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番仙奇譚  作者: 秋尾 萩
髪切りの話
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 その男は周りを見て、誰もいないのを確認すると公園のトイレに入った。そして個室に入りリュックを下ろし着替える。服を全て着替え、靴も履き替える。そしてロングタイプのレインコート。手袋を付け、顔全体を覆う仮面。露出は全てなくなり、一見して体格なども分からない。そして大切な得物も取り出す。

 必要な物を出すと、誰もいないのを確認し、荷物をまとめたリュックをトイレの掃除道具置き場に隠す。これからトイレの掃除に来る時間でもないだろう。

 また、個室に戻り、じっと考える。

(こっちの道に来なければ諦める。少年と二人で来ても諦める。他に誰か通りかかっても諦める。もう帰ってしまっていれば諦める。

 別にあの子でなくてもいい。だが、あれほど長い髪は珍しい。それにあの可愛らしい顔がどんな表情をするか楽しみだ。忠告はした。大人の忠告を聞かないのが悪い)

 そして男は黄昏時を待つ。



(今日は輪も桃も予定があって遊べなくてつまんないと思ったけど、楽しかったな。トランペットちっちゃいけどカッコよかったなぁ。ボクも練習したらあんな風に吹けるかなぁ。)

 さっきの事を思い出し、ご機嫌で歩く。

(結構暗くなってきちゃった。早く帰ろ)


 少し足を速めようとした時。目の前数メートル先に何かが飛び出してきた。


「えっ?」


 有海の前方に男が立っていた。いや、多分男とは思うが断定はできない。なぜならその人物は長いレインコートに仮面。性別も顔も分からない。

 「あっ、えっ、えっ?」

 しかし、その人物が友好的でないことだけは分かった。その手には短い刀が握られていたから。

 足が動かなかった。逃げなければいけないのは分かるが足が動いてくれない。

 男が歩きだす。ゆっくりと。

「ひっ」

 通り魔。髪切り魔。最近市内に出る。逃げなきゃ。切られる?助けを呼ばなきゃ。警察。色々な情報が頭の中を飛び交うが、震えるばかりで体が何も言う事を聞いてくれない。

 腰が抜けて座り込む。涙が出る。

 男がもう一歩近づいた時、やっと声が出た。


「やだーーーっ!!」


 その声に男は一瞬焦って周りを見回す。そして誰もいない事が分かると、さっきよりは足を速め有海に近づいて来た。


「や、やだ」


 もう一歩で有海に手が届きそうになった時、声が聞こえた。

「待て!」

 男が有海の背後を見た。

 自転車に乗った紅の姿を見た男は、躊躇わずに踵を返し走り去った。


 紅が有海の所に着いた時には、完全に男の姿は無かった。

「怪我は!?」

 自転車を飛び降り、有海を抱き起す。

 紅の顔を見た有海は、涙を流しながら紅の胸にしがみついた。

 紅は手のやり場に困ったが、恐る恐る抱きしめる。


 そうして暫くして、ようやく有海が落ち着いた時。

「警察を呼ぼう」

 それを聞いた有海はビクッと体を震わせる。

「ま、待って!お父さんとお母さんに心配かけちゃう!」

「でも」

「お願い」

 どうせ、警察を呼んだところで犯人は見つからないだろう。今までにも姿を見られて捕まっていないのだから。あまり模範的とは言えない考えだが、時間の無駄になるだろうと考え、有海の願いを聞くことにした。

 とりあえず、いつまでもここに居る訳にはいかない。泣き止んだ有海を家まで送り届ける。その間、有海はずっと紅の手を握っていた。



「ここ。ボクの家」

 住宅街の一軒家にたどり着く。

「もう一人で人気の無い所には行かないようにね」

 そう言って手を放す。

「あっ」

 少し寂しそうに手を見る。

「それじゃ」

 紅が背を向ける。

「あのっ、ありがとう!助けてくれて」

 振り返り微笑み、自転車で走り出した。

 







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