79:彼の流儀
四天王と言われたビースト・デビルベアランクの魔物が、あの廃城にいるのかとロキに問われたランスは、即答した。
「ああ。いると思う。ただ、四天王であれ、それと同等のランクであれ、過去に討伐されていれば、それは記録として残る。だが出発前に調べたが、あの廃城でそのランクの魔物が討伐された記録はない。……出現したという記録もないが」
ランスは事前調査も、しっかりしていたようだ。
「ただ初日に感じた気配は間違いない。そのランクだろう。そしてそれだけ強い魔物であれば、そこと構えた場所からは滅多に動かない。だからいるはずだ。今も」
それだけ強い魔物であれば、縄張り争いも関係ない。むしろ小物の魔物がコバンザメのように追随するぐらいだろうと、ロキも同意を示す。
てっきり現れるかどうか分からない魔物を待ち続けていると、私は思っていた。でもそうではなかったのね。
「……アリー様、申し訳ないです。四天王のような魔物がいるかもしれない――とあなたが知ると、心配するかもしれない。そう思い、このランクの魔物がいる可能性は伏せていました。でもここまで来てくれたあなたに、嘘をつくことはできません」
隣に座るランスが私の手を取り、甲へと口づけをした。
もう心臓がドキッとして「そんな、大丈夫です。私を心配させないようにしたことですから」と慌てて答えてしまう。
その一方で。
「四天王のような魔物が出現して、倒しきれるのですか……?」
するとランスは苦笑する。
それはまるで、倒しきれるのかと私が心配しないよう、咄嗟に手の甲に口づけをして誤魔化そうとしたけれど、それは失敗に終わったようです……みたいな顔だ。
「四天王のような魔物は、例えグランドナイトであっても、一人では挑みません。部隊を組んで挑みます。今回はデュアルナイトを中心に部隊を組んでいるので、もし四天王ランクの魔物が出現しても、倒せるでしょう。……よほどイレギュラーでない限り。もし通常では考えられないような事態になれば、一時撤退し、編成を考え直します。なんなら残りのグランドナイト二人も呼んで、事にあたります」
この言葉に私は理解する。
あの宿場町の森で、ビースト・デビルベアを倒すことになった時、ランスは「本当に申し訳なく思います。でも自分は聖剣よりも、この生命力で魔物を撃退してきたんです。これまでも、そして今も」なんて言い方をした。だからてっきり、彼は魔物を自身の生命力で倒すのが基本だと思っていた。
でも必ずしも、そうではないんだ。ソロで戦うなら自身の生命力で戦うが、部隊を組んで指揮官として現場に出る時は、仲間と協力して討伐する。つまり聖なる武器を使い、倒すつもりなんだ。魔物の討伐において、自身の生命力ばかりに頼るわけではないのね。
ビースト・デビルベアのような強い魔物……四天王ランクの魔物を倒すと聞いてしまったので、もしや私の協力が必要なのかしら?と思ってしまった。でもそんなこと、考える必要はなかった。
あの時、私の協力が必要だったのは、状況が状況だったからだ。
もし私の協力が必要かと今、ランスに尋ねたら、彼はこう答える気がした。
「あの時は待ったなしで脅威が迫り、宿場町には沢山の人間がいました。自分が食い止める必要があったのです。そこでアリー様の協力を仰ぐことになりました。でも今回は部隊を組み、多くの聖騎士がいます。デュアルナイトもいるのです。アリー様の協力がなくても、問題ありません。何より、あなたを魔物討伐の場に連れて行くつもりはありませんから。アリー様のことを、危険にさらすつもりはありません」
うん。絶対、ランスはこう言うわね。なんならこの言葉の後に、私の手の甲に口づけをしてくれそうだわ。
そうなると……。
「廃城にいる強力な魔物を倒す算段は、ちゃんと立っているということですよね。むしろ、そんな恐ろしい魔物がいるかもしれない廃城に近い村に、私とロキがいる方が心配……ですよね?」
するとランスは苦笑し、ロキが抗議の声を上げる。
「アリー嬢、俺はこれでも聖騎士で、デュアルナイトなんだから! 俺がいてもこの鉄仮面は気にしないさ。心配するのはアリー嬢だけ」
「当然だ。君が魔物に焼いて喰われようが、煮て喰われようが、俺は一切気にしないからな」
ランスにあっさりそう言われたロキは「ヒドイ!」と嘆くが、それを無視して、ランスは私に告げる。
「廃城から一番近い村がここですが、それでも相応に距離はありますから。ここにアリー様がいるぐらいで、過剰に心配するつもりはありません。どのみちこんな時間ですから、もう今日はこの宿に泊まっていただきたいと思っています。それに……」
そこで久しぶりにランスが光り輝く。
「約一週間ぶりにアリー様に会えて、自分はかつてない程、やる気に満ちています。今晩、自分の前に現れた魔物は、現れたことを一生後悔すると思いますよ……」
これだけ生命力が輝いていれば、触れた魔物は瞬殺だろう。後悔する時間もないに違いない。そんな風に私が思っていると。
「あ! あなたがアリー様ですね!」
ソプラノの、少し高音な男性……男子の声が聞こえ、振り返ると、そこには小柄で女子みたいない少年がいた。聖騎士の隊服を着て、長いアイスブルーの髪を、後ろで一本に結わいている。
【お知らせ】
新作公開&完結
『婚約破棄された悪役令嬢
大逆転ざまぁで断罪回避
~不敬罪だ!殿下は反逆罪です~』
https://ncode.syosetu.com/n5260in/
乙女ゲームの世界に、悪役令嬢として転生した私は、今、まさに婚約破棄されている真っ只中。
「貴様は婚約破棄に加え、不敬罪に問われたいようだな。……この場で貴様の首を落とすことも、できるのだぞ」
ブギ切れる王太子。その彼に対し、私は問いかける。
「殿下。もし、私に剣を向ければ、それは国家反逆罪になりますが、それでもよろしいのですか?」
果たして悪役令嬢である私は、どんな大逆転ざまぁを繰り広げるのか!?
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