43:その表情だと罰になりませんか?◎
寝たふりをしていると、ランスはおでこに続き、唇にも口づけをした。
これにはもう驚き、声を出しそうなのを堪えることになった。
「アリー様、こんなにいい香りがして、朝陽も差し込んでいるのに。まだ、目覚めませんか?」
ランスの美しい声に、つい、目が開きそうになる。
「……困りましたね」
そう囁いたランスは……。
ふわりと唇を重ねる。
触れた瞬間に唇は離れ、でも再び、ふわりと唇が重なる。
それが何度も繰り返され、自然と頬が緩みそうになってしまう。
ランス、私の唇で遊んでいない!?
口づけでいたずらをしていない!?
そんなツッコミをしたい気持ちになる。
その一方で。
このふわふわした口づけだけで、意識が飛びそうになっている。
同時に。
足りない!と言う気持ちにもなっているのだから。
人間の欲望には、底がないと感じてしまう。
つまり、もっと深い口づけを望んでいる……。
違う、違う、違う―――――っ!
口づけをしている場合ではない。
何せランスと私は、結ばれる可能性が限りなく低いのだから。こんなに口づけを……。
長めの口づけが繰り返され、呼吸が……乱れてしまいそうになる。
何より繰り返される口づけには、魔法でもあるのか、私は酔っているような気分だ。
「アリー様。起きてくださらないなら……」
不意に耳元でランスの甘い声を感じ、目が開いてしまう。
でもランスは耳元に顔を寄せているので、私が目を開けたことに気づいていない。
このまま「おはようございます」と言えばよかったのに。
なぜか目を閉じてしまった。
その結果。
私を気絶させた、あの濃厚なキスが始まってしまった。
そうなるとさすがに、私は寝ている演技などできなくなる。
ランスを止めようと、手を伸ばすと……。
そのまま絡めとられてしまう。
恋人つなぎのように、手の平を合わせた状態で、ベッドに押し当てられる。
右手も左手も同じ状態。
そして口づけは止まらない。
朝からの濃密な口づけに、もう全力疾走直後のようになり、息も絶え絶え、意識を失う寸前。そんな私をランスはぎゅっと抱きしめると、はっきりと「愛しています」と耳元で囁いた。
私は肩で息をしたまま、ランスに尋ねる。
「ランス様、お気持ちはとても嬉しいです。でもランス様は聖騎士ですよね!? 私に対し、あ、愛して……いる……なんて……」
恥ずかしさで、言葉を続けることができなくなる。
「確かに自分は聖騎士ですが、アリー様を愛するためなら、除隊を申し出るつもりです。そしてただの騎士を続けるか、フリーの魔物ハンターにでもなるか」
「ま、魔物ハンター!?」
ベッドに腰かけ、私の顔を覗き込み、乱れた私の髪を撫でながら、ランスはとんでもない言葉を口にした。
「ええ。需要はあると思うのです。国から仕事を請け負ってもいいですし、隣国に渡って商売を始めてもいいでしょうし」
ランスの自由人過ぎる発想に驚き、尋ねる。
「聖騎士を辞めても、伯爵家の次男のランス様が、そんな魔物ハンターになるなんて……」
「伯爵家の次男だから、できる職業ではないかと。アリー様は知らなくて当然と思いますが、伯爵家は長男が後を継ぎます。自分は分家扱いで、伯爵家の家名と称号を維持させてもらうことはできますが、経済的な自立は必須。男爵の爵位を得ることもできますが、伯爵家の時のような生活は望めません。魔物ハンターと兼業で丁度いい……と思っています」
「そ、そうなのですね」
「そうなのですよ」
ランスはクスリと笑うと、私の呼吸が落ち着いたことに気づき、ベッドから起きるのを手伝ってくれる。そしてそのまま窓際のテーブルへとエスコートしてくれた。つまり、朝食が用意されたテーブルだ。
私を椅子に座らせると「どうぞお召し上がりください」とランスは微笑む。
朝陽を浴びたランスの笑顔はキラキラと輝き、先ほどまで私を気絶させるような口づけをしていたとは、とても思えない!
彼が椅子に座ると、共に祈りの言葉を捧げ、朝食がスタートする。
「ランス様が分家になるか、男爵になるか、いずれかを選ぶとしても……。そして魔物ハンターなる聞いたことがない職業で働き始めたとして、魔物を引き寄せてしまう私がいては、ご迷惑では?」
「アリー様。今後、迷惑という言葉を使うことは禁止します。使う度に、アリー様の唇を奪いますよ」
持っていたパンを落としそうになる。
迷惑と言ったら、唇を奪う!?
「その表情だと罰になりませんか?」「!?」
ランスがそんな風に私をからかうなんて!
「アリー様は自分にとって、心から大切にしたいと思える存在です。迷惑なわけがありません。それに魔物を引き寄せる……というのはまだ仮定の一つです。本当にアリー様が魔物を引き寄せているのか。それにそのペンダントをアリー様に残したご両親は誰なのか。まだまだ調べることがあります。昨晩は、一つの仮説がもしかすると正しい……となっただけに過ぎません。ですからまず、悲観的にならないでください」
「ランス様……」
そこでランスは、柔和な表情でコーヒーを口に運ぶ。
「夜と言うのは、なんとも人に不思議な影響を与えると思います。アリー様も少し、ドラマチックになり過ぎましたね。物語のヒロインとしては最高でしたが。自分もすっかりその雰囲気に酔ってしまったというか……。アリー様が魔物を引き寄せていると断言するような言い方をしたこと、猛省しています。申し訳ないです」
深々と頭を下げるランスは……やはり真面目で律儀だと思う。
「魔物を引き寄せるかもしれない――これは自分とアリー様しか知らないこと。しかも確定事項ではないのですから。よって、二人だけの秘密です。ペンダントも謎が解けるまで、はずさないでください。はずさないで済むよう、朝食を買いに外へ出た際、チェーンを変えてもらえました。純銀製ではなくなりましたが、ずっとつけていても大丈夫です」
「そうなのですね! もう入浴の時も……」
「つけたままで大丈夫ですよ」
言われるまでチェーンが変わっていることに気が付かなかった。これには「ありがとうございます」とすぐに御礼の気持ちを伝えた。
ランスと話した結果。
いろいろと私が懸念したことは、心配しないで大丈夫だということが分かった。一方のランスは……。






















































