84:感じますか?
ロキとランスは、不思議な関係だ。
ただの幼馴染みと言っているが、それ以上であることは間違いない。
二人の友情は厚い。
お互いのことを、完璧に信頼し、尊敬しあっている。
「ではアリー様、行きますよ。安全は確認していますが、何せ古いもの。万一に備えて命綱をつけます」
吊り橋は木でできており、朽ちかけている部分も多い。だからロープを体に結わきつけ、橋の落下に備えたわけだ。
ランスが私の手を取り、でも問題なく、吊り橋を渡ることができた。
吊り橋を渡り、城門をくぐると、そこにはベイリー(広場)が広がっている。いくつか建物もあるが、それは屋根が落ち、壁が崩れ、その様子を見ると、ここが廃城であると実感できた。
振り返ると、吊り橋の向こうで、弓を手にこちらに手を振るロキの姿が見える。
「アリー様こちらへ」
ペンダントをはずすところをロキに見られないようにするため、少し、右側に寄った。
「では、ペンダントを外しましょう。心の準備は大丈夫ですか?」
それは四天王が現れても、大丈夫か――ということだろう。
「ええ、それは勿論」と返事をすると、ガントレットを外したランスの手が、私のケープのリボンを解き、ワンピースの襟元のボタンをはずし始めた。これはペンダントをランスがとろうとしてくれている――とは勿論分かるのだけど。どうしてもドキドキしてしまう。
「ペンダントは自分で外しますよ」
ランスの手に、まるでその行動を止めるように、触れてしまう。
「これは自分だけではないと思います。でも想う相手の衣服に触れるだけでも、気持ちは高りますので……」
私はドキドキしていたが、ランスが輝いて見えるのは、満月からの銀色の輝きを受けているからだけではないようだ。
ワンピースの襟元のボタンを一つ、二つと外される度に、私の心臓は高鳴り、ランスの輝きが増す。
その細く長い指が素肌に触れた時は、ひんやりとした外気と彼の指の冷たさに、思わず声が出てしまう。それは驚きの意味が強い声だったが、ランスの光が強まり、その光を見た私の心臓がドクドクと鼓動する。
伸びたランスの手が私の首の後ろに触れ、ペンダントの留め具をはずそうとしていた。探るように首に触れるランスの指に、なんだか不用意に反応しそうになる。思わず視線を伏せるが、ランスの体はキラキラと輝いていた。
まさにお互いが鏡のようね。
ペンダントを外そうとしているだけなのに。
二人とも信じられない程、体が反応している。
これなら口づけをしなくても、大丈夫そうね。
「アリー様、はずします」
「は、はいっ」
「長時間外し、不要な魔物まで引き寄せるつもりはないので、髪を持ち上げてください」
「そうですね。分かりました」
両手でおろしていた髪を持ち上げる。
「感じますか?」
魔物の気配を感じるか――と問われているのに、なんだか別の想像をしてしまうなんて。修道女失格!
「! 感じます! もうペンダントつけてください」
「分かりました」
素早くペンダントの留め金を元に戻すと、ランスがワンピースの襟元のボタンをとめてくれる。私は髪から手を離す。
「アリー様、震えていますが、大丈夫ですか?」
「とても禍々しい気配を感じました。遠いのですが、近くにも感じます……。方角としては、右手なのですが」
「街道は左手なので、右手は……森ですね。隣街と王都の区切りでもあるミュルークの森が広がっています。レッドウッドの木々が多数見られる森です」
襟元のボタンを留め終えると、ランスはケープのリボンを結わいてくれている。そして、ふわりと私を抱きしめた。ランスの命の輝きを感じる。
「どんな魔物が出ようと、四天王であろうと、必ず自分がアリー様を守ります」
ランスに抱きしめられ、その言葉も聞いているのに。
不安な気持ちが収まらず、震えも止まらない。
ビースト・デビルベアの時とは違う、何か足元から這い寄るような恐怖を覚えていた。
さらに――。
「ランス様、聞こえてきます。地中を進む悪魔の行軍を! これは……」
地上に存在する場合、地を這い、岩の下に隠れ、草むらに潜む。でも魔物はあくまでこの世界に存在する生物の姿に似ているだけで、実態はその生物とイコールではない。
本来、地中に潜むことはなかった。
でも魔物だから関係ない。
地中にいる……!
そう。
魔物は……この一週間。
姿を現さなかった。聖騎士達は魔物の姿を見なかった。
でも魔物はいた。
ずっと。
足元に。
地面の下に潜んでいたんだ。
「ランス様、地中です! 私達の真下にいます!」
「!? 分かりました。こちらへ避けましょう!」
ランスの行動が、あと一瞬遅れていたら。
私とランスは、地面から這い出る瞬間に魔物に襲われていた。
二人して同時に、魂を喰われていたかもしれない。
飛び出したその魔物の大きさは、ビースト・デビルベアよりずっと大きかった。
王都にある巨大な教会の尖塔ぐらいの大きさだ。
これは見たロキは今、腰を抜かしていると思う。
私もランスがいなければ、立っているのは不可能だ。
「ランス様、これは教会の尖塔ぐらいの巨大なムカデの姿をした魔物<セント・ポイズン>です!」






















































