48:一度きり(ランス視点)
寝ているふりを止めたアリーが、何を言い出すかと思ったら……。
「ランス様、お気持ちはとても嬉しいです。でもランス様は聖騎士ですよね!? 私に対し、あ、愛して……いる……なんて……」
そんなことを言い出した。
さらに予想通り、自分が伯爵家の次男であること、魔物を引き寄せるような女がそばにいるのは迷惑なのでは……なんて言う始末。
アリーはどうして自身の価値が分からないのだろう。
二度と自分自身のことを、迷惑をかける存在であると言えなくなるような約束をし、そして……。
アリーが自分のことをどう思っているのか。
その答えを聞くことができた。
可愛らしいアリーは、まず虹の話を始める。昼食のため立ち寄った休憩所では、激しい通り雨に遭遇した。大雨の後、空には美しい虹がかかった。アリーはわざわざ虹が見えると声をかけてくれたが……。
その虹を見てアリーは「ランス様と少しでも長く一緒にいたいと願っていたのです。残された旅の時間が少なかったので、ランス様と離れがたい気持ちになって……」と、自身が虹を見て何を願ったのかを教えてくれたのだ。
これにはもう胸が熱くなった。
自分も虹を見て、全く同じことを考えていたのだから。既に自分の心は、アリーに完全に夢中になっていた。聖騎士なのに。聖女への誓約を破ることになっても、彼女と結ばれたいと思っていたのだ。
その後、彼女からハッキリと「虹に願ってしまうぐらい、私もランス様が好きです。愛しています」と言われた時には……。
あれは本当に純粋な気持ちで、自分は喜んでいた。それなのにアリーは完全に目を閉じ、自分を直視できない状況だった。決して、自分としては性的に興奮したわけではないのに! 彼女にすべてが筒抜けになるのは……非常に恥ずかしい。恥ずかしいが見えてもいい。むしろこれで、彼女と自分の気持ちがすれ違うことなど、絶対にないだろうから。
ともかく自分とアリーは両想いになれた。
両想いになったからこそ、さらにアリーと離れがたい気持ちが高まっている。
宿場町を出発し、昼食のため立ち寄った人馬共に休憩できるスペース。そこでアリーから「ランス様、今日は開催されていませんが、毎週土曜日にここでマルシェがあるんですよ。修道院で作ったワインやお菓子も、月に一回、このマルシェで販売するんです」と言われ、ここをアリーが子供の頃から知っている場所だと理解した時……。
いよいよアリーとの別れの時間が迫ったと、気持ちが沈んだ。
笑顔でいるようにしたが、アリーは気づいてしまったのだろうか。修道女である自分に合わせ、肉料理を食べていないので、スタミナ切れではと心配してくれたのだ。
アリーが自分を気にしてくれていると思うと、とても嬉しかった。聖騎士は確かに貴族出身の者ばかりで、肉料理中心が基本。それに武器を扱い、魔物の討伐のために馬を走らせ、僻地へ向かうことも多い。よって肉料理を口にするのは、禁止などと言っていられない。
聖女という神にも匹敵する存在に仕えるが、聖騎士は別に肉料理を禁止されているわけではなかった。ここ数日、それを食べていなかったのは……アリーが食べていないというのも確かにある。
でも今この時は、アリーとの別れを思うと食欲が沸かない。
それをそのまま伝えると、アリーは「そうですか……」と考え込み、昼食の後。今度は寄り道を提案してくれた。
これにはもう嬉しくなってしまう。
焼け石に水だとは思うが、少しでもアリーといる時間が増えるのは……。自分にとっては願ったり叶ったりだ。これには嬉しくなり、ルルーシュの泉という森へやって来た。
アリーによるとその泉は、元気が出る泉として知られているとのこと。評判が評判を呼び、この泉を訪れる人が増えているというのは、本当のようだ。自分たち以外の馬車や荷馬車が、自然にできた空き地に止まっていたのだから。
そんな泉がこの辺りにあるとは思わなかったが、とにかくアリーとの寄り道。
早速、馬車を降り、泉まで彼女をエスコートして歩き出したが……。
間もなく、村に着く。
もう村に入ってしまえば、アリーはバーリン修道院に所属する修道女だ。彼女は今もそうだが、アリーを修道女と認識する人が村には沢山いる。
そして言うまでもなく自分は、王立ローゼル聖騎士団の紋章がついたマントを着ていた。それは自分を知っていようが知るまいが、それに関係なく、自分は聖騎士として見られる。
もう、アリーに触れることはできない。
結局、初めてアリーとキスをした――と自分としては認識しているが、そのキスはあくまで魔物退治のためという大前提があった。魔物は消滅しているのにキスを続けていた……かもしれないが、もし誰かに何のためにキスをしたのか。そう問われれば「魔物を倒すためです」と堂々と答えられる。
昨晩と今朝のキス。
それは魔物に打ち勝つために必要だったキスだ。
でも、今は違う。
魔物とは関係なく、しばらく会えないであろうアリーと、最後にキスをしたくなっていた。
もしこれからするキスについて問われたら……「愛する人と別れを惜しんでしたキスです」と答えることになる。そしてこれこそ本当に。アリーも自分もそれぞれの立場から許されないキスとなる。
「キツツキは人がいると遠慮してしまうかもしれませんが、自分は……遠慮するつもりはありません」
こんな強気な発言をして、アリーにキスをしたが……。
あれは……キスと言っていいのだろうか?
彼女の唇に触れたのはほんの数秒で、そして一度きり。
このキスを最後にアリーは村へ、自分は王都へ戻ることになった。






















































