3:美貌の青年
ランスが自分のことを、私と似ていると言ったが、その意味がよく分かってしまった。
魔物をランスは見ることができない。しかも聖剣ではなく、何か特殊な力で魔物が倒せてしまう。他の聖騎士とは違う。そのことでランスは、王立ローゼル聖騎士団で浮いた存在なのではと推測した。そのことでランスは、自己評価が低くなっているのでは?
私も聖女ではないと分かり、ただの修道女に逆戻りして、まさに自己評価が低くなっている。
自己評価が低い者同士、つまりは似た者同士だと、ランスは言いたいのだろう。
でも私は違うと思っている。
「ランス様は私と似ているとおっしゃりますが、それは違うと思います。お互い、自己評価が低い点は……同じかもしれません。でもランス様は、きちんとまっとうされているじゃないですか。自身の信念に従い、聖騎士としての任務を。私とは違います」
「そんなことありません、アリー様。あなたは聖女ではないことで、神殿にいても肩身の狭い思いをされました。その結果、態度が卑屈になってもおかしくないと思うのです。つまりはあなたの護衛につく私に対し、冷たい態度をとることもできたはず」
そう言われてしまうと……。確かにそうなってもおかしくない。
「でもあなたは、卑屈になることはありませんでした。アリー様、あなたも自分と同じで、真面目なのだと思います。そしてアリー様は、とてもお優しい。その優しさは、あなたの清らかな心から、生じているように思います」
再び涙が出そうな言葉を言われ、私は涙を堪えようと、思わずこんなことを提案していた。
「ありがとうございます、ランス様。そう言っていただけて、気持ちがとても楽になりました。村に着くまでの間ですが、ぜひ私とお友達になってください」
突拍子のないことを、言ってしまったと思う。この言葉を聞いたランスが、どんな顔をしているのか。兜をかぶっていて見えないのが、もどかしい。
「ええ、勿論です。確かに村に着くまで……ですが、文の交換はできますから。末永く仲良くしてください」
またも胸にしみる言葉だ。涙をこらえ、私はなんとか言葉を絞り出す。
「そうですね。手紙、私も書きます……。というか、友達なんです。一緒に、昼食を食べませんか。食事は一人より、二人。二人より大勢で食べた方が、楽しいと思うのです。会話は、食事のスパイスになると思います」
ランスの体の動きから、彼が笑っていると思えた。
「分かりました。では、僭越ながら、一緒に食事をとらせていただきます」
そう言ったランスは、あっという間に自身のサンドイッチや紅茶を並べた。
その瞬間は、不意に訪れる。
私は単純にもう、ランスに感動していた。友となってくれて、手紙を書いてくれると言ってくれた彼に。もはや兜の下の素顔のことなど、気にしていなかった。
だが。
兜を外したランスを見て、声を押さえるのに必死だった。
だって。
ランスは。
とんでもない美貌の青年だった……!
ここ数日間。
私は沢山の聖騎士に会った。そして彼らは、自身の容姿にとても自信を持っていた。自信を持って当然の姿だったと思う。でもその全員が霞むぐらい、ランスは……美しかった。
瞳は、兜を見た時から分かっていたが、深みのある水色……澄み渡ったターコイズブルーの色をしている。髪は後ろ姿で感じた通り。サラサラで、光輝くホワイトブロンド。まっすぐな前髪の下には、きりっとした眉に長い睫毛。通った鼻梁の下には、女性のようなローズ色の綺麗な唇。肌はもう、手を見た時と同じ。透明感があり、くすみなどない。
どうしたらいいのだろう。もう芸術作品のようで、圧倒され、そして目が離せない。
「……アリー様、そんなにじっと見られると……」
美貌の聖騎士であるランスは、頬をバラ色に染め、視線を伏せてしまう。
その姿は、なんて形容したらいいのか。
修道院にいる修道士や司祭、修道院長は、絶対にこんな顔をしない。
他の聖騎士でも、このような表情はできないと思う。
見ていると、胸が高鳴り、心臓がドキドキする。
なんだか腰のあたりも落ち着かないというか、これは、これは……何!?
異性を見てこんな風に興奮するなんて!
容姿自慢の聖騎士に、馬車の中で囲まれていた時でさえ、こんな気分にはならなかった。
私、どうしてしまったのかしら!?
そうだ、こんな時は!
ワンピースのポケットからロザリオを取り出し、祈りを捧げると……。
なんだか一瞬、ランスの体が強く輝いたように感じた。
「失礼しました!」とランスが兜を被ってしまう。私は慌てて、兜を被る必要はないと伝え、そこからしばらく押し問答があり、ようやくランスは兜をテーブルに置き、二人して昼食を食べられる状態になった。
少しでも私がランスに見惚れると、彼にとってはそれが、プレッシャーになっている気がした。なので、ワンピースのポケットの中のロザリオに想いをはせ、なんとか心を落ち着かせる。さらに彼の美貌に意識がいかないようにするため、気づけば私は……自分の生い立ちを話していた。
私の話を、食事をしながら聞いていたランスは……突然、そのターコイズのような美しい瞳から、涙をあふれさせたのだ。






















































