91:届けられた知らせ
厨房に戻ると、調理人のみんながフルーツケーキ作りを進めてくれていた。
おかげで後は焼くだけになっていたので、オーブン温め、焼くための準備を進める。
ただ、ティータイムには焼きあがらないと分かったので、お茶のために別のお菓子を用意することにした。
パンを使い、ラスクを作ることにして、シナモンやシュガーをまぶしたもの、シンプルなラスクにはたっぷりなバターとジャムを用意。ロキは美味しそうなラスクの香りに「ランスはまだ帰ってこないのか」とぼやいていたが。
そこにとんでもない知らせが届いた。
「ランス様が王立図書館で何者かに襲われ、怪我をされ、宮殿内にある医務室へ運ばれました」
報告をしてくれたのはアンリだ。
「!? 王立図書館で!? 嘘だろう!? しかも禁書の閲覧をしていたのに!?」
ロキが驚愕し、私は青ざめ、でも「ロキ様、宮殿内の医務室には私も行けますか!?」と尋ねると。
「それは……どうだろう。俺の連れとして連れて行くか……。いや、むしろ修道女として行った方が、入れるかもしれない。薬品を用意して籠にいれて、治療を手伝いに来たことにしよう。アリー嬢は、修道院で来ていた衣装はあるか?」
「あります、すぐに用意し、着替えます」
こうしてロキと私は大慌てで準備し、宮殿へ向かうことになった。
紺色のワンピースに、白の襟掛のついた修道服に着替え、馬車に乗り込んだ。馬車の中でアンリは何が起きたのか、詳しい情報を話してくれた。
王立図書館は、そもそも入場時に持ち物検査が実施される。通常は武器の携帯は禁止。許されるのは王族が来館し、護衛につく近衛騎士のみだ。
王立図書館のそばには、王立ローゼル聖騎士団の本部がある。ランスはそこで自身の聖剣を預け、王立図書館へ向かった。
手続きを経て、ランスは禁書の閲覧エリアへ向かう。
そこは地下の書庫で、一般の閲覧エリアとは一線を画す。入口には警備の騎士がいて、入退室は厳しく管理されている。そしてよほどのことがない限り、閲覧エリアの使用は被らないよう、調整されていた。
今日、この日、ランスが禁書を閲覧するにあたり、他の禁書閲覧者はいない。
ランスは一人、書庫に入り、テーブルに用意されている六冊の本の閲覧を始めた。本をテーブルに用意したのは、王立図書館の司書。司書でも禁書の扱いを許可された特別司書官で、王立図書館には三人しかいない。
今回ランスの本を用意したのは、デービス特別司書官。ランスが来る一時間前に、本を用意したというのだが……。彼は、アンリが宮殿を出た時点では、行方不明になっていた。
一方のランスは禁書の閲覧エリアで、六冊の本を見始めたはずだった。閲覧時間は二時間。ところが時間になってもランスは出てこない。おかしいと思い、警備の騎士が上長へ報告し、警備の責任者である騎士が、部下を連れ、閲覧エリアへ向かう。
するとランスは床に倒れており、意識を失っていた。
慌てて医務室へ運ばれ、王立ローゼル聖騎士団の本部に報告が上がり、偶然、本部にいたアンリが屋敷への連絡を買って出たのだという。
「医務室の医師による報告では、額に傷があったそうですが、それは倒れた時に出来た怪我ではないかと。他に傷がないか確認したところ、左手の指に切り傷があったそうです。僕が本部を出た時に把握した情報は、ここまででして……」
だがそう話している間に、宮殿に到着した。
中に入るには、いくつかの手続きが必要だった。
でも聖騎士であるロキとアンリがいてくれたおかげで、その手続きはかなりスムーズに進んだと思う。そしてようやく、宮殿の中へ入れた。
初めての宮殿。
でもその様子をじっくり観察する心の余裕はない。
豪華だ、ということは分かるが、一刻も早く医務室へ行きたいと思っていた。
「こちらです!」
アンリに案内され、医務室に到着すると……。
何人もの男性に取り囲まれているベッドがあった。
見えているマントの紋章は、王立ローゼル聖騎士団のものもあるが、見たことがない紋章もいくつかある。
「あれは王立図書館の警備の騎士で、そっちは近衛騎士団の騎士、窓際にいるのは警察で、あっちは……うん。ランスは人気者だな。さすが若きカリスマだ」
ロキはそう言うと、さらに「やあ、みんな。ランスの大親友のロキだ。俺にも彼の見舞いをさせてもらっていいか? 五分でいい。彼と話す時間をもらいたい」と告げた。すると……。
「心配をかけ、申し訳なかった。みんな、駆け付けてくれて、ありがとう。話せることはすべて話したつもりだ。申し訳ないが、これ以上の情報はなさそうだ。もし何か思い出すことがあれば連絡をいれる」
ランスの声を聞くことができ、心から安堵する。
言葉もハッキリしているし、意識もしっかりあるようだ。
「ロキ、ありがとう、迎えに来てくれて。もう大丈夫だ。屋敷へ戻りたい。手続きを頼む」
「さすがランス。ちょっとやそっとでは、若きカリスマは折れないと。オーケー。手続きをするよ」
私が隣のベッドのカーテンの陰に身を隠すようにしていると、ランスを取り囲んでいた男性たちが次々と医務室から出ていった。
「では俺は、手続きをしてくるよ、アリー嬢」
ロキがウィンクして医務室を出て行った。
お読みいただき、ありがとうございました。
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