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番仙奇譚  作者: 秋尾 萩
蛇の話
27/51

13

 雪が立ち上がる頃には桜たちがそばまで来ていた。

 立ち上がった雪が振り返り桜たちを見る。

(うわっ)

(すげー美人)

(3Dやのに2Dより綺麗ってなんやねん……)

(これは……まずいな)

(……)

(なによこれ、勝てるわけないじゃん)

 初めて雪を生で見た全員が息をのむ。話には聞いていたがこれほどとは。



 だがそんな彼らの気持ちを分かっているのかいないのか、雪は笑顔で挨拶する。

「初めまして、番長連合の皆さん。そちらのカラスさんは何度かうちの傍まで来て頂いてますね」

 そう言って近くの木の枝に留まっているカラスをちらりと見る。

「弟がお世話になっております。紅の姉の黒森 雪(くろもり ゆき)と申します。特に交野桜さん、先日は弟を助けて頂いたそうで。改めてお礼申し上げます」


 桜に向かい優雅に礼をする。

「あ、いや、あの時はアタシの方こそ、有海を、妹分を弟さんに助けてもらってまして」

 あたふたと答える桜ににこりと笑う。



「時に交野さん、あ、桜さん、って呼んでいいかしら?」

「あ、はい。どうぞ」

「よかった。桜さん恋人はいらっしゃるの?」

「うぇ!?」

 この場になんの関係も無い話をいきなりぶっこむ雪。


 桜はちらりと横を見て、

「……いえ、特にいませんけど……」

「ああ良かった!あなたみたいな素敵な人が年下好みだったらどうしようかと焦っちゃったわ」

「アタシ今いないって言いましたよね!?」

(アタシ牽制されてるの!?)


「あ、いえ、弟さんに手は出しませんから」

「うちの子のなにが不満なの!?」

「めんどいな!この人!」



「あっ、そろそろ戻ってきそうね。皆さんすいませんが私はここにいなかった事にしてください。ブラコンって思われちゃうので。それではお先に失礼しますね」

 そう言って歩き出すと段々とその姿が薄くなり、すぐに見えなくなった。


「「「「ブラコンやん!」」」」

 死天王全員が突っ込む。

「あれで半仙かぁ」

「それよりあの老婆たちは……」



 そんなことを話していると、社のそばの空間が揺らぎ紅たち4人が出て来た。一人紅だけはやけにぼろぼろになっているが、全員無事の様だ。


「あ、先輩、あの蛇はどうなりましたか?」

 周りを見回しながら紅が尋ねる。

「あ、あ~、あれね。うん、まあ多分死んだんじゃない、かな?まあもう心配いらないと思うよ。うん」

 代表して桜がしどろもどろに答える。まわりの幹部連中もなんとなく気まずそうだ。


「?そうですか、さすがですね」

 なんとなく変な感じだな、とは思いながらもその答えに安心する。


「それより君、それどうなってるんだい?」

 桜が紅の破れた服を指差しながら問いかける。

 他の死天王も紅を取り囲んでじろじろと見ている。

「あー、えっと、蛇に破られた、と言いますか……」

「そういう事にしとこうか」

 なんと答えればいいか困っていると、深くは追及せずにいてくれた。



 とりあえず危機が去った事が分かると、安心してやっと空気が緩む。

 そんな紅の前に紫苑たちから離れた百合がおずおずとやって来た。


「あ、あの、黒森くん。ありがとうございます。あなたのおかげで私……」


 それを聞いた紅は我慢できずに叫んだ。

「違うっ!!」

「え?」

 突然叫んだ事に驚き、全員が紅を見る。


「違う!違う!僕のおかげ?君を助けたのは誰だ!?」

「え、えっと、だから黒森くんが……」

「違う!君は何を見てきたんだ!君を助けたのは多くのお金や時間をかけて、色んな手を尽くしてくれた家族だろう!?命懸けで戦ってくれた番長さんたちだろう!?」

 紅はその手で番長たちを差す。


「あっ」

「君を助けたのは、君が一人にならない様にずっとそばにいてくれた桔梗さんだろう!?」

「わ、私……」

 百合は震える手で口元を押さえ、桔梗を見る。


「僕は最初、君にかかわるつもりなんてなかった。見ず知らずの女の子がどうなろうと、僕には関係ない。怖いのは嫌だ。痛いのも嫌だ。恐ろしい蛇になんてかかわりたくなかった!でも君のためにどうしても力を貸して欲しいって頼み込んできたのは誰だ?自分にできる事ならなんでもするって頭を下げて、土下座しようとしてまで頼みこんできたのは誰だ?君を本当に助けたのは、誰だ?」

 大きな声で叫び、百合を見つめ最後は静かに問いかけた。


「そ、そんなことまで……、私、私、」


 百合は振り返り番長たちの前に行き、深く頭を下げる。

「皆様、本当にありがとうございました」

 番長たちは全員なにも言わずに微笑んでいた。そして総長がひらひらと手を振る。


 次いで百合は桔梗のもとに走り、じっと顔を見つめる。

「桔梗ちゃん、今まで本当にありがとう」

 そう言って抱き着く。


「嫁に行くみたいに言うな」

 桔梗は一度強く百合を抱きしめると、グイっと引きはがしくるりと百合の体を紫苑に向ける。そして背中を優しく押すと、

「行け」

 優しくささやいた。


 紫苑を見つめた百合はゆっくりと歩いて行く。

 だが、その顔を見た紫苑はなぜか苦しそうな顔をしていた。

「紫苑ちゃん……」


 紫苑の名を呼び、近づく百合に苦しそうにつぶやく。

「違う、違うんだ、私はそんなつもりじゃなかった……」

「紫苑ちゃん?」


 苦しそうな声で、紫苑は告白する。

「……小さい頃は何とも思わなかった。桔梗と百合と一緒にいるのが楽しかった。でも大きくなって、段々と綺麗になる百合と比べられるのが嫌だった。みんな百合を見て、百合ちゃんはきれいだね、百合ちゃんはかわいいね、って言うのを聞くのがつらかった。百合の引き立て役の自分が嫌だった。女の子として比べられるのが怖かった。だから髪を切って、男の子みたいな服を着た。百合と比べられない様に。そんな時、百合が蛇に見初められた。それを聞いた時、私は、私は……思ってしまったんだ。「ざまあみろ」って。そんな事を考えてしまった自分にびっくりした。怖かった。大好きだったのに。百合の事が大好きだったのに。そんな自分が嫌で嫌でたまらなくて、それから逃げるように、百合を助ける方法を探したんだ……。だから百合のためじゃないんだ。全部、全部自分のためにやったんだ!百合に感謝されることなんて、私はなにもしてないんだ!」



 紫苑は跪き、ぼろぼろと涙をこぼした。

 そんな紫苑を見て、百合は自分も跪き優しく微笑みながらそっと抱きしめる。

「ありがとう紫苑ちゃん。ごめんね。知ってた。全部知ってた」


「……百合?」

 それを聞いた紫苑は不思議そうに百合の顔を見る。

「だって、紫苑ちゃん隠し事が下手なんだもん。考えてることが全部顔にでるんだよ?ずっと一緒にいるんだもん、全部分かるよ。ね?桔梗ちゃん」

 振り返り桔梗を見る。

「ん。隠せてると思ってるのは本人だけ」

 実の姉からの辛辣な指摘。

「私すっごく性格悪いんだよ?今日もみんなが可愛いって言ってくれた。百合が一番可愛いって言ってもらえた。紫苑ちゃんよりも桔梗ちゃんよりも百合が可愛いって言ってもらえたって喜んでたんだから。どう?いやな女の子でしょ?

 だから、だからね?ありがとう。紫苑ちゃん」


 そう言って百合もぼろぼろと涙を流しながら紫苑を抱きしめた。

 抱きしめられた紫苑もゆっくりと百合を抱きしめて、泣いた。



 総長が歩き出し、そばに来ると何も言わずに紅の頭をぐしゃぐしゃとなでて帰って行く。次に副長が紅の肩にぽんと手を置いてから総長に続く。大柄な男子生徒(多分4人目の死天王だろう)がバンと背中を叩き、私市と河内森が同時に両側からひじで軽く突いてニヤッと笑って帰って行った。

 

 続いて自分も帰ろうと歩きだした紅の前に桜が来る。

「いいのかい?今なら文字通り両手に花を堪能できるよ?それも飛び切り綺麗な花を」

 いやらしくにやにや笑う。


 冷たい目で桜を見ながら答える。

「何年もかけてやっと咲いたのに、あれを摘むなんて無粋な事できませんよ」


「欲がないなぁ。ホントに男の子かい?アタシだったら二輪どころか三輪全部お持ち帰りするけどね」


「……嘘ばっかり」

 まだ数日の付き合いだが、紅は何となく桜がどんな人間か分かってきた気がした。



 3人の事は桜に任せて、紅は帰宅する。

 だが、途中で気づいてしまう。

「この制服どうしよう……」



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