69:緊張
「アリー様、到着したばかりでお疲れのところ、申し訳ありません。ペンダントのことを教えてくれた諜報部の知り合いが、訪ねてくると先触れがありました。丁度、ティータイムの時間ですし、ご一緒いただいてよろしいですか」
そう私に声をかけたランスは、文机の椅子にちょこんと座り、膝にトランクをのせている私を見て、不思議そうに尋ねた。
「……アリー様、何をしているのです?」
「緊張をしています」
「緊張……?」
「こんなすごい部屋、初めてですので、どうしていいのかが分かりません。それにランス様のそのお洋服も……。甲冑や隊服ではない、平時の服ですよね。かっこよすぎてさらに緊張しているんです」
もう包み隠さず答えると、ランスの端正な顔が真っ赤になり……。
「興奮しています?」
「ち、違います! そのような意味では、興奮していません!」
ちゃんと瞼を閉じていたが、それでも光を感じている。
ランスが相当光を発していることが想像できた。
「あっ」
思わず目を開けると、ランスが私の膝からトランクを持ち上げた。
「荷解きはメイドにさせますから。アリー様は着替えを。ドレスもいくつか用意してみました。気に入っていただけるといいのですが……」
そう言うとランスは「リリス、ララ」とメイドの名を呼ぶ。
二人のメイドが部屋に入ってきた。
明るいブラウンの髪にヘーゼル色の瞳のリリスに、トランクを預け、荷解きを指示する。落ち着いたブラウンの髪にピスタチオグリーンの瞳のララに私の着替えを命じた。
「それでは一時間後にまた迎えに来ます」とランスは微笑み、部屋を出ていく。ホワイトブロンドの髪を揺らしたランスは、やはりカッコイイ!
「アリー様、ドレスに着替えましょう」
ララは笑顔で、私をクローゼットへ連れて行く。
「本日のランス様が、ターコイズブルーのお召し物でしたので、こちらのドレスでいかがでしょうか」
そう言ってララが私に見せたドレスは……。
ランスの瞳と同じターコイズブルーの生地に、身頃とスカート全体に見事なフラワーレースが飾られている。さらに透明で艶のあるグラスオーガンジーがスカートをふわりと包み、それがとても上品! 胸元と裾を飾るビジュー、ウエストのサテンリボンも、いいアクセントになっていた。
さらに髪は左右の髪をそれぞれ編み込みにして、ドレスとお揃いのサテンリボンで留めてくれた。
なんだかとっても華やかで、まさにお姫様になった気分だ。
そして私が着替えている間にリリスは、トランクの中身をすべて片付けてくれている。
「ありがとうございます」とリリスとララに御礼を言うと、二人は「とんでもございません!」と驚き、「このお屋敷にご家族以外の女性のお客様をお迎えするのは初めてで、私達も至らない所があるかもしれませんが、どうか末永くよろしくお願いします!」と口を揃えて言ってくれるので、もうたまらない。
この宮殿のようなお屋敷で迎えられる女性客は私が初めてであること。しかも「末永く」なんて言われてしまうと……。
完全に頬が緩み切ったところで、私を迎えに来てくれたランスは、扉を開け、顔をのぞかせた瞬間に、輝いている。
「アリー様、準備が整ったようですね。……とても美しいです。ドレスよりもあなたが……」
ランスの言葉に、二人のメイドが悶絶しているけど、私も腰が抜けそう!
「ありがとうございます。ランス様が用意くださったドレスのおかげで、私の良さが引き立ってくれたのではないかと思います」
もうこの敷地一帯に潜んでいた魔物は、全滅ね。
限りなくキラキラと輝くランスにエスコートされ、サンルームへと向かった。
「応接室よりここの方が陽射しもあり、庭園もよく見えます。開放的でアリー様もお好きなのではと思ったのですが、いかがですか?」
「ええ、おっしゃる通り、素敵な庭園を見ることができ、ガラス窓と天井からも冬の日の穏やかな日が届き、ここはぽかぽかですね。とても気に入りました。ここでのティータイムを提案くださったランス様に、感謝の気持ちでいっぱいです」
そう答えると、ランスはとろけそうな笑みを浮かべ……。私はゆっくり目を閉じ、開ける。ランスの輝きは、ちょうどいい明るさに収まっていた。
私は窓際の大きな壺に飾られた、モコモコな雪のような花に手を伸ばす。
「ランス様、これは何ですか?」
「これはコットンフラワーというもので、洋服の原材料になる花です。花……というか、実がはじけたものが、この白いコットンなのですが。まるで雪みたいに見えて可愛らしいですよね。アリー様が見たら喜ぶかと思い、用意させました」
「まあ、そうなのですね。触ってもいいですか?」
「勿論ですよ」
テーブルに用意されたお菓子も、どれもこれも色鮮やかで宝石みたいに美しく、聞くとすべて「アリー様が喜びそうなお菓子を用意させました」とランスは答えてくれる。私のためにあれこれやとランスが用意してくれたのだと思うと、もう嬉しくて、彼に抱きつきたくなってしまう。
一応まだ、私は修道女のままだ。正式に修道女をやめるということには、まだなっていない。それにランスも聖騎士のままだ。ペンダントについて調べるにあたり、聖騎士である方がいろいろと融通もきくし、急には辞めることもできない。
両想いであるのに、踏み出せないことがもどかしいが、王都と村で離れ離れだったのだが、今はこうして同じ場所にいられるのだ。今はこの状況を神に感謝し、不平など言うべきではないだろう。
「ランス様。改めてですが、私のためにいろいろ用意いただき、ありがとうございます。とても嬉しく、私は幸せです」
向き合ってランスにそう告げると、彼の美貌の顔が輝き、そっと私の手をとり、ぎゅっと握りしめる。
「アリー様」
「おやおやおや! 鉄仮面ランスがとろけそうな顔をしている。これは明日、季節外れでヒマワリの花でも咲くのではないか!」
声に入口の扉の方を見ると、バトラーの横にワイルドな姿な男性がいた。
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