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番仙奇譚  作者: 秋尾 萩
髪切りの話
3/51

3


「おはよー!黒森くん!あれ?眼鏡なんだね?この前はかけてなかったよね?」

 紅が教室に入るとすぐに元気な声がかかる。

「おはよう、穂村さん。うん、学校ではね」

 紅は声をかけてきた女子生徒に挨拶を返す。小柄で幼い顔立ち。太ももの辺りまである長い髪の先を背中で一つにまとめている。スカートはかなり短めだがスパッツを履いており、元気の良さそうな彼女が動きまわってスカートがめくれても問題はない。一見中学生、セーラー服を着ていなければ小学生と間違えてしまうかも知れない。


「昨日はびっくりしたねぇ。まさかホントに一緒のクラスになるなんて。改めまして()(むら) (ある)()です。これからよろしくね。黒森くん!」

 昨日は入学式があり、クラス分けされた教室で今日からの説明を聞いただけで解散となり、まだ生徒たちの自己紹介も済ませていなかった。

 そんな中で、ほんの数日前に偶然知り合った穂村有海という少女と教室で顔を合わせたとき、お互いに驚いたものだった。


「あなたが有海の言ってた黒森君?」

 と、横から彼女の横に居た女子生徒が紅に声をかける。

「あ、はい、黒森(くろもり) (こう)です。おはようございます。初めまして」

「あ、おはようございます。ごめんなさい。初対面なのに挨拶もなしに。有海の友達の西矢(にしや) (りん)よ」

 紅に挨拶をされて自分の不作法に気づき、少し焦りながら挨拶を返す。どうやら真面目な性格の様だ。

 紅は声をかけてきた少女をさりげなく観察する。女子にしては背が高く、170cmある紅よりも少し低く160cm半ばほど。小柄な有海と比べると20cm近く差があるのではないだろうか。すらりとした体型で長い髪をポニーテールにしている。スカートは最近には珍しく、ひざ下どころかくるぶし近くまであるロングを履いている。制服に規定はないのだろうか……。目つきはやや鋭く、キリっとした表情は一見クールに見える。


「ふーん、珍しく有海が男子の話をしてたからどんな人かと思ったんだけど……」

 じろじろと少し警戒気味に紅を見る輪。

「有海がすごくカッコいい男子に会ったって言うから、どんな男前かと思ったら、なんだか普通ね」

 かなりずけずけと思ったことを言うタイプの様だ。

「うっ」

自分を男前とは思っていないが、さすがに初対面の女子からはっきりと言われるといささかショックを受ける。いや、普通と言われただけだ。ブサイクと言われたわけではない。普通と言われただけである……。


「あわわっ、ちょ、ちょっと、輪!!」

 焦る有海。

「別に不細工って言ったわけじゃないわよ」

 特に悪びれる様子もなく淡々と答える輪。


「そうだよ、今のは失礼だよ輪ちゃん」

 輪と有海の横にいたもう一人の女子生徒が輪をたしなめる。

 声をかけてきた女子を見る。その視線に気づき、

「あ、えっと、は、はじめまして。有海ちゃんと輪ちゃんの友達の前野(まえの) (とう)()です」

 ペコリと頭を下げて挨拶をする。

「こちらこそよろしく」

紅も律儀に挨拶を返す。


「もう、もう!輪はいっつもそう!」

 ほっぺたを膨らませながら有海が輪に怒っている。

「ごめんね黒森くん。この二人はボクの小学校からの幼なじみの仲良しなんだ。ずっと一緒のクラスなんだよ。すごいでしょ?まあ小学校も中学校もクラス数が少なかったから、そんなもんかなぁって思ってたけど、まさか高校でも一緒のクラスになれるなんてびっくりだよ」


 仲のいい友人と同じクラスになれたのがよほど嬉しいらしく笑顔で教えてくれる。

 三人ともずいぶん雰囲気が違うが、小さい頃から仲が続いているのだからよほど馬が合うのだろう。

「うん、大丈夫だよ。でも確かにずっと一緒なんてすごいね。」

「そうなんだよ。ここってすごく有名で人気でしょ?ボクたちこの辺が地元だから近くが良いっていうのもあったし、輪が絶対ここにするって言い張るから、ボクも輪もすっごく勉強がんばったんだよ。余裕だったのは(もも)だけかな」

「そ、そんな、わたしだって全然余裕なんてことないよ」

 少し恥ずかしそうに桃香が否定する

「なに言ってるんだ、あたしだって余裕だったさ。余裕がなかったのは有海だけだろ」

「なんだとー!ボクは知ってるんだぞ、ボクに隠れて桃に勉強教えてもらったりしてただろー!」

「あ、あれは有海の邪魔しちゃ悪いから、有海抜きで桃香と遊んでただけだ」

 少し動揺しながらも否定する輪。その表情で実際はどうだったかは推して知るべしだろう。



 そんなやり取りをしている四人に登校して来た女子生徒が声をかける。

「お~っす、有海。相変わらず朝から元気だな」

「げ、(さとる)。そういえばアンタもまた一緒だったか。」

 わずかに顔をしかめて有海が答える。

「前野も西矢もお~っす。高校になっても相変わらず三人一緒か。ほんと仲いいよなお前ら」

 覚と呼ばれた女子生徒が紅を見る。

「お、珍しいな有海と西矢だけじゃなく前野まで男子と喋ってるの」

 その視線を受けて紅が答える

「黒森 紅です。初めまして」

「うわ、固いなぁ~。おんなじクラスなんだからもっと軽くいこうぜ。俺は()(とり) (さとる)。その3人とおんなじ中学。黒森か。クロって呼んでいいか?俺のことはさーちゃんでいいぜ。これからよろしくな」

「ちょっと、あんたそんな犬みたいに」

 有海が抗議する。

 初対面でのいきなりのあだ名呼びに少し驚いたが、

「クロ、か。いままでそんな風に呼ばれたことないからちょっと新鮮だね。うん、それでいいよ。よろしく」

(これが陽キャ……)

  改めて紅は覚を観察する。覚の身長は紅より少し低いくらい。女子にしてはまあ背が高い。輪と同じくらいだろうか。茶髪で初対面から馴れ馴れしい態度と言動から軽そうに見えるが、なんとなく自分を探るような目つきが少しだけ気になった。初対面でお互いに相手を観察するのは当然と言えば当然なのだが、外見だけでなく何となく自分の内側まで覗いて来る様な不思議な感覚だった。

(サトリ、ね)

 少しだけ、その名前に違和感を覚えた。


(視えない、か。)

 紅を見つめる覚がわずかに目を細める。


「佐取さん?」

自分をジッと見つめる覚に紅が不思議そうに問いかける。


 名前を呼ばれて、すぐに笑顔に切り替えてバンバンと紅の肩を叩く。

「さーちゃんでいいって言ってるだろ。真面目か」


「黒森くん、そいつそんなカッコしてるけど、男子だからね」

 そんな二人に有海が話しかける。

「えっ!?」

(この見た目で男子?)

「もう、ボクが黒森くんと話してたのに。あっ、そうだ、ねえねえ、黒森くん。黒森くんクラブはもう……」


 バンッ!

 その時突然教室の前のドアが勢いよく開かれた。そして入ってきた大柄な生徒?が教室中に響く声で、

「このクラスはワシが占める!!」

 そこにはあの改造学ランをきた男子生徒の姿があった。




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