135:祝福を
「あ、アリー聖女様! 良かったです! 御支度の時間なのに、お部屋にいらっしゃらなかったので。今、リリスが探しに出ていますが、すぐ戻るでしょう。まずは入浴からどうぞ」
「そ、そうよね。ごめんなさい。入浴ね」
こうして舞踏会へ向けた準備が始まる。
ドレスはランスの衣装にあわせ、紺色の生地に透け感のある白のソフトチュールを贅沢に重ねたもの。チュールには、大小の薔薇の花がグラデーションでプリントされている。さらにドレス全体に銀粉を吹きかけたような煌めきがあり、とても美しい。
「生地は濃紺ですが、このソフトチュールが重なることで、見事な濃淡ができていますよね。さらにプリントされている薔薇の花は、グラデーションになっているので、立体感も出て、本当にお美しいです」
ドレスを着せながら、リリスが絶賛してくれる。
ララは昼間より濃い目に、お化粧をのせてくれた。
髪はアップにし、ランスがプレゼントしてくれた髪飾りでまとめた。ターコイズブルーの宝石がめしべ、花弁が銀細工で表現されたとても美しい髪飾りだ。
「実はですね、ランス様から今朝、お預かりしたものがあるのです」
そう言ってリリスが見せてくれたのは、髪飾りとお揃いのターコイズブルーの宝石が使われたペンダントとイヤリングだった。
宝石は程よい大きさ。でも間違いなく、ランスの瞳にそっくり。これが髪、首、耳を飾ると言うのは……。なんだか懸命に「アリー聖女様は自分のものです」とランスがアピールしているようで、可愛らしくなってしまう。
「他のご令嬢でしたら、もっと意中の殿方をアピールするような、大ぶりの宝石をつけたりするんですよ。殿方の瞳や髪色のドレスを着たり、宝石も全部それで揃えたり。ランス様のこの控えめなアピールは……なんというか健気で、逆に我々としては、胸がキュンキュンとしちゃいますね」
ララの言葉にリリスも同意を示し、最終的に「「ランス様はお可愛い!」」とキャッキャッ喜んでいる。
「そしてですね、ニューイヤーの舞踏会は、花火の打ち上げが、0時にあります。おそらく、庭園に出て眺めることになりますので、こちらのファーのショールをお持ちください」
それは、白というよりシルバーに近い、大変美しい毛並みのショールだ。
こんな高級なものを見るのも、触れるのも初めてで、ビックリしてしまう。
リリスに渡されたショールをまとうと「ドレスと色合いがピッタリですね。とってもお似合いです!」と絶賛してもらえた。
こうして準備が整った。
部屋に迎えに来てくれたのはランスだけで、ロキは馬車で合流とのこと。
ランスにエスコートされ、エントランスに向け歩いていると……。
「アリー聖女様が今日はことさら美しく……。自分とアリー聖女様との婚約が発表された瞬間、他の聖騎士に恨まれそうな気がします……」
珍しくランスが弱気な声でこんな発言をするので、ビックリしてしまう。
「それはないですよ、ランス様。だって聖旗判定の儀では、マスターナイトに選ばれたランス様に対し、クリフォード団長以下、王立ローゼル聖騎士団のメンバー全員が跪いたのですよ。あのギャレット・N・トッシュも、ちゃんと跪いていました。大丈夫です。みんなランス様のことを正騎士であり、マスターナイトであると、認めてくれています。そのランス様と私が婚約しても……それは当然と思ってくれるはずです!」
そこで私はさらにこう付け加える。
「それに今のランス様は……。その軍服がとても素敵です。ランス様のための特別な軍服。マスターナイトの紋章があること、初めて知りました。この衣装をまとうことが許されているのは、ランス様だけなんですよ。クリフォード団長とも違うデザインの特注品です! もっと自信を持っていただいていいのですよ!」
もう本当に、このスペシャルな軍服が素敵なのだ。
全体的に体にフィットしたデザインで、ベルトの位置もハイウエスト。
ランスの聖旗が紺色に銀糸の刺繍が使われていたが、この軍服も色はミッドナイトブルー。刺繍、飾りボタン、飾緒、技能章などは、全てシルバーで統一されている。ベルトとロングブーツは白で、略綬だけはカラフル。サッシュは、瞳の色と同じターコイズブルーだ。
そして注目すべきはマント!
裏地は白で、表がなんと輝くようなシルバー。
そして聖旗が紺色の糸で刺繍されているのだ。そう、これこそがマスターナイトの紋章!
さらに今日、この衣装にあわせ、ランスはいつもすべておろしている前髪の半分を、左側に流している。これがまた、前髪を真ん中分けしていた時とは違い、痺れるほどのカッコよさ。
部屋に来てくれた時、あやうく腰をぬかしそうになり、リリスとララに支えてもらったぐらいだ。
「アリー聖女様にそう言っていただけると、安心ですね」
ようやくいつものランスの声音と笑顔になってくれた。
でもランスの気持ちもよく分かる。
この年齢でマスターナイトの称号が授けられるのは、なにせ初なのだから。
「ランス様」
「はい、アリー聖女様」
「聖騎士に聖女が授ける祝福を特別に。正騎士であるランス様に、授けてもいいですか? こんな廊下の真ん中という場所ですが」
「!! 嬉しいです、アリー聖女様。とても光栄です。場所なんて関係ないですよ。ぜひお願いします」
ランスが、今にとろけてしまいそうな、笑顔になっている。
一瞬、目が開けられないぐらいの輝きも発せられた。
目を開けると、ランスは全身に煌めきをまとい、片膝を絨毯につき、跪いている。
見上げるランスの眼差しが美しすぎて、息ができなくなってしまう。
何度か深呼吸をすると……。
「ランス・フォン・エルンスト、あなたは第102代聖女であるアリー・エヴァンズに、心からの忠誠を誓いますか?」
「はい、アリー聖女様。ランス・フォン・エルンストは、心からの忠誠をあなたに捧げます」
私の手をとったランスは瞳をキラキラと輝かせ、そして甲へと口づけを行う。
「ランス・フォン・エルンスト、あなたに聖なる力の加護と祝福がありますように」
その額に祝福の口づけをした。






















































