119:救世主
まさにカオスの中で戦闘が続き、ようやくシャドウ・ガーゴイルの討伐を終えたランスは、私のペンダントをはずそうとした。するとクリフォード団長から「何をしている!?」とまさかのストップがかかる。
「あの時は怒鳴るようにして、クリフォード団長に報告することになった。クルエルティ・ヴィランと会話し、アリー様が聖女であることが分かったこと。この状況を打破するには、アリー様に聖女として目覚めてもらう必要があること。それを伝えたが……。いつも即決即断のクリフォード団長が、その時ばかりは逡巡した」
「ほお、珍しい。何を迷ったのか」
紅茶のおかわりを飲みながら、ロキが首を傾げる。
「それは分からない。落ち着いたら直接、クリフォード団長に尋ねたいと思うが……。ともかくそんな問答をしていたら、クルエルティ・ヴィランは、デュアルナイトの精鋭たちを次々と戦闘不能に追い込んでいた。自分のこめかみの怪我は、奴に蹴飛ばされた精鋭の一人を受け止めた時に出来たものだ。それを見てようやく、クリフォード団長が『ペンダントを外していい』と言ってくれた。その後は――」
その後の展開は、私自身も目の当たりにしていた。
だからランスの話を聞きながら、飲み終わった紅茶のカップやお皿をトレイにのせ、リリスに渡す。
「なるほどな。そんな時の俺の登場は、まさに救世主だっただろう?」
「……ああ。それは認めるよ、ロキ。あの時はもう、間に合わないと思った」
素直に応じたランスにロキは「え、あ、そ、そうか。それは……良かった」と頬を赤くした。
「あのタイミングで間に合ったのは偶然か、それとも?」
「それは……打ち明ければ偶然だ。満身創痍の俺は、あの『天国の門』から降りるのも一苦労だった。降りた後、なんとか自分の聖剣を見つけ、魔物とやりあいながら、そっちへ向かったが……。未使用で破損していない矢を見つけられたのは幸運だった。でもな、その矢を一本手に入れた代わりに、聖剣は大蛇の魔物<スネイク・スリザー>にくれてやることになったが」
ロキはロキで絶体絶命だった。
何より既にクルエルティ・ヴィランとの激闘を経た後で、駆け付けてくれたのだ。
「ロキ様……本当にあの時はありがとうございます。ロキ様の矢によって、クルエルティ・ヴィランの動きが止まり、ランス様と私は、お互いの力を使うことができました。……失った聖剣の代わりは、必ず私の方で用意しますから」
「アリー聖女! それはありがたい。ぜひ聖剣を授ける時は、熱い抱擁も……」「ロキ、やはり君は、一度死ぬべきだ!」「な、一度死ぬ!? 無理だ、ランス。二度目はないんだから!」「だが君はクルエルティ・ヴィランに、九度目でとどめをさされ、でもここにいるのだろう?」
ロキとランスがこんなに会話できるぐらい回復していることに、ホッとする。
聖女に目覚めた私は、聖なる力を使えるようになった。
この聖なる力で出来ることは、いくつかある。
聖なる武器を作ることもできるが、治癒も行えた。
ロキとランスの骨折は、治癒済み。
ランスのこめかみの傷も、治癒できている。
本当は縫うことになった傷も、治癒したかった。
でも昨日の戦闘では、多くの負傷者が出ている。
そこで骨折を最優先に、出血量が多い傷、深い傷などを治癒していくことになった。結果、重症の怪我人はいない状態だ。それでも宮殿の各種騎士団の医務室は満室。ロキとランスは、傷口の縫合が終わると、エルンスト伯爵家の別邸に戻ってきたわけだ。
戻ったのは、もう日付が変わる時間。
その後、入浴を終え、私が休んだのは……。
二時過ぎだったと思う。
それでも一度七時過ぎに起き、リリスやララと共にロキとランスに薬を飲ませ、そして十時過ぎに目覚め、現在に至っている。
「ねえ、君」
ロキが部屋の隅にいる管理官に、声をかけた。
ちょいちょいとロキは、管理官を自身の方へと手招く。
椅子から立ち上がった管理官は、ロキのそばに駆け寄る。
「パイ管理官、君はランスとアリー聖女のこと、どう思う?」
ロキに問われたパイ管理官は「えっ」と一瞬小さな声を出したものの、すぐに答える。
「英雄だと思います。お二人がいなければ、聖騎士は……全滅していた可能性もありますから」
「そうだよな」とロキは腕組みをして頷く。
「どう考えても、この二人は出世するぞ。アリー嬢は聖女だからな。それでランスは聖女の唯一無二なんだ。王都を見舞った魔物の脅威は去った。でもこの国から一切の魔物が消えたわけではない。四天王も滅んだが、四天王ランクの魔物はまだ残っている。よって二人の重要性は、増すばかりだ」
ロキの言葉に「そうですね」とパイ管理官は力強く頷く。
「まあ、だから報告書を仕上げる時は、気を遣うべきだ。二人は抱き合うことで、力を合わせることができた。クルエルティ・ヴィランは、二人のプラトニックな絆に阻まれ、ランスを抹殺しにきた――分かるよな?」
ランスが聖騎士であることを踏まえ、口づけで生命力を高め、私の聖なる力のサポートを受けていたことは……別の言い方にしろとお願いしているのね。
ちょっとズルな気はする。でもこれだけ頑張ったのだから、そこはいいわよね。
「勿論です。ぼくは昔からランス指揮官のファンですから。この羊皮紙でも、その部分は空欄にしてあります」
言うまでもなかった。
パイ管理官は理解のある人物だ。
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【新作公開】全7話読み切り
『隣国の年下王太子は未亡人王妃に恋をする』
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突然、転生することになった私。
でも、想像していた転生とは、全然違っている。
神様、これは何かの間違いでは!?
いくら文句を言っても何も変わらないので、自分で何とかすることにしました。
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