65:前向きに
副修道院長が部屋に戻って来た後は、ランスをエントランスまで見送った。
ランスが馬に乗り、宿へと向かう姿を見ていると、その姿がカッコいい!と思えるのと同時に。せっかく会えたのに彼が行ってしまうことに寂しさを感じていた。
無論、王都へ行くのではない。
この村で唯一の宿に行くだけで、絶対に明日になればまた会える。
だからそこまで悲しく感じる必要はないのに。
ランスと入れ替わる形で修道院長が戻って来た。
彼は明日、朝食が終わったら、自身の執務室に私に来るようにと告げ「今日はもう遅いから、就寝の支度をしなさい」と言ってくれた。
こうして翌日。
朝の掃除や朝食の席で、ナオミとキャリーに、昨日の出来事について、忙しく報告しあうことになった。
ナオミは、私がマイに襲われ、警察署にいる間に、ジルベールとの関係を深めていた。
ジルベールはナオミのために、バイオリンの演奏家を呼び、素敵な愛の曲を演奏させる。美しい曲が流れる中、ジルベールは、近々行われる舞踏会に一緒に行かないかと、ナオミを誘った。勿論、ナオミは快諾。その後は、水路沿いを手をつないで散歩し、帰りは馬車に同乗したジルベールが、修道院までナオミのことを送ってくれたのだという。
一方のキャリーは、里親候補の夫妻と一緒に、まずはティータイムを過ごした。ジンジャークッキーとミルクティーを楽しみながらおしゃべりをして、その後はいろいろなお店を見て回った。
夫妻は元々そうするつもりだったのか、キャリーが少しでも興味を持ったものがあると、「今日の記念に」とプレゼントしてくれる。没落の危機にある中、幼少期を過ごしたキャリーは、貴族の令嬢でありながら、我慢の人生を過ごしてきた。
修道院に入った時のキャリーの持ち物は、ボロボロのクマのぬいぐるみだけだった。
よってこんな風に欲しいと思った物を買ってもらったことがなく、いろいろとプレゼントしてくれた里親候補の二人に、泣きながら御礼をしたという。
二人の心温まるエピソードの後に、私がマイの件を話すと、二人はもう、ビックリだ。
マイはかなり変わっている。それはナオミもキャリーも同じ認識。でもまさか、私に対して凶器を向けるとは思わず、二人とも「信じられない」「恐ろしいですわ」と青ざめた。でもそこにランスが現れ、助けてくれたことを話すと……。
「聖騎士様なのに、恋してしまいそう! アリー、好きになっていない!?」とナオミは目を輝かせる。キャリーも「まさに運命的。恋に落ちてもおかしくないと思います!」と頬を染める。
マイの言動にショックを受けたが、ランスの活躍を知ると、その衝撃はかなり緩和されたようだ。
だがそのランスが私の両親を探すため、王都に私を連れて行くと知ると、二人は途端に悲しそうな顔になる。
「会えるものなら、アリーにはご両親に会ってほしいと思うわ。でも……せっかく戻って来たと思ったのに! また王都へ行ってしまうのは、悲しいわ……」
ナオミがそう言えば、キャリーも同意する。
「里親候補のご夫妻に会っていると、家族の存在は大きいと思ってしまいますわ。一緒にいると心が温かくなる……。わたくしの本当の両親は、今はどうなってしまったのか、分からない状態。もしもう一度会うことができるなら、会いたいと思ってしまいます。だからアリーのご両親が見つかるなら、応援したいです。でも王都に行ってしまうのは……とても寂しいですわ」
私が王都へ行ってしまうことは、寂しいし、悲しい。でも幸せになってほしい。最終的には「気を付けていってらっしゃい」と、二人からは言ってもらえた。
朝食後、すぐに修道院長に会うため、彼の執務室へ向かう。すると修道院長は、今後のこと、マイが失踪中に何をしたのかを、教えてもらうことができた。
「本当に、恐ろしいことだよ。マイは実家に戻り、ご両親に凶器を向けた。アリーにも向けられたあのガラス片だ。自分がこうなったのは、両親のせいだと言ってね」
修道院長の執務室のソファに座り、彼と向き合うと、マイがどこへ向かったのか、まずはそれを教えてくれた。
「幸いご両親は、両手に怪我をするだけで済んだ。その後、マイは自身の妹夫妻が暮らす離れに向かい、そこで自身の元婚約者、現在は妹の旦那さんに襲い掛かって……。彼は顔に傷を負い、妹は逃げる際、転倒し、腕の骨を骨折した。でも警察が来ることを知ると、逃走し……」
そこで修道院長は、深々とため息をついた。
「両親も、妹夫妻も。仕損じたと知ったマイは、もう魔物を使うしかないと、アリーのペンダントを奪おうとしたようだ。なんでもアリーのそのペンダントを、マイはシャドウマンサー<魔を招く者>だと言われたダモクレス伯爵が書いた『魔こそこの世の美徳なり』という書物で見たことがあるそうだ」
もしやそれはランスが言っていた、王宮図書館に保管されている本のことでは!? でも閲覧制限がかかっているはず。マイはどうやって見たのかしら?
「この書物をマイは、実家の屋敷の地下倉庫で見つけたらしい。彼女は隠し持っていたが、両親に見つかり、もう何十年前に焚火にくべられ、燃やされてしまった。よってマイが欲しいと思った黒い宝石であることは勿論、シャドウマンサー<魔を招く者>につながる物であることも相まって、なんとしてもアリーから奪おうとしたと、彼女は供述している」
いよいよこのペンダントが、シャドウマンサー<魔を招く者>につながる物であることは……間違いなくなったと思う。
「このペンダントが何であり、どのようなものであるか、マイは知っていたのでしょうか?」
「マイがその本を見つけたのは、十代前半。今となってはその本の詳細も、ほとんど覚えていなかった。ただ絵は、頭に残っていたらしい」
やはり王立ローゼル聖騎士団の団長が王都に戻るのを待ち、王立図書館で本を見ないと、謎は解けないわね。
そんなことを思う私に修道院長は、お昼前にはランスが来るので、荷造りをしておくこと、ランスが来たら王都へ向かい、そのペンダントの謎を解き、両親を見つけるといいと言ってくれた。
「ペンダントがシャドウマンサー<魔を招く者>につながる物だったしても、アリーの両親が悪意を持って残したとは思えない。アリーはとても上等な布に包まれ、籠だって高級なものだった。止むに止まれぬ事情があったのだと思うよ。だから前向きに考えるんだよ」
そう言って修道院長は話を終えた。






















































