47:離れがたい(ランス視点)
まさかあんなにあっさり、ビースト・デビルベアが消えてしまうとは、思ってもいなかった。
それだけ自分がアリーを愛しており、彼女を望む気持ちで、自分が高まった結果なのだろう……。
もう、ビースト・デビルベアの脅威は去った。
アリーへのキスは、やめてよかったのだが……。
止まらなかった。
心から彼女のことが好きになっていたから。
でもまさかアリーがキスだけで気絶するとは……。
本当に驚いてしまった。
驚きもしたが、ますますアリーのことを好きになったのは事実。
絶対に彼女と結ばれる。
責任を取るとも明言したのだから。
本当は彼女を自分の傍から離したくなかった。
だがアリーには謎が多い。
神殿の神職者は、アリーが聖女ではないと分かると、手の平を返すような扱いをしているが、彼女には何かある気がしてならなかった。
アリーの両親へとつながる可能性がある謎のペンダント。
しかもあのペンダントがないと、彼女は魔物を引き寄せる可能性があった。
なぜそうなるのか、それも不明だ。
さらにアリーは聖女ではないのに。
魔物を見ることができる。なぜか自分の生命力も見ることができた。
魔物の名前も、当たり前のように口にしている。
自分は聖騎士になるにあたり、魔物の名前をすべて暗記したが、アリーにそんな時間はなかったはずだ。
アリーの謎を調べるために。
特にあのペンダントの持ち主を、もしくは作った人物を見つけるためには……王都に戻る必要がある。多くの情報は王都に集まるし、諜報部の知り合いも王都にいた。
それにアリーを手放したくないからといって、村に、修道院に戻さず、そのまま王都へ一緒に戻るわけにもいかなかった。
アリーと離れることは、断腸の思いだ。
何より、ペンダントがはずれることがあれば、彼女が魔物を引き寄せる可能性が高かった。もしそれで彼女は助かり、誰かが命を落とすことがあれば……。
そうなることがあってはならないと思い、昨晩彼女が気絶した後、すぐにペンダントをつけ、部屋に戻ったが。
チェーンが純銀製では、入浴時にどうしても外すことになる。別の丈夫な金属に変える必要があった。そこで宿場町のマーケットに、貴金属を扱うお店があることを思い出した。宿のフロントで確認すると、その貴金属店の店主は、ローズ亭という宿に泊まっていることが分かった。
アリーを見ると、まだ眠っている。起こすのはかわいそうだ。
ローズ亭を尋ねると、丁度、宿のレストランで、貴金属店の店主は朝食をとっていた。そこでフロントのスタッフに自分が聖騎士であることを明かし、店主を紹介してもらった。ペンダントのチェーンとして丈夫なものを扱っていないか、金属店の店主に聞くと……。
運よくローズゴールドのチェーンがあると分かった。金が使われているので値が張るが、アリーの命に関わる。その場で金貨を渡すと、ペンダントを持ってくれば、付け替えてくれるという。
アリーの首からペンダントを外すことに不安を覚えたが、昨晩、自分は信じられないぐらい、生命力を使った。この辺り一帯の魔物は……全滅したのではないか? それに夜ではない。それでも不安は拭えなかった。
そこで店主には追加で金貨を渡し、アリーと自分が滞在する宿のロビーまで来てもらい、そこでペンダントのチェーンを替えてもらうことができた。
こうしてチェーンを付け替えたペンダントを持ち、朝食を手に、部屋に戻ったが……。
どう考えてもアリーは自分が部屋に入る直前まで、起きていた気がした。なぜならスノードームの雪が舞っていたからだ。
自分の気持ちをスノードームで伝えることにした。そしてアリーは自分のメッセージを受け取っている。
スノードームが示す「愛しています」を、アリーはどう思ったのか。
きっと、どうしていいのか、分からなくなったのだろう。
それは……そうだろう。アリーは修道女。そして自分は聖騎士。
さらに言えばアリーのこと。
自分が伯爵家の次男であることも、気にしていそうだ。
何より……。
自身が魔物を引き寄せてしまうのではないか。
この点を、最も気にしていそうだった。
ゆえに寝ているふりをしている。
ならば少しの間は騙されてあげようか。
そう思い、まずはペンダントつけることにした。
ワンピースの襟元のボタンをはずすと、アリーの頬がピクッと動く。
これでもう、アリーは起きていると分かった。
思わず笑いたくなるのをこらえ、ペンダントをつける。
今、自分はとても生命力が強まっていると思う。
もし、魔物がペンダントを外している間に、この部屋に寄ってきていても……。
消失しているだろう。
そう思いながら、カーテンを開け、朝食の用意を始めた。
カーテンを開ければアリーは起きてくると思ったが、まだ眠ったふりをしている。歌を歌ってもまだ起きない。
そこでおでこにキスをしたのだが……。
一瞬。
何か気配を感じた。
それは……気のせいだったのかもしれない。
それでも。
もしもがあると困る。
何より、自分が気配を察知したということは。
その姿は見えないが、強力な魔力を持つ魔物の可能性も高い。
そこでアリーにキスをする。
キスをするという動作だけで、既に自分が高まっていると感じていた。
実際にアリーの唇に触れた瞬間。
間違いなく、ビースト・デビルベアを消滅させた時と同レベルで興奮している。
もし魔物が忍び寄ってきていたとしても、自分の生命力により、既に消えたはずだ。
消失した……と分かっていたが、ついキスを続けてしまう。
そこでようやくアリーは、寝ているふりを止めた。






















































