59:貴族の令嬢みたい
翌朝。
確認したが、まだマイは帰ってきていない。
朝食をナオミとキャリーととっているところに修道院長が来て、私の新しい部屋の用意は、今朝済ませてくれたらしく、もう移ってもいいという。
聖女だと言われ、王都に行くことになった時、一度荷物を整理している。結局のところ、私の荷物なんて、トランク一つ分しかない。
ナオミとキャリーが手伝ってくれたおかげで、私はジルベールの迎えの馬車が来る前に、新しい部屋へ移ることができた。もうこうなったらあのハンカチとブローチは、新しい部屋に持っていくことにした。
修道院長は自警団の所へ向かい、マイの捜索を本格的に始めるようだ。
新しい部屋に移動してから、着替えをすることにした。
オフホワイトのロングワンピースは、身頃・ウエスト・裾に草花柄のカラフルな刺繍があしらわれている。太めの糸と細めの糸を使い分けた刺繍が美しい。これは貴族が寄付してくれた服の一つで、丈がとても長かった。身長的に着られるのは私だけだったので、みんな欲しがったが、私がもらうことになった一着だった。
キャリーが教えてくれたのだが、刺繍の一部はザリ刺繍というものが使われており、それは異国の伝統的で贅沢な刺繍なのだとか。確かにそこだけ金や銀の特殊な糸が使われており、高級そうに見えた。
スカート部分も美しいドレープがあり、久々に着たわけだが……。
ランスにも見せたかった。
そう思ってしまう。
折り畳むと皺になってしまうからと、修道院に置いて行った服の一つだった。一応、丈を詰めれば私以外でも着ることができるので、聖女となった暁には、残ったみんなに譲るつもりだったのだ。
ランスとこの修道院を出る時は、このワンピースを着よう。
そんなことを思いながら、手提げバッグにあのブローチをハンカチにくるんでしまう。今日の一番の目的は、ホリデーマーケットを楽しむことより、このブローチをジルベールに渡すことだ。
そこで元気よく扉がノックされ、「アリー、行きましょう!」の声が聞こえる。
ナオミだ!
返事をすると元気よく扉が開き、ナオミが部屋に入って来たのだが……。
「わあ、ナオミ、素敵なワンピースね!」
黄色とオレンジのグラデーションになっているワンピースは、身頃にリボン刺繍で小花が飾られている。スカート部分にはビーズが飾られたチュールが重ねられ、ワンピースなのにドレスみたいにも見えた。
髪も三つ編みを綺麗に一つにまとめていて、今日のナオミは……貴族の令嬢みたいだ!
いや、ナオミは男爵令嬢なのだから、これが正解。
「アリーもそのドレス、よく似合っているわ。……それでブローチは?」
「ええ、ちゃんと持ったわ」
「じゃあ、行きましょう!」
時間通り、ジルベールの馬車は迎えに来てくれた。
ナオミと二人で馬車に乗り込む。
丁度、私達が出発するのと入れ替わりで、修道院長を乗せた二人乗り馬車が戻って来た。修道院長は手を振り、笑顔で見送ってくれる。ナオミと私は令嬢気分で修道院長に手を振った。
通りに出ると、沢山の荷馬車に村人が乗り込み、町へ向かっている。日曜日で天気にも恵まれた。みんなホリデーマーケットに向かっている。
町までの道は、早くも馬車渋滞もできたが、なんとかマーケットが行われている広場の手前に到着できた。御者が扉を開け、馬車から降りようとすると……。
「レディ、お待ちしていました」
ジルベールが迎えに来てくれていた。
今日のジルベールは、クリーム色のセットアップを着ている。タイはシャーベットオレンジで、ベストはキャラメル色にゴールドの飾りボタン。ナオミと横に並んだ時、まるでお揃いの色味で揃えたみたいだ。
これにはもうナオミが大喜び。
馬車から降りるのをジルベールが手伝ったのは勿論、彼の装いが申し合わせたかのように今日の服とマッチしていたのだから、ナオミが大喜びして当然だった。
一方の私は、例のブローチをまずはジルベールに差し出す。
すると。
ジルベールは受け取ったブローチをハンカチごと一度巾着にいれ、そしてハンカチを取り出し、私に返すと「ジーク」と誰かの名を呼んだ。
そこへ来たのは、サンタベリー子爵家の紋章の入ったマントを着用した騎士!
どうやらサンタベリー子爵家に仕える騎士を連れてきていたようで、彼はその巾着を彼に渡し、「これはとても大切なものだから。我が家の金庫にしまうよう、ネイサンに渡してくれ」と命じる。
「かしこまりました、若君」
ジークという騎士はジルベールに深々と頭を下げ、巾着を胸元に大切そうにしまう。
その様子を確認すると、ジルベールは笑顔になり、ナオミと私を順番に見た。
「では行きましょうか」
「「はいっ!」」
毎年訪れるホリデーマーケット。雑貨やホリデーシーズンの飾りは、毎度おなじみだった。それでもそれを見て歩くのは楽しい。
少しできたスペースでは、大道芸や手品を披露している人もいて、お祭り気分が満載だ。
「混雑する前に、昼食にしようか」
ジルベールの提案に従い、軽食を売っているお店に並ぶことにした。






















































