22:叶わない夢
昼食を終えたランスは、私にこんな提案をしてくれた。
「先程、水を汲みに行った時に聞いたのですが、この森の先を少し進むと、小川があるそうです。清流で魚もいて、夏はここに寄った際、水遊びする方もいるそうですよ。まだ時間もありますから、見に行きますか?」
「そうですね。せっかくなので」
「では」
ランスがその場明るくなるような笑顔と共に、自身の手を差し出してくれる。風に彼のサラサラのホワイトブロンドの髪が揺れた。思わずドキッとしながら、彼の手に自分の手をのせる。
当たり前のようにランスが私をエスコートして歩き出すと、こちらを遠巻きにする令嬢の囁き声が聞こえてくる。
「見てください。聖騎士様ですわ。噂通り、お美しいですわね」
「ええ。この辺りでは、あまりにお見かけしませんが、麗しいお姿ですわ」
「あれで聖女にすべてを捧げるなんて……勿体ないと思いません?」
「「「本当に!」」」
令嬢達の言葉を聞いた私は。
とても励まされることになる。
だって。
村の修道院に私を送り届けたら。
私とランスは、二度と会うことはないだろう。
そもそも私とランスは、普通に生活していては出会うことはなかった。
今回偶然にも彼と出会うことになったが、これはもう奇跡だ。
ランスとさよならをした後。
何度か手紙のやり取りぐらいはするだろう。
でもそれだけ。
もしランスが聖騎士ではなく、ただの伯爵家の次男だったら。
「アリー様。自分にも婚約者ができました。半年後に式を挙げます」
そんな手紙を受け取ったかもしれないのだ。
それは……おめでとうなのだろうけど。
なぜかそのような手紙は受け取りたくない……と思ってしまう。
でもこれは不要な心配。
だってランスは聖騎士なのだ。聖女にその身を捧げている。結婚などしない。
いや、もしかするともっと歳をとったら、聖騎士を止め、ただの騎士となり、結婚もするかもしれない。でも少なくとも私と手紙の交換をするような間に婚約者ができたり、結婚をしたりすることはないだろう。
「アリー様、なんだか嬉しそうですね。小川が楽しみですか?」
「あ、え、は、はいっ。そうですね」
できれば。
ランスは……誰のものにもなってほしくない。
……後で沢山、神にごめんなさいをしないといけないと思う。
でも……。
ランスには私だけの騎士でいてほしい……なんて叶わない夢を見てしまう。
ダメよね、こんな風に執着をしては。
ただ、どうしても。
これまでランスのような男性と接したことがなかったから。
彼が私に恭しく接する姿に、何かを期待し、求めてしまい……。
これでは修道女失格だ。
聖女になれなかったのも当然ね。
そう思うものの。
修道院に迎えに来てくれた大勢の聖騎士に対し、今みたいな感情を持ったのかというと……。
それは……なかった。
王都までの馬車の中で、一緒だった聖騎士は皆、本当に素敵な容姿をしていたし、ランスと同じように恭しく接してくれたはずなのに。
なぜ、ランスだけにこんなに気持ちになるのかしら?
「アリー様、見てください。小川が見えてきました。確かに美しいですね」
ランスが視線を向ける方角を見て、ため息が漏れる。
「なんて透明度が高いのかしら! 川床が見えているのでは?」
思わず駆けだしそうになり、それを押さえる。それはエスコートしているランスは当然気づいて、楽しそうにクスクスと笑っていた。しかも光っているわ!
「……すみません。こんなに素敵なドレスを着ているのに。駆け出そうとするなんて」
「失礼しました。アリー様。自分が笑ったのは、決してあなたを馬鹿にしているわけではありませんよ。走りたいのを我慢する時のアリー様の表情が、とても可愛らしくて」
可愛らしい……!
たった一言、褒められた……褒められたのよね?
とにかく嬉しくなり、頬が緩む。
「……少し、走ってみますか?」
「えっ……」
「実は自分も早く、あの小川のそばに行きたいので」
「!!」
まさかランスがこんな提案をしてくれるなんて。もう全力で「はいっ」と返事をしてしまう。すると「では」と言ったランスは、エスコートしていた手を……。
ランスと私は手をつないで、緩い速度ながら走り出していた。
全速力で走っているわけではないのに。
心臓がものすごく反応している。
ただランスも、こうやって走っていることを、喜んでくれているようだ。とてもキラキラと輝いている。
なんだかランスは、分かりやすくていいな。
彼が光るのを見ると、喜んでいるのだと分かるから。
キラキラしたランスと手をつないで走るのは、まさに夢のような時間。
だがしかし!
ここは森の中。さらに慣れないドレスを着ている。パーク男爵の屋敷の廊下も小走りしたが、あの時は平坦な道だった。でもここは違う。つまり私は……木の根につまずいた。
「きゃあ!」「アリー様」
倒れそうになる私を、ランスが抱きとめてくれた。
突然の出来事だったのに。
ランスは見事に私を受け止め、そして眩しいほど輝く。
つまり転びそうになった私を無事キャッチできて、喜んでくれている――と解釈した。






















































