27:同じ部屋
集中して馬車を走らせていたランスだったが、夕焼け空が広がってくると、私にこう教えてくれた。
「あと十五分もすれば宿場町です。日没と同時には到着できそうです」
「集中して馬車を走らせてくれたおかげですね。ありがとうございます、ランス様」
「いえ、アリー様がここまで我慢してくださったおかげです。途中、興味が惹かれるものもあったのでは?」
ランスの言葉にそれは……と思ってしまう。確かにここに着くまで、いろいろと気になるものはあった。
まず、巨大な橋を渡った。そこから見える大河は一見の価値がある。少し馬車を止めて眺めたい……という気持ちになったが、何も言わず通過した。
さらにその橋の前後には、ちょっとした休憩所がそれぞれ設けられている。この橋がある種の観光名所のようになっているようで、飲食物の販売が行われていた。甘い香りも漂っている。何が売っているのかしら? 気になったが、眺めるだけでそこも通過。
紅葉した白樺の森は村でも見ることができたが、そこは規模も大きく、さらに色がとても鮮やか。レッド、オレンジ、イエローと葉は色づき、それは空の青と見事なコントラストを生み出している。落ち葉は、豊かな色彩の絨毯となって広がっていた。さらにその白い樹皮がアクセントとなり、目を引く。
森の中にいくつか小屋があり、どうやら白樺の木を使った雑貨、シロップを販売しているようだった。
当然、気になるし、見てみたいと思っている。
ランスも気にしてくれたようで、こちらを振り返ってくれた。
でも。
ここで道草しては、宿場町への到着は、日没を過ぎるだろう。
夜の移動は、いろいろと危険だ。
獣、盗賊、魔物。
ランスに迷惑は、かけたくない。
だから振り返ってくれたランスに首を振り「止まらないでいいですよ」と伝えた。
こうして一切の休憩をしなかった結果。
夕日で一帯が染まる時間に、宿場町のすぐ近くまで到達することができた。駆け込みで宿場町へ向かう馬車も多く、街道には馬車渋滞ができている。でも渋滞ができるということは。前後に馬車もいる。そう言った意味では安全だ。護衛騎士を大勢つれた貴族の馬車もあった。
そもそも人が多いと、獣は近づかない。
護衛騎士がいれば、盗賊も寄り付かない。
魔物は……分からない。油断はできない。
ランスがあと十五分と言っていたが、そこから五分程馬車を走らせると、馬車渋滞に並ぶことになった。
こうして宿場町に到着したのだが……。
困ったことになった。
「あんた達、王都から来たんだろ? レイクブルーには寄らなかったのかい? あそこでフェスティバルをやっているんだよ。芸術祭。でさ、王都から王太子様もいらっしゃった。王太子様は、式典にちょこっと顔を出して帰っちまったけど。芸術祭を見に来た貴族達は、せっかくここまで来たからと、周辺の宿場町に泊っている。もう午後にはどこの宿も、満室さ」
レイクブルー? ちらりと宿のフロントの壁に飾られた地図を見ると。
あった。
あの大河のすぐ近くに、レイクブルーはあった。街道を右にそれ、30分も進めば到着できる場所に、大きな湖が描かれている。周囲は森で、熊、白鳥も見られるようで、動物の絵も描かれていた。
「うちもさ、満室だった。でもどこぞやの貴族のご子息が、この宿の令嬢といい感じになった。そのご令嬢が部屋をキャンセルし、そのご子息と同室でいいってなったから、一室だけ、部屋が空いている。だからさ、二人で一室でいいなら、案内できるよ。とっと決断しておくれ。いやなら他を当たって頂戴。でももう野宿しかないだろうけどね」
聖騎士と修道女が同室なんて! そんなのは無理だろう。私は野宿でも構わないと思った。ここは宿場町だし、町の入口には見張りの兵士もいる。盗賊も宿場町では、面倒を起こさないと聞いていた。
「ランス様、私は野宿で」「ではその一室に泊らせていただきます」
私とランスの言葉が被り、フロントの女性はニヤリと笑い、ランスに鍵を渡した。驚く私に構わず、ランスは宿帳に名前をサインする。
鍵を手に取り、私に渡すと、ランスは私のトランクを持ち、手を差し出した。
「ラ、ランス様、私は」
「アリー様、自分は野宿するので、あなただけ、部屋に泊ってください」
ランスは私の言葉に被せるようにそう言うと、フロントのロビーを抜け、壁掛けトーチで照らされた廊下を歩き出した。
「そんな……! 聖騎士であり、伯爵家の人間であるランス様が野宿で、村の修道女ごとき私が宿に泊まるなんて!」
「身分は関係ありませんよ、アリー様。自分は武器を使え、戦闘力もある男です。でもアリー様は戦うことなどできない女性なのですから。どちらかが野宿するなら、それは自分でしょう?」
そんな考え方をするのは、ランスぐらいだ。この国、いやこの世界では身分が絶対。そのことを口にするが、ランスは「騎士は弱い者を守って当然ですから」の一点張りだった。
こうして部屋につき、エスコートしていた私の手を離すと、ランスは私から鍵を受け取る。そして鍵を開け、トランクを手に中へ入った。






















































