30:魔法のような言葉
「アリー様……食事に行きましょうか。クリーニングをお願いした際、宿のレストランで食事を出るか確認したところ、あいにく満席でした。どこの宿も満室で、レストランも満席と言われ、どうしたものかと思ったのですが……」
手にクリームをつけ終えると。
ランスからは輝きが消え、彼の呼吸が乱れているように感じたが、それもなくなってしまった。おかげで私の気持ちもすっかり落ち着いてくれた。
「ホリデーシーズンが近いので、マーケットが出ているそうです。この宿場町の中央広場には、沢山の屋台が出ているとのこと。そちらで食事をするのはいかがですか?」
この提案には嬉しい気持ちが高まり「ぜひ、マーケットへ行きましょう!」と答えていた。村でもこの季節、村の中央の噴水広場には、小規模ながらマーケットが出る。平日の昼間だけのマーケットだが、修道院で作ったお菓子も販売していた。
村では舞踏会やオペラなんてない。娯楽が少ないので、マーケットが出ると、村人はみんな、大喜びだった。
「宿のレストランや、飲食店であれば、貴族が食べるような料理を楽しめます。マーケットの屋台の料理で、よろしいのですか?」
ランスにそう言われると、自分が平民丸出しであることに気づき、顔が赤くなる。
「そ、そうですよね……。マーケットであれば、村でもありますし、屋台なんて……。伯爵家のご子息であるランス様は、利用されませんよね」
「アリー様、そう言った意味で言ったわけではありません。普段、食べないようなものを楽しめたら、アリー様が喜ぶのではと思っていたので……。ついレストランではなくてもいいのか、そう聞いてしまっただけです」
真摯な声でそう言うと、ランスは私の手を取り、甲に口づけをする。
いきなりだったので、腰が抜けそうになった。
さらにぽわっとランスが輝き、また彼がキラキラして見えた。
「自分はアリー様と一緒であれば、どんな食べ物でも構いません。あなたが『美味しい』と笑顔でいてくだされば、どんな物でも美味しく感じられると思います」
ランスの言葉がとても嬉しく、そして……不思議に感じる。
どうしてこんなにも私を喜ばせる言葉を、口にしてくれるのだろうと。
私が知る孤児院や修道院にいる男性は、こんな言葉は口にしない。
そこでああ、そうかと気づく。
聖騎士ではあるが、ランスは伯爵家の次男。
社交界に顔を出していた日々もあるはず。
きっと女性慣れしているのね。
どんな言葉を口にすると、女性が喜ぶのか。
ランスはよく分かっている。
もしかすると髪飾りの件も、リップサービスに過ぎないのかな。
「美味しいものは売り切れてしまうかもしれません。行きましょう、アリー様」
私が考え込んでいる間に、ランスはシリルがプレゼントしてくれたロングケープを、私の肩に羽織らせてくれた。
「ありがとうございます」
もうランスと一緒にいられる時間は少ないのだから、余計なことをうじうじ考えるのは止めよう。彼が女性慣れしていようと関係ない。どのみち平行線で交われない二人なのだから。
微笑んだランスにエスコートされ、部屋を出た。
◇
さすが宿場町のマーケット。
村のマーケットとは、全然違う。
まず、屋台の数が多い!
広場も広いし、それに客層が……。
毛皮のローブやケープ姿の貴婦人が沢山いる。
レストランもいいだろうが、普段食べることのない料理に興味があるのだろう。
マーケットには沢山の貴族、その貴族がつれる護衛の騎士がいた。
「アリー様、お肉料理以外ですと……サーモンとほうれん草のキッシュ、キノコのパイ、窯焼きの野菜、フライドポテト、野菜のスープなどがありますが、どうされますか?」
本当に。どうしましょうかと悩んでしまう。どれも美味しそうに見える。
「まずはそれぞれの屋台を、のぞいてみていいですか?」
「勿論ですよ。……ただ、混雑しているので、エスコートでは離れ離れになる可能性があります。もしお許しいただけるなら、手をつないでもよろしいですか? 盗賊の件もありますので、アリー様のおそばを離れたり、見失ったりすることがないようにしたいのです」
ランスは少し頬を赤くし、そしてぽわっと輝きながら、私に尋ねた。
人出は多いし、はぐれると困る。何より迷子になりそう。手をつないでもらえるなら、つないでほしいと思っていた。だから快諾すると……。
革製のガントレットをつけていたのに。
ランスはそれを外した。
「え、なぜ、ガントレットをはずすのですか?」と聞きたかったが、何か理由があるのだろう。聞かずにいると、私に手を差し出しながら、ランスは自身のホワイトブロンドの髪をかきあげた。その瞬間、とても明るく彼は輝いている。そのうえで尋ねてもいないのに、こう教えてくれた。
「外は冷えますよね。アリー様は手袋をお持ちではないので、直接手をつないだ方が、手も温まるかと思ったのです」
防寒対策を考えてくれたのだと分かった。
「お気遣いありがとうございます、ランス様! 確かに手袋はないので、助かります」
そう応じて、ランスの手に自分の手を重ねると。
眩しい!
ぎゅっとランスが私の手を握り締める。
思わずドキッとした瞬間。
ランスが輝いた。
あまりにも眩しくて、目を開けていられない。
ランスと手をつないでいるドキドキより、眩しさに気を取られ、必要以上に興奮せずに済んでいる。
「行きましょうか、アリー様」「はい」
輝くランスと手をつなぎ、歩き出した。
【御礼】読者様に感謝!初めてです!
『浮気三昧の婚約者に残念悪役令嬢は
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