138:舞踏会
ついに舞踏会が、始まった。
会場となったホールは、ニューイヤーの舞踏会ということで、いつもより豪華なのだとランスやロキが教えてくれた。「いつも」が分からないので、私はもう、圧倒されてしまう。
寒い季節なのに、これだけの生花をどうやって集めたの!?と思ってしまうぐらい、色とりどりの花が飾られている。高い天井からは、シャンデリアがない場所に、王旗、王妃旗、王太子旗、各騎士団旗、神殿旗、それに聖女旗も吊るされていた。どれもシルクや金糸や銀糸、宝石も使われ、とても豪華。バルーンやガラス玉やリボンなども随所にあしらわれ、実に華やかだ。
そこに着飾った貴族の男女が集っている。カラフルなドレス、男性の正装もドレスに負けないぐらい色彩豊か。黒のテールコート姿も多いが、人によってはゴールドのテールコートを着ていて、驚いてしまう。
国王陛下や宰相による挨拶が始まったが、もう人が多くてよく見えない!
それぐらい沢山の人で、ホールは溢れていた。
ダンスが始まると、私は思わず見惚れてしまった。みんな、なんて器用に踊ることができるのかしら。軽やかなステップ。クルリと回転した時のドレスの美しさ。
踊る貴族の皆さんに、目が釘付けになっていたけれど。
視線をとても感じる。
そこで気が付くことになる。
聖騎士は、見た目の麗しい男性が多い。しかも皆、貴族のご子息で未婚。彼らと結ばれることは現状、ハードルが高い。でも「聖女に忠誠は誓うが、婚姻は自由」と、クリフォード団長は変えようと思っている。それを今ここにいる令嬢は、知る由もないが……。
だからこれは、完全に憧れだと思う。
素敵な聖騎士様と、一度でいいからダンスをしたいと。
王都で一番と二番目に人気というランスとロキが、ダンスの踊れない私にはりついている。これはまさに宝の持ち腐れね。
「……ランス様。私はお恥ずかしいことにダンスができないんです。せっかくエスコートいただいたのに……。本当に申し訳ないです。今後は時間を見つけ、ダンスの練習をしたいと思っています」
「アリー聖女様。歴代の聖女もダンスが得意だったわけではないと聞いています。貴族の令嬢が聖女だったことは、数える程しかなかったそうなので。気にされないでください。もしアリー聖女様がダンスを覚えたいと言うなら、自分が手取り足取り、誠心誠意でレッスンしますから」
まさに私の心をとろけさせる極上の笑みを浮かべたランスは。恭しく私の手をとり、甲へと口づける。これを目撃した令嬢達が、声にならない悲鳴を上げている様子が、伝わって来た。
「アリー聖女、大丈夫か?」
まさに卒倒しそうになる私を、ロキが支えてくれた。
これはクールダウンが必要だわ!
そう思ったまさにその時。
「アリー!」
「ナオミ!?」
これはまさにサプライズ!
ブルネットで碧い瞳のナオミは、明るいミモザ色のドレスを着ていた。ふわりとクリーム色のチュールが重なり、とても美しい。
ナオミのそばには、ミルキーブロンドの髪に、オーバル型の眼鏡をかけたジルベールがいる。今日のジルベールは、アプリコット色のテールコートで、ナオミと横に並んだ時の色合いが完璧だった。
二人は今日の衣装について相談して来たのかしら?
そんな疑問はさておき。まずはロキにナオミとジルベールを紹介する。ジルベールはさすが。とても丁寧に自己紹介をして、さらにナオミのことを紹介した。おかげでロキは、シリルの時とは違い、最初から丁寧にジルベールとナオミに接している。何より、ジルベールはナオミと婚約の手続きをしていると話したので、ロキは安心していた。
ここで私はランスとロキに、提案した。
「とても懐かしく、なかなか会う機会がないので、少しナオミとジルベールと話したいと思います。お二人は良かったら、ダンスでもしてきてください。実はず~~っと、視線を感じているのです。沢山のご令嬢から。せっかくの舞踏会。しかもニューイヤーの特別な舞踏会なので、令嬢達の思い出作りのお手伝い、してあげてください」
ランスは嫌がるかしら?と思ったが、そんなことはなかった。既にナオミとジルベールのことも知っていた。私が二人と話したい気持ちを汲んでくれた。「分かりました」と微笑で応じる。
一方のロキは「まあ、王都で一番人気の俺がダンスをしないのは、大いなる損失だよな。よし。少しばかり、令嬢のお相手でもするか」と、割と嬉々として令嬢達の方へ向かっていった。
この様子を見ると、ロキは不思議。いつも私のことを好きとか言っているけれど……リップサービスなのかしら?
ともかく、ランスとロキのダンスが解禁(!?)となり、令嬢達の群れが一気に二人に向かい、会場の様相が大きく変化する。
これにはビックリ。
「アリー、ランス様は貴公子で、あのロキ様はなんだかワイルドでかっこいいわね」
「ふふ。自称、王都で一番人気と二番目に人気の二人なんだって」
「自称ではないんじゃない? あの人気は」
そんなことをナオミと話していると、ジルベールは気を使い、飲み物を取りに行ってくれる。ジルベールがいないので、ナオミとは思いっきりお互いの恋の話で盛り上がった。ジルベールが戻ってくると、町の様子やキャリーのことを話した。
キャリーは里親の貴族の屋敷で、年明けから一緒に暮らすことが決まったのだという。このニューイヤーイブと新年も、その貴族の屋敷で、静かに食事を楽しみ、音楽を聴いて過ごしているとのこと。キャリーを大切にしてくれる里親に会えてよかったと、心から思ってしまう。