24:穏やかな時間
しばらく生命力をキラキラさせていたランスだったが。
その輝きが収まると、木の幹に寄りかかり、空を見上げた。
改めて見る横顔は、本当に美しい。
睫毛もとても長い。髪色と同じホワイトブロンドの睫毛。
綺麗に整えられた眉毛もホワイトブロンドだ。
そよぐ風にサラサラの髪が揺れ、彼は気持ちよさそうに風を感じている。
私の視線に気づいたランスが、こちらに視線を向けた。
深みのある水色の瞳は、小川と変わらないぐらい澄んでいる。
「……こうやってアリー様と何をするわけでもなく、風を感じ、晴れた空を眺め、小川のせせらぎに耳を傾ける。心身共に癒されます」
「それなら私が隣にいない方が、ずっと寛げるのではないですか?」
するとランスは「違います」と言い、私の肩にもたれた。
これには完全に落ち着いていた心臓が、ビックリしている。
「アリー様のおそばに……ずっと……」
砂金のような輝きが、ランスを包んでいる。
瞼は閉じられ、落ち着いた呼吸が繰り返されていた。
眠っている、ランスは……。
結局、昨晩、私が何時に目覚めたかは分からない。
椅子からベッドに移り、横になって眠ったものの。
その時間は……短かったと思う。
それでも早朝から出発のために準備し、安全に馬車を走らせてくれた。
白い花畑に案内してくれて、この小川にも連れてきてくれたのだ。
そして今……。
疲れ切って、そしてリラックスできて、眠りに落ちたのだ。
眠りに落ちる直前に彼が言った「アリー様のおそばに……ずっと……」という言葉。これは胸に染みた。ランスはこの言葉を、どんな気持ちで言ってくれたのだろう? 私は突然駆け出し、転んだりするから、目が離せないと思ったのかな。おちょっこちょいな私を、見守りたいと思ってくれたのかしら?
もし私が聖女だったら、ランスはずっと私のそばにいてくれただろうな。
「アリー様」と、あのターコイズブルーの瞳を細め、微笑みかけてくれる。私がするおちょっこちょいな姿を見て、クスクス笑ってくれただろう。
もたれるランスの頭に頬をつけると。
彼の髪からは、もぎたてのグレープフルーツの香りがする。これはランスの香水かしら。彼らしい素敵な香り。
目を閉じると、出会ってから一緒に過ごしたランスとの時間が、思い出される。
会った瞬間はしっかり兜を被っていたから、どんな人なのかと思った。まずは素手を見て。次に兜を外したその後ろ姿を見て。顔を見たいと願い、ついに兜をはずした時は――。
芸術作品のような彼の顔から、目を離すことができなくなった。甲冑を脱ぎ、隊服になった時。美しい上半身裸の姿を見た時も。その肉体美に惚れ惚れとしてしまった。
オレンジを切って私に出してくれた時から始まり、食事の用意をしてくれて。馬車を走らせている時は、歌を歌ってくれたこともあった。盗賊から私を守り、魔物を撃退し、寝ずの番で私を見守ろうとしてくれた。美しい花を私の髪に飾ってくれて……。
真面目で、律儀で、誠実で。武術に秀で、聖なる武器も扱えて、自身の類まれな生命力で魔物を消滅させることができる。稀有な逸材だと思う。
そこでさらに思い出してしまった。
ランスと出会ってから、私は何度、彼に抱きしめられただろう?
彼に抱きしめられた瞬間を思い出すと、もう心臓が大騒ぎだ。
特に、上半身が裸だった時は……。
ダメだ。
全身が熱くなり、心臓がもたない!
しばらくは深呼吸を繰り返し、彼のグレープフルーツの香りを堪能する。
ようやく落ち着き、それでも深呼吸を繰り返していると……。
いつしか私も眠りに落ちてしまった。
◇
顔に何かが当たる。
そこでランスと私は目覚めることになる。
「アリー様、大変申し訳ございません! すっかり気持ちが緩み、眠り込んでしまいました。雨が降って来たようです」
「!! 私こそ、ごめんなさい。つい私まで眠ってしまいました……」
「今は雨宿りを最優先に考えましょう」
ランスは私を立ち上がらせると、自身のマントをフードのように私に被せてくれる。そして手を取り、小走りで移動を始めた。
「アリー様、木の根があるので、お気をつけください」
「アリー様、滑りやすくなっているので、ご注意ください」
こんな風にランスが言ってくれるので、行きと違い、つまずくことはなかった。そしてなんとか屋根のあるベンチのところに辿り着いた直後。
まさに車軸を流すような勢いで、雨が降り出した。
ランスは「自分は甲冑を着ていますから」と、吹き付けてくる雨風から私を庇ってくれる。甲冑にあたる雨音が響く。屋根にも雨が激しく当たる音が響いていた。
私はランスのマントに頭からくるまれ、そしてランスに抱きしめられている。彼はマントが頭から飛ばないよう、しっかり押さえ、さらに背中からマントが落ちないよう、こちらもがっちり腕で押さえてくれていた。
その状態で二十分ぐらい待つと……。
だんだん雨脚が弱まった。
さらに十分経つと……。
「ようやく、止んだようですね」
さっき天気が急変した時は、夕方のように暗くなっていた。
でも今は急速に天気が回復し、陽射しが天使の階段のように降り注いでいる。
今晩は21時頃に以下作品が更新です。
よかったらご覧くださいませ~
==第4回HJ小説大賞前期の一次選考通過作品==
『断罪終了後に悪役令嬢だったと気付きました!
既に詰んだ後ですが、これ以上どうしろと……!?』
https://ncode.syosetu.com/n8030ib/
かっぱえびせんのように読み始めると完結まで止まらない
まずはプロローグだけでもお読みくいただけると幸いです☆彡
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結構下の方です。お手数おかけします。
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