39:前に出る!?
私が雨合羽を着た後。
まるで用意ができたか――と言わんばかりで連続で魔物に襲われた。
タスクド・ボアは連続で二体現れ、ランスはどちらも聖槍で撃退している。その時の、見えないのに見るかのような鮮やかな連続攻撃には、本当に惚れ惚れとしてしまう。私の指示と目線の動きを読んで彼は動いたわけだけど……。動きのキレといい、所作の美しさといい、心からかっこいいと思えてしまった。
次に現れたのは、狼の魔物<ウルフ・リッパー>。動きが速いのは勿論、通常の狼よりうんと大きく、それは馬ほどのサイズがあった。何より常に鼻息荒く、牙を剝きだしにしており、こちらの魂を喰らう気満々の攻撃に、私の足は震えてしまう。だがランスは見えない……だでけではないと思った。例えその姿が見えても、ひるむことはなかったと思う。
一歩間違えば、ランスはがぶりとやられそうなのに。勿論、その時は彼の生命力が自動発動され、ウルフ・リッパーは倒されたと思うのだけど。でも本当に、危険としか思えない状況なのに、私の指示を的確にとらえ、聖剣を見事に操り、ウルフ・リッパーを消滅させた。
剣は斬るより、突くことが多いとランスは言っていたが。
最後は右に構えた聖剣を、左下に向け電光石火の勢いでふりおろし、ウルフ・リッパーを消失させた。迷いのないその動きにため息が漏れる。何より、魔物を倒せたのか、その確認のためにこちらを振り返った時のランスの横顔は……。
少し息が上がり、眼光は鋭く、唇はきゅっと引き締まり……美貌の顔が見せるワイルドな表情。それは騎士というより、戦士そのもので。こんな場面なのに、不謹慎であると分かるのにときめいてしまった……。
「こう連続で魔物が来ると、考える暇もないのですが……。自分が気づいた限り、夕食後と夕食中でのアリー様の変化は、服装ですよね。着ているものが変わりました。でもそんな変化で魔物がいきなり引き寄せられるとは思えないです。よってそう言った装備の変化ではなく、状態の変化が魔物を引き寄せたのではと思ったのですが」
聖剣を鞘に納めながら、そんなことを口にするランスに驚いてしまう。
だって。
何が魔物を引き寄せるのか、その原因を考えようと言われたものの。
次々に魔物が現れるので、まったく私は考えることができていなかった。
でもランスは違う。
ちゃんと考えている。
「状態変化として考えられることは、アリー様は食後に襲われています。満腹になることで、何かオーラでも変化するのでしょうか……」
「満腹になると幸せな気分になります。幸福を感じることで魔物が引き寄せられる……というのは不思議ですよね」
「そうですね。負のオーラを発している人間に魔物が吸い寄せられる……というのが妥当に思えます」
そんな会話を交わしている時だった。
ランスが鮮やかな攻撃で、タスクド・ボアとウルフ・リッパーという魔物を倒し、それ以前にも既にヴェノム・スパイダー、スネイク・スリザーも消滅させている。
聖槍、聖剣、そして自身の強力な生命力。
これがあればランスは、無敵だと思えた。
でも今感じた禍々しさに、それは甘い考えでは?と思ってしまう。
姿は見えないのに。
こちらへ近づく名状しがたい嫌な気配を感じる。
何より夜の森から鳥が飛び立ち、小動物が逃げ惑う様子が伝わって来たのだ。
見えないはずのに、ランスの美貌の顔が引きつった。
「アリー様……自分でさえ、何か不穏なものを感じるのですが」
「そうですね。私も鳥肌が立ち、震えています。まだ見えないのに。これまで倒した魔物の比ではないように思えます」
「自分が前に出ます」
「え!?」
なぜこの恐ろしい気配を感知しながら「前に出る」なんて言えるのかしら!? 驚愕する私にランスは告げる。
「見えない自分がその気配を感じると言うことは、きっとかなりの魔力を持つ魔物だと思います。魔物の強さは大きさに比例しますから。きっと相当大きいでしょう。もし倒しきれないと、宿の人間に被害が出てしまう可能性があります」
「宿の人間に被害が出ないよう、なるべく前に出て戦い、倒すおつもり――なのですよね?」
直感で不穏な気配を察知していた。ランスが何か間違った判断をしようとしている……。
「聞くところによると、魔物は多くの人間の魂を喰らいますが、聖騎士の魂であれば。一人分を喰らえば、満足すると言われています。確認したところ、この宿場町に駐留している聖騎士は、二人いるそうです。ですが一人は芸術祭の警備に向かい、今日はここにいない。残りの一人を巻き込むわけにはいきませんから。自分が」
「ランス様! あなたは私に自分を頼るようにと言ったではないですか! ランス様が魔物に負け、その魂が喰われ、それで私が生き残っても……どうすればいいのですか!? 許しません、絶対に、自分が犠牲になれば済むだなんて!」
するとランスは、牧歌的にクスクスと笑う。
「ランス様……!」
「これでアリー様もよく分かりましたよね?」
「え……」
「あなたがしようとしていたのは、自分が今言ったことと同じです。自身が犠牲になれば、魔物を呼び寄せ、大勢が巻き込まれることはない――アリー様はそう言いました。では聖騎士である自分の魂一つが喰われれば、宿のみんなもあなたも助かる――これは同じですよね、アリー様が言ったことと。そんなことを言われても、されても、絶対に許せないですよね?」
それはその通りだった。でも今、そんなことを蒸し返している場合なのですか!?
ランスは頭がいい。
でも今はそうではなく――!
思わず恨めしくランスを睨むと。
ランスは私の手を取り、歩き出す。
森の奥へと向かっている……。
「これから対峙する魔物は、おそらく自分が出会ったことがない、相当強力な魔力を持つ魔物だと思います。現状で倒せるか、倒せないかを判断すると――。倒せないでしょう。今のままでは。でもアリー様が協力してくだされば、倒せます」
「!? 私が協力すれば倒せるのですか!? 私は、魔物が見えても、聖なる力も使えないですし、聖女でもないのに!?」
「ええ、そうですね」と答えたランスは立ち止まる。そして私の手を掴んだまま、被っていたフードを脱がした。パサリとフードが背中にあたり、ランスの細くて長い指が私の鎖骨を静かに撫でる。






















































