45:スタミナ切れ?
宿場町の出発は少し遅めになってしまった。
朝食を終えた後、改めて入浴をしたり、準備をしたりしたためだ。
ランスはいつも通り。
兜を被り、甲冑を身に着け、綺麗にクリーニングされたマントを羽織る。
私はココア色のワンピースを着ていた。
修道女が着るにはお洒落なデザイン……だと思っている。なぜなら胸元に編み上げのピンク色の革紐のリボンがついているからだ。これにローズピンクのロングカーディガンを着て、ブーツを履いた。
でも用意が整い、宿を出ると……。
休憩は一度だけ、昼食のため、馬と人の両方が休息できる休憩スペースでとることになった。
そこは村の修道院に住む私も、月に一回、足を運ぶ場所でもある。
修道院からも、村からも近い場所というわけではなかったが、街道沿い。馬車の往来も多く、ここで休憩をとる者も沢山いた。マルシェも定期的に開催されている。修道院で作ったワイン、お菓子、ジャムなどを、月に一回、このマルシェで販売していたのだ。
「ランス様、今日は開催されていませんが、毎週土曜日にここでマルシェがあるんですよ。修道院で作ったワインやお菓子も、月に一回、このマルシェで販売するんです」
自分が知っている場所に戻ってきて、少し、気持ちが高揚している。さらに孤児院時代からここには来ていた。マルシェの販売を手伝うと、他のお店で売っているお菓子を買ってもらえる。他のお店では村では見かけない珍しいお菓子もあり、それを食べられるのがとても楽しみだったと、昼食をとりながらそのことを話すと……。
ランスはニコニコと私の話を聞いているが、なんだか元気がない。
あの生命力のキラキラもなかった。
「ランス様、もしかしてここ数日。ずっと私に付き合い、お肉を……召し上がっていませんよね? 私は体を動かすわけではなく、お肉を食べない生活が基本ですので、それで問題ありません。でもランス様は、時間がある時に体を鍛えられ、そして馬車を走らせてくださっています。お肉を食べないことで、スタミナ切れになっているのでは……?」
ここには肉料理を売っているお店も沢山あった。厚切りベーコンを焼いたもの、イノシシ肉のシチュー、雉の丸焼き。その香りは食欲をそそるもので、ランスには私のことは気にせず、肉料理も食べてほしいと思っていた。
何より彼は、騎士としての鍛錬を怠ることがなかった。
聖剣や聖槍を使い、修練をしている姿を、何度も目撃していた。
「アリー様、お気遣いいただき、ありがとうございます。肉料理は……そうですね。ここ数日、食べていなかったので、懐かしい気持ちはあります。でも今食べたいかと言うと……。肉料理と言わず、今は何というのでしょうか。そこまで食欲自体がないと言いましょうか」
「どこかお体の調子でも悪いのでは!?」
「そんなことはないですよ。アリー様が食べきれない物は、自分が食べるつもりですから」
そう言ってランスはやはりニコニコ笑っているが、元気がないように感じる。でも確かに私が手をつけなかった料理やパンを、ランスは綺麗に平らげてくれた。私の知る貴族は、食べ物は残すのが基本。残さず食べるのは、足りないと示しているようなものだと言っていた。
孤児院や修道院では、考えられないことだった。それに貴族の食べ残しは、使用人のものになるとは聞いているけれど……。それでもなんだか食べ物を粗末にしているように感じていた。それを思うと、ランスはこの旅で、食べ物を捨てるようなことはなかった。
残さないで済む量を、ちゃんと用意してくれていることも大きい。
食事に対するスタンスや食べ物を大切にしてくれるランスに、私の彼に対する好感度は必然的に上がってしまう。
それはさておき。
食欲の問題ではなく、元気がないとなると……。
もう疲労……なのかしら?
ずっと馬車を走らせつづけているわけで。
しかもランスの馬車の操作はとてもうまい。
変にゆれるとか、急に速度があがったり、下がったりなどもなかった。
他の馬車とのトラブルもなく、御者が本業と思うぐらいだ。
それはつまり、ランスがとても気を使い、馬車を操作していることになる。
疲労がたまっても、当然だった。
そこで思いつく。
ここから村までの丁度中間地点に、泉があった。
ルルーシュの泉と言われ、とても冷たくまろやかで、人によってほのかに甘味を感じるこの泉を飲むと、「疲れがとれる!」と皆、言っていた。
そこに立ち寄るぐらいの時間は、あるだろう。
「ランス様、もうすぐ村に着くと思うのですが、少し、寄り道をしてもいいですか?」
遠慮がちに尋ねると、昼食の片づけをしていたランスの顔が、ぱあああっと明るく輝く。ターコイズブルーの瞳を大きく見開き、久々に彼の全身が、光りを帯びていた。
「勿論です。アリー様。その場所が近づいたら、仰ってください」
ランスはどこに行くのかと聞くことなく、寄り道ができる、そのことがとても嬉しくてならないという感じだ。
その様子を見ると、途中休憩が必要だったのね、と実感した。
「ではアリー様、出発しましょう」
意気揚々とするランスは、再びぽわんと光り続けている。
まさか今、性的に興奮しているわけではないわよね?
そういう意味の興奮ではなくても、光ることがある……気持ちが昂ると言っていたのだから、きっとそれよね。
そんなことを思いながら、馬車を走らせること一時間。
ルルーシュの泉がある森が、見えてきた。
「ランス様、その右手の森の中にある泉に行きたいのです!」
「承知いたしました。何台か馬車が止まっている辺りですね」
「はい、そうです!」
馬車を止めるスペースが用意されているわけではないが、噂が噂を呼び、立ち寄る人も増えたようだ。頻繁に馬車が止まることで、草が踏み鳴らされ、空き地のようなスペースが出来上がっている。
ランスもそのスペースに、馬車を止めた。そして私の手を取り、恭しく馬車から下ろしてくれる。そしてなんだか私をドキッとさせる表情で微笑み、エスコートするためにとった私の手の甲に、口づけをした。
「行きましょう、アリー様」
なんだか急に艶っぽくなったランスに、心臓がなんだか落ち着かない。






















































