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聖女ではありませんでしたが、聖騎士様に溺愛されそうです  作者: 一番星キラリ@商業ノベル&漫画化進行中


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53/142

52:衝撃的だった

 サンタベリー子爵の屋敷から戻ると、他の修道女や修道士、孤児院の子供達は晩御飯を楽しみにする。


 御礼を届けに行っているのに。


 結局、御礼以上のお土産を沢山、持って帰るからだ。砂糖菓子やチョコレート、舶来品の外国のお菓子など、もう、みんな大喜び。


 一旦自室に戻り、そして食堂へ行くのだが……。


 私はみんなが喜ぶ顔を考え、それで気分が盛り上がるのと同時に。


 みんながウキウキ気分の中、何を考えているか分からないマイは、部屋に入るなり、何かを隠すようにポケットから取り出した。


 別に見るつもりはなかった。


 でも、それはとてもキラキラしていたから見えてしまったのだ。それは宝石だ。アーモンド形の、花びらを模した六枚の、黒いのに透明感のある宝石。中央には赤い宝石が一粒。


 見たことがあった。


 これは……サンタベリー子爵のご令嬢オリアが、制服のブレザーにつけている生徒会長を示す宝石では……?


 彼女が通う寄宿学校の中等部に、代々伝わる生徒会長を示すブローチ。

 見間違えるはずがない。

 通常は三年生がなる生徒会長に、オリアは一年生の時から就任している。だから私はそのブローチをこの三年間。ずっとサンタベリー子爵の屋敷を訪問し、オリアに会う度、見てきたのだから。


 なぜ、マイが持っているの……?


 まさか。


 マイは今日、貧血だと倒れこみ、オリアに手を貸してもらっていた。その時に盗んだのでは……? その可能性は……高い。そのブローチの宝石は、黒と赤い宝石が使われている。そしてマイはなぜか赤と黒に執着していた。


 欲しい……と思ったら、他人の物でも平気で盗んでしまう人なの……?


 衝撃的だった。


 どうしたらいいのだろう? もし彼女がオリアのブローチを盗んでいたと修道院長に話せば、当然、彼はサンタベリー子爵に報告することになる。そうなればサンタベリー子爵は……。


 そんな手癖が悪い人間がいる孤児院や修道院に寄付はできない――となる可能性がある。もしそんなことになれば、このバーリン孤児院も修道院も大打撃だ。


 寄付金がもらえなくなるだけではない。

 素敵なお土産ももらえなくなれば、みんな悲しむだろう。

 ナオミもジルベールとも、二度と会えなくなる。


 何にもまして怖いのは、悪い噂が広がること。


 サンタベリー子爵はきっとショックを受け、寄付はやめても、マイがブローチを盗んだと誰かに話すことはないだろう。でも突然、寄付をやめれば、周囲の貴族は「なぜ……?」と思い、様々な推測をする。それは噂として広がっていく……。


 そうなるとバーリン孤児院と修道院への寄付を、他の貴族が止めてしまうかもしれない。


 他の人は皆、マイがブローチを盗んだと気づいていないと思う。うまく取り戻し……。


 そうだ!


 明後日の日曜日。


 ジルベールとナオミと、ホリデーマーケットに行くことになっている。そこでジルベールに事情を話し、こっそりオリアに返してもらえば……。


 ジルベールならきっと事情を理解し、公にせず、動いてくれるはずだ。


 それにしても、どうしてこんな恐ろしいことを、マイはしたのだろう? 修道院へ来ることになったのは、この窃盗癖のせいなのだろうか?


 今頃、サンタベリー子爵家では、オリアの生徒会長を示すブローチがなくなったと、大騒ぎしているはずだ。オリアが困っていると思うと、一刻も早く返してあげたくなる。


「アリー、夕食に行きましょう!」


 ノックの音と共に、ナオミの声が聞こえる。

 部屋まで誘いに来てくれるなんて、ジルベールに会えて、ナオミはこの上なくご機嫌なのだろう。


「はーい、今行くわ」


 私はチラリとマイを見るが、文机の椅子に座ったマイはこちらへ背を向け、何をしているかは分からない。


 それに昨日も声をかけたが「食堂は一人で行くので放っておいてください」と言われてしまった。それでも「マイ、私、先に食堂に行くね」と声をかける。


 マイはジロリという感じで私を一瞥すると、視線を机に戻した。


 そのままナオミとキャリーと共に食堂へ向かい、私は二人に先ほど見たブローチの件を話すことになった。どのみち、ホリデーマーケットにはナオミと行く。ブローチをこっそりジルベールへ渡したら、勘違いされてしまうかもしれない。


 だからあらかじめナオミには話すつもりだったし、ナオミと同室のキャリーとは、行動を共にすることが多いから、隠し切れないと思った。だからこの際、話すことにしたのだ。


 私の話を聞いたナオミは、驚きより憤慨している。


「信じられないわ! 元は貴族の令嬢でしょう!? それが人の物を盗むなんて!」


 ナオミが立ち上がりかねない勢いで怒り出すので、隣に座るキャリーが慌てて声を小さくするように言い、落ち着くよう肩を押さえる。


 金髪でエメラルドグリーンの瞳のキャリーもまた、元は貴族の令嬢で、現在は15歳。家が没落し、一家は離散。両親は行方知らずで、キャリーはこの修道院にやってきた。


 大人しく礼儀正しいキャリーは、修道院に何度か訪れた貴族の夫妻から気に入られ、里親の話が出ている。今日もその里親候補の貴族に、会いに行っていた。


「でもそれ、本当に私達だけで対処していいのかしら? 修道院長に、話さなくて大丈夫かしら?」


 キャリーが心配そうに、私、ナオミの顔を順番に見る。

 するとすぐにナオミが反応した。


「そんなことをしたら、大変なことになるわ! この村には孤児院がもう一つあったの、キャリーは知っている? そこに収容されていた子供が、貴族のお屋敷に招待されたの。庭園で行うお茶会。そうしたら庭園の薔薇を勝手に摘み取ったの。綺麗な薔薇だから、花屋に売るって」


 そう言えばそんなこともあった!


「そうしたらその貴族は、大激怒でその孤児院への寄付を止めしまった。そして知り合いの貴族にも、人の善意を悪意で返す子供がいるって話してしまって……。みんな寄付を止め、その孤児院は廃止されたのよ。そこにいた子供達は、奴隷商人が来て、こっそり買い上げたらしく、ある朝確認したら、数名を残してみんな消えていたって……」


 ナオミの話を聞いたキャリーの顔が青くなる。青い顔のまま、でもなんとか口を開く。


「では修道院長に話し、大事になると危険ということですね。私達でマイから取り戻し、ジルベール様に渡し、なんとか事なきを得る必要がある……」


 ナオミと私は、力強く頷いた。

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