129:半分正解で、半分は不正解
ペンダントに関する真相に、どこまで辿り着いたのか。
そう問うと言うことは。
クリフォード団長は、ペンダントに関して何かを知っている。
私が辿り着いた答え、推測は、どこまで話していいのだろうか。
場合によっては先代聖女であり、私の母親かもしれないアリアナを、冒涜することにもなりかねない。
やはり簡単に答えることができず、考え込むと……。
「先代聖女であるアリアナは……アリー聖女。あなたにとても似ている。18歳で神殿へ初めて来たばかりのアリアナとあなたは、まさに瓜二つ。好奇心も旺盛で、聖女としてこれから頑張ろうと希望に満ち……。そんなあなただったのに。ペンダントのせいで、村へ追い返すような事態になってしまった。でもそれはあなたを守るためでもあったと言えば、分かってくれるだろうか」
クリフォード団長のこの言葉に、私は自分の考えていたことが、間違いではなかったのではと確信する。ここはお互いの手札を見せる場なのだと思った。
「私が聖女として目覚めることを回避するため、あのペンダントは残されたのだと理解しました。私が聖女として目覚めることがあれば、その出生の秘密がバレるかもしれない。ペンダントに込められた魔力は、聖女の力を抑えるもの。ペンダントをつけていれば、私が聖女として目覚めることはない――そう考えたのではないですか?」
ドキドキしながら、クリフォード団長の切れ長の瞳を見る。手札の一枚は見せた。彼はどう出るのかしら……?
「それは半分正解で、半分は不正解だな」
「え」
「出生の秘密がバレることよりも、あなたが同じ不幸な道を歩まないことを願った」
「不幸な道……?」
クリフォード団長は、私から視線を逸らすことなく、話を続ける。
「聖女というのは、昨日までただの人間として生きていたのに、18歳になったら突然『聖女の証が現れた。あなたは聖女だ。国のために、民のために生きてほしい』となるが、そのことに私は疑問を持っていた」
ランスやロキ、国王陛下さえ言っていた、クリフォード団長の彼らしからぬ一面。それが今、表出しつつある。
「生まれたその時から、聖女と定められているなら、そのような生き方もできる。でも18歳まで、他のみんなと変わらない生き方をしていたのに。それを急に方向転換させられるのは……不公平と思わざるを得ない」
「それは……そうかもしれませんね。具体的にクリフォード団長は、どんな点が不公平だと思うのですか?」
「婚姻についてだよ。聖騎士も聖女も。互いに独身を貫く。なぜ?と思ってしまった」
なるほど。その考えが根底にあるから、聖騎士を辞め、ランスが私と結ばれることも、良しとしたのね。
そう理解したものの。
クリフォード団長は「同じ不幸な道を歩まないことを願った」と言っていた。
「聖女も聖騎士も、それぞれの役目がある前に、一人の人間。人間としての幸せの一つとして、愛する人と結ばれる権利がある……と考えられたのですね。でもその権利が聖女と聖騎士には認められていない」
「その通り」とクリフォード団長は頷き、その切れ長の瞳を私に向ける。私はゆっくり口を開き、自分の考えを彼に聞かせる。
「聖女は……先代聖女アリアナは、婚姻を望んでいた。恋をされ、そして……不幸になってしまった。もし私が聖女になれば、愛する人と結ばれることができない。アリアナと同じく不幸になる可能性がある。だからあのペンダントを私がつけ、聖女にならないことを願った――ということですか?」
「ええ。正解です。あなたが聖女候補として王都に来たと知った時は、あのペンダントでは押さえ切れなかった……と、一度は諦めることになった。でも儀式で、聖女であるか、確認しようとしたら……。ペンダントは効力を発揮し、あなたは聖女とは認定されなかった」
そこでクリフォード団長は、小さく息をはく。
「あとは堅物で知られるエルンスト伯を護衛につけ、村へ返せば、あなたは平和に暮らせると思った。まさかその道中で、二人が恋に落ちるとは。想像すらしていない。それも聖女と正騎士という二人であるならば、仕方ないこと。でもその時は、そんなことを知りませんから。とにかく驚いた」
それは……私も同感。
まさかランスのことを、こんなに好きになってしまうなんて!
でも村に戻れば平和に暮らせる……それはある意味、そうかもしれない。
修道女は修道院を出て、修道女であることをやめれば、結婚だってできるのだから。恋愛相手が見つかるのかという問題はある。それでも聖女に比べれば、自由だった。
「既にエルンスト伯に恋をしているあなたが、彼と結ばれるためには、聖女として目覚めないことが必須。それなのに。ヴァリアント・ウィング<団長の翼>を使い、調べさせたところ……。エルンスト伯とあなたは、ペンダントの秘密に迫ろうしていた。あのペンダントがシャドウマンサー<魔を招く者>の魔力がこもったものと分かれば、はずそうとする……」
「だから警告を与え、止めたのですね。私とランス様が婚約し、結婚することは止めない。でもシャドウマンサー<魔を招く者>について、調べるのは止めろと」
クリフォード団長としては、もしこれで調べることを私達が止めなければ、出生の秘密を明かすことも、検討していたという。だが時を同じくして、まったく別の意図でギャレット・N・トッシュが動いた。
同じ伯爵家の次男で聖騎士、さらにはグランドナイト。自身と変わらないと思っていたランスが活躍することに、嫉妬したトッシュは、部下に事件を引き起こさせた。このおかげで、確かに私達は、シャドウマンサー<魔を招く者>について調べるのを、止めることになった。
だがまるでその代わりのように、魔物の四天王であり、“最厄”と呼ばれた残酷な魔物<クルエルティ・ヴィラン>が動き出したわけだ。
「ペンダントの謎は解けました。まさか私が愛する人と結ばれることを願い、ペンダントを用意してくれたとは……。でも結局あのペンダントを、赤ん坊の私が入った籠にいれた人は、誰なのですか?」
駆け引きなしで、お互いの手札をどんどん見せ合っていた。そして今、私は核心に迫るカードを切ったと思う。