良いのか迷いながら覚を褒める須美。

 そうして和気あいあいと昼食となった。



 それぞれ紅と桜をひたすらお世話する有海と輪。

「はい、これ焼けたよ。黒森くんなんのお肉が好き?」

「ありがとう」

「はい、お姉ちゃん。お姉ちゃんの好きなカルビ。」

「輪がとってくれたから3倍美味い」

「もうっ、お姉ちゃんそればっかり」

 デレる輪。

 

 恩人たちをもてなす会と言う意味では間違いない光景なのだが、見せつけられるクラスメイトとしては胸やけのする光景だった。まだ食べてもいないのに。

 

「もはや俺の知ってる有海じゃないな……」

「輪ちゃんはいつも通りだけどね」


 娘の成長に喜びと哀しみを感じる両親。

「あの自分が食べる事しか考えなかった有海が!」

「ぐぬぅ」

 自分たちが招待した手前、怒る事の出来ない父親の気持ち。この辺りの視線には敏感な紅は少々気まずそうだ。


 ある程度食べてお腹の落ち着いた桜が思い出したかの様に質問してきた。


「そう言えば君、あの刀以外にももう一本刀持ってるのかい?」

「いいえ?学校に何本も刀を持って行ったりしませんよ。なぜですか?」

 普通なら一本も持って行ったりしないのだが……。

「いやね、なんだか君が二刀流だって噂が流れてたからさ、ホントかなって」

「?変ですね。あの刀だって別に見せびらかしたりしてないですけど」

「どっかで尾ひれが付いたかな?」

「そうですかねぇ?」

 どの二刀流の事だろうか……。


 一刀の候補者である事に気づいた覚は、二人から目を逸らし肉を食べ続けた。

「さーくん?」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ