エピローグ
「国王陛下は、聡明な方です。魔物は、完全に殲滅したわけではありません。今日も西の地から、討伐の要請が来ましたよね。魔物との戦いは、まだ終わっていません。アリアナ聖女もクリフォード団長も、必要な人材です。もうどうにもできない過去の出来事を根掘り葉掘りすることより、前を向く決断をされたのかと」
ランスの言葉を追うように、思わず私も口を開いてしまう。
「アリアナ聖女が生きていた……にされるのか、それとも復活された、にするのか。それはもうすぐ分かると思います。ニューイヤーを迎えると同時に、アリアナ聖女の件は発表されると聞いていたので。それに戒律の変更も併せて発表されると、先ほど陛下に教えていただきました」
クリフォード団長は、淡い紫色の瞳を驚きで輝かせ、でもすぐに笑顔になる。
「……そうか。アリアナ聖女は、もう隠れるように生きる必要がなくなるのか。それは心から良かったと思うよ。アリー聖女も、ようやく再会できるね」
しみじみとそう呟き、夜空を見上げるクリフォード団長の横顔を見て思う。
ようやく再会できるのは、クリフォード団長も同じはず。
戒律も変わるのだ。
それにもう、十八年の時が流れのだから。
クリフォード団長の無償の愛と献身が、報われてもいいのでは……と思わずにいられない。
「ところで私からも一つ、国王陛下に進言をしておいた。王立ローゼル聖騎士団には、二人のマスターナイトがいる。しかも役割が明確だ。宮殿と神殿を守る私は、防衛団長。魔物の討伐へ向かうエルンスト公爵は、攻撃団長にしたらどうかと。陛下は笑顔で『それは採用じゃな』と言ってくれたよ」
これは素晴らしい提案だと思う。
クリフォード団長が言う通り、せっかく二人のマスターナイトがいるのだから!
ランスと顔を見合わせ、思わず笑顔になる。
「そろそろだ。陛下の元へ戻るとするよ」
クリフォード団長は、国王陛下がいる置時計の方へと歩き出す。
時計は23時58分になったばかりで、秒針が確実に時を刻んでいる。
「いよいよですね、アリー聖女様。一年前の同じ時。自分が次のニューイヤーを愛する人と迎えることができるとは、想像していませんでした」
「それは……私も同じです。修道院では孤児院の子供達も含め、ニューイヤーイブはみんなでパーティーをしていました。でも多くが、日付が変わるまで、起きていることができなくて……。寝かせる準備をして、ばたばたしていると新しい年を迎えていた――そんなことばかり。今回は……絶対に忘れることができない年越しになりそうです」
楽団が勇ましい音楽を流し、カウントダウンが始まった。
「5・4・3・2・1……」
花火が打ちあがり、その瞬間。
花火の輝きより、うんと美しく見慣れた光に包まれる。
ふわりと重なった唇の優しさ、温かさに胸がトクンと反応した。
「ハッピーニューイヤー。皆と新しい年を迎えることができ、この上なく嬉しく思う。この国と国民の健康と繁栄を願い、乾杯!」
力強い国王陛下の声が響き、その場にいた全員が応じる。
「乾杯!」
花火の打ち上げは続き、楽団は軽やかな音楽を奏で、飲み物を飲んだみんなが拍手をする。国王陛下はその後、聖女アメリアのことを包み隠さずすべて話した。
新年早々の驚きの情報に、皆、驚くことになったが、聖女が生きていたのだ。しかもクリフォード団長の提案通り。二人の聖女、二人のマスターナイトは、それぞれ防衛団長、攻撃団長に就任し、国と国民を守り、魔物を殲滅する。この発表には、文句のつけようがないだろう。
さらに戒律の変更の件も発表された。
聖女と聖騎士との婚姻は申し出があった場合、慎重に検討することになる。だが聖騎士が聖女以外の女性と婚姻を望んだ場合、それを戒律で禁止するのは、止めると告げたのだ。
これにはその場にいた令嬢と聖騎士達は大喜び。
もしかするとローゼル王国では今年、婚約ラッシュになるかもしれない。
それにしてもこの一晩だけで、多くのサプライズが発表された。ニュースペーパーは、話題に事欠かないはずだ。
自分が聖女しかもしれない……と最高に気持ちが盛り上がり、でも、聖女ではなかった……とドン底まで気持ちが落ちた。もしこの時、私の護衛兼従者兼御者として、ランスがついてくれなかったら……。失意のまま村に戻り、修道院で一生を終えていただろう。
だがランスと出会い、様々な人と出会い、大変な思いも経験した。
多くの魔物を倒し、ランスと気持ちが一つになるまでにも、時間はかかってしまった。
それでも沢山の事件を乗り越え、絆を紡ぎ、今があると思う。
「アリー聖女様、花火の打ち上げも終わりました。中へ入りましょうか」
「はい!」
ターコイズブルーの美しい瞳をこちらに向け、ランスがその整った顔をほころばせた。
淡い輝きをまとったランスが差し出した手に、自分の手を重ねる。
ホワイトブロンドのサラサラの髪をゆらすランスにエスコートされ、ゆっくり歩き出した。
・**♡~ happily ever after ~♡**・
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
心温まる応援に支えられ、ここまでくることができました。
読者様に心から感謝です(御礼・ペコリ)
24日ですが、喪中のため、お祝いの言葉はなしでごめんなさい!
ホリデーシーズンの読者様へのギフトとして、この最終回を贈ります~
よろしければページ下部の
☆☆☆☆☆をポチっと、評価を教えてください!
そして中編新作の1話目を先程公開しました。
『ざまぁは後からついてくる
~悪役令嬢は失って断罪回避に成功する~』
https://ncode.syosetu.com/n3197io/
毎朝7時には読めるよう、ご用意しておきます。
年末年始、お忙しいことと思います。
ご都合のいい時にお読みいただけると幸いです☆彡
ページ下部のイラストリンクバナーからお願いします!