63:なぜここへ?
ランスがあの場に駆け付けることになった経緯として、副修道院長と私に話してくれた内容は……。
王都に戻ったランスは、私がつけているペンダントを元に、王立ローゼル聖騎士団の諜報部に協力を仰いだ。その結果、ペンダントの実物を元に、調べを進める必要性が生じた。
つまりランスは……私を王都へ連れて行くため、再び村へ来てくれていたのだ……!
王都とこの村は遠いので、ランスが到着した時、既にティータイムの時間に近かった。そのまま修道院を尋ねたランスは、修道院長と面会をして、事情を説明。修道院長としては、来るものを拒まず、去る者を追わずが、基本スタンスだ。後は本人の希望次第となったが、私はホリデーマーケットへ行っていた。それを知ったランスは、村で一軒だけの宿をとっていたので、そこで私が戻るのを待つことにしようとしたが……。
修道院長は私の近況として、マイのことを最後にランスに話した。私の同室者であるマイは、どうもシャドウマンサー<魔を招く者>に傾倒している。私に対しても、黒い物や赤い物を持っていると欲しがり、昨日も私にそう言った物を要求し、暴力を振るおうとしたと。そしてそのマイは現在、失踪していることを聞かせた。
その話を聞いたランスは、マイが私を狙う可能性を考える。
日曜日のホリデーマーケットは人が多い。私を見つけられず、手ぶらずで終わることも考えられた。ただ、ランスは王立ローゼル聖騎士団の紋章のついたマントを着ている。聖騎士がホリデーマーケットにいると分かるだけで、犯罪率はグッと下がった。
特に聖女を敵視するシャドウマンサー<魔を招く者>は、聖騎士を無視できない。よって私が見つからなくても、マイがランスに反応するかもしれない。
その期待も込め、ひとまずランスはホリデーマーケットへ向かった。
だが懸念していた通り、ものすごい人混みで、私を見つけるのは難しい。ただ、私とナオミがどんな服装をしているかは聞いていた。しかもジルベールと三人で動いていることも。
それらの情報を元に、また私達の行動傾向を考え、ランスはやみくもにホリデーマーケットが行われている広場を歩き回ることはしなかった。店の店員などにヒアリングをして……。
ホリデーシーズンを記念したスタンプやレターセットを売っているお店を発見した。そこは飲食店のように、大量に人が押し掛けるわけではない。客足が絶えることはないが、店員は接客を余裕持ってできる。
さらに私が手紙を書く可能性を考えた時、この店に足を運ぶ確率は高いと考えた。もし商品を購入するなら、それはホリデーマーケットを訪れてすぐではないだろう。邪魔になるし、修道院に戻る直前に立ち寄る可能性が高い。
例年、ホリデーマーケットに出掛けた私とナオミは、夕食の時間には修道院に戻っている。それは平時の門限の時間であり、孤児院時代からそこで過ごす私には、夕食までに外出から戻ることが習慣化されていた。
ランスがスタンプやレターセットを販売するお店を見つけたのは、間もなく日没に近い時間。ということは、直近でこのお店に私が立ち寄ったに違いないとランスは考え、店員に話を聞くことになる。
そこでつい数分前に、ランスが言う三人組がスタンプやレターセットを購入したことが明らかになった。しかも購入後、どちらの方角に向かったかも分かったのだ。
確認すると私達が向かった方角には水路があり、そこには沢山のベンチがあり、この時間、恋人同士でにぎわうという。つまり二人組が多い中、三人組は目につきやすい。
見つけられる。
そう確信し、ランスは私を探すことになった。
一方の私はジルベールとナオミを残し、一人、逆流して歩いていた。その行動は、人探しをしているランスからすると、目立つ。つまり、私をすぐに発見できた。でも距離がある。急いで私の方へ向かおうとするが、なぜか私は細い路地へと入っていく。
不安を覚え、走り出したいが……。
人の流れには、逆らっていない。ただその路地へ行くには、道幅分の歩く人を横断し、向かわなければならない。
ようやく路地に到着すると、ガラス片をまさに私へ振り下ろそうするマイを、ランスは目の当たりにする。その後は騎士として訓練した瞬発力と判断力で、マイの排除に努めたというわけだ。
これを聞いた副修道院長は「ランス様は、騎士としても聖騎士としても、大変素晴らしい力をお持ちですね」と感嘆し、私はまさに大ピンチの時に駆け付けてくれたランスに、感動していた。
ランスが話し終える頃には、食事も終わっている。
副修道院長から「では今日のところはそろそろ」と言われると思った。だが……。
「ランス様とアリーは今日、きちんと話す時間をもてましたか? 状況を聞くと、警察署で話を聞かれ、修道院へ戻るのも馬車と馬とで別々。そして現在に至っているように思います」
まさに副修道院長が言う通り。
ランスと二人でじっくり話す時間は、もてていなかった。
警察署に行く時はマイを連れていたし、マイに余計な情報も与えたくなかったので、ランスとはほとんど会話していない。おそらくマイは、ランスを通りすがりの聖騎士だと思ったことだろう。偶然現場を目撃し、私を救出したと思っているはずだ。
「これからそれぞれ就寝のための準備もあるでしょうし、ランス様は宿へ戻る必要もありますよね。ですから30分ですが、このままこの執務室で、お話されますか? 私は30分したら戻ってきますので」
この有難い申し出を受け、ようやくランスと私は二人きりで、話をすることができるようになった。






















































