128:真意
翌日。
ランスは聖騎士団へ向かい、私はクリフォード団長に出すため、ドライフルーツとナッツを使った発酵焼き菓子を作ることにした。これはお菓子として出すなら、紅茶と一緒に。スライスしたチーズをのせ、ワインと一緒に出すと……。甘い物が苦手な人も、オードブル感覚で楽しめる。
クリフォード団長が、甘党なのか、辛党なのか。
それが分からないので、会った時に確認し、メイドに出してもらうつもりだった。
ということでパウダーピンクのドレスに、白のエプロンをつけ、調理開始だ。
ロキはシトラス色の明るいセットアップ姿で、ドライフルーツを刻む私を見ていたが……。
「アリー聖女。このアーモンドとクルミは、どうするんだ?」
「それはさっき調理人の皆さんにローストしていただいたので、アーモンドは半分に切り、クルミは砕きます」
「よし。クルミを砕くのは、俺がやろう」
ロキはそう言うと、そばにいた調理人に頼み、エプロンを身に着けた。ロキのエプロン姿なんて初めて見たので、思わず笑ってしまう。
「どうしたのですか、ロキ様。いつも眺めているだけなのに」
「……いつもアリー聖女は、楽しそうに調理をしているからな。やってみたくなった」
なんだか可愛らしいことを言うロキと共に、お菓子作りをすすめる。生地を作るため、こねたり、油を塗ったり。オーブンで焼けるよう、型に生地をいれたり。作業は三時間近くかかったが、ロキと和気あいあいやっていると、あっという間だった。
昼食を終え、そしてクリフォード団長がやって来た。
午前中は聖騎士団の本部に顔を出していたようで、以前見た、白の隊服姿だった。やはりその姿は、45歳とは思えない、若々しい風貌だ。
肩までの長さのプラチナブロンドを揺らし、歩くその様子は、とても上品。団長として日々鍛えているだけであり、ランスと似たスラリとした細身で、立ち居振る舞いは、優雅に感じる。
応接室に案内すると、ロキはそのまま隣室で待機だ。
ソファに向き合って座り、メイドが紅茶と一緒に完成したフルーツとナッツたっぷりの発酵焼き菓子を出すと……。
「アリー聖女、こちらはもしや、あなたの手作りですか?」
「ええ、そうです。午前中、時間がありましたので、作ってみました」
ランスは聖騎士として既に再稼働しているが、私が聖女として正式に動き出すのは、年が明けてから。よって今は少し、時間がある。と言っても、予定がないわけではない。年内はランスとの婚約の手続きを進め、時間がある時に、聖なる力を武器に込める必要があった。
その上で、ニューイヤーの宮殿で行われる舞踏会にて、新生聖女として私のお披露目が行われることになっていた。
一応、明日には聖なる力を込める剣、槍、弓が届くことになっている。武器が届いたら、内職で聖なる力を込めていく。
ちなみに聖旗は現在、神殿で製作中。私は完成した聖旗の到着を待っていた。届いたら、聖なる力を込めることができるか、試すことになる。無事、聖旗に聖なる力を込めることができたら……。ニューイヤーの舞踏会前に、ランスがその持ち主としてふさわしいか、聖旗判定の儀を行うことになっている。
そんな状況なので、今日はお菓子作りもできた。でも明日からはなんだかんだで私も、聖女として忙しい日々になりそうだった。
「アリー聖女が料理上手、お菓子作りが得意だという話は、聖騎士団の中では有名。まさか今日、いただけるとは思わなかった。光栄です」
淡い紫色の切れ長の瞳を細め、微笑むと、クリフォード団長は、用意したお菓子を食べてくれた。その姿を見ると、緊張が解けた気がする。
「味がしみ、濃厚でジューシーでとても美味しいですよ。皆がアリー聖女の腕前を絶賛しているのが、よく分かる」
さらにそう言って笑顔になってくれたので、私は完全に肩から力が抜けた。
「クルエルティ・ヴィラン王都襲撃事件で、アリー聖女が目覚めることになったきっかけ。それは、かつて先代聖女を害するために用いられた『ナイト・スカイ』と題された宝飾品……シャドウマンサー<魔を招く者>により、魔力が込められたペンダントであったことは、既に報告されていますが……」
てっきりランスとの婚約と結婚へのお祝いの言葉。もしくはクルエルティ・ヴィラン王都襲撃事件で怪我を負った聖騎士達を治癒したことへの御礼を、言われると思っていた。それがいきなり、この話題。
緩んでいた気持ちが、引き締まる。
「なぜ、王都から離れた孤児院に捨てられていた赤ん坊が、こんないわくつきのペンダントを持っていたのか。それは大いに議論されることになり、捜査が始まりました。……エルンスト伯が禁書を閲覧したのも、このペンダントの来歴を探るためだった」
紅茶を一口飲んだクリフォード団長に上目遣いで見られ、心臓がギクリと反応してしまう。
「シャドウマンサー<魔を招く者>が関わるようなペンダントを持っていたために、嫌な思いもしてしまったかもしれませんね。そこは……本当に申し訳なく思います。本来、そのペンダントは、調査が済んだ後、廃棄されていなければならない物だったのに。この世から消えているべき物が残り、あなたを混乱させることになったのだから」
なんと答えるか逡巡していると、クリフォード団長が私に尋ねた。
「アリー聖女はどこまで真相に辿り着きましたか?」
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