11:平謝り
「先ほどは、本当に失礼しました」
そう言って何度も謝罪したランスはしっかりシャツを着て、上衣を羽織り、あの美しい体を隊服の下に隠してしまった。あやまる必要はなく、むしろ「ありがとうございます」と寄付金を渡したいぐらいなのに。
いや、そんな不埒なことを修道女である私が、考えていいわけがない。
ドレスのポケットに入れているロザリオのことを思い出し、気持ちを落ち着かせ、ランスに尋ねる。
「その、怪我は大丈夫なのですか?」
「ええ。怪我、というより、打ち身ですから」
ランスは落ち着いて答えると、自身も私の対面のソファに腰を下ろした。
突然、扉を開けた彼が上半身裸だった理由。
それは盗賊との戦闘時、殴られてできた打ち身に、湿布薬を塗るためだった。その塗り薬を部屋に届けてもらうよう、パーク男爵の従者に頼んでいた。上半身裸になっていたのは、すぐに薬を塗れるようにするためだった。
私が部屋を尋ねると知っていたら。
上半身裸にはならない。それに扉をノックされたら即、返事をしただろう。
でも私の訪問は予定されていなかったし、てっきり従者が来たと思い、上半身裸でいきなり扉を開けてしまったわけだ。
正直、その点については、何も問題ないわ、と思ってしまう。
あんなに素敵な肉体美を見せていただけたのだ。何の文句がありましょうか、だった。それに筋肉に関して、発見もあったのだから。弾力のある筋肉が、瞬時に硬くなる奇跡。あれはもう一度、体感したくなってしまう。
それなのにランスは……。
異性の裸など、修道女である私に見せるべきではないもの。それなのに見せてしまい、申し訳ないとしきりに謝るのだから……。
それにあのノックの音と共に、塗り薬を届けた従者に対しても、「塗り薬をつけるために、服を脱いでいただけです。そこに偶然、アリー様が訪ねてきただけですから」と何十回も繰り返し聞かせ、その間、私はあの光を何度も感じ、目がチカチカしていた。
私は目をぱちぱちさせていたが、従者が眩しそうにする様子はない。むしろ、繰り返されるランスの説明に「分かっています」と若干辟易していた。
そしてすぐに服を着るためには、薬をとっと塗るしかないと気づいてしまう。そして手早く薬を塗ると、ランスは隊服を着てしまったわけだ。
その間、私はソファに座り、彼はそのソファの後ろで薬を塗っている。残念ながらあの肉体美は、お預けだった。
「ところでランス様。突然、部屋に私をいれた理由は、なんだったのでしょうか?」
するとまた彼は顔赤くし、そこからあの光を感じ、私は不思議な気持ちになる。
聖女ではないのに、突然、ランスからこの輝きが見えるようになるなんて。
一体私はどうしてしまったのかしら?
しかも彼の輝きは、私にしか見えないのだから。
不思議だわ。
私がそんなことを思っている間に、気持ちを整えたらしいランスが、静かに口を開いた。
「……アリー様に、自分は聖剣ではない力で魔物を倒す――と話しましたよね?」
「ええ。それは昼食の時にお聞きしました」
「その力を自分は見ることができないのですが、その力が発揮されていることは、自覚できるのです」
ランスは魔物が見えない。さらに自身の力だというのに。その力さえ、見えないなんて。
不便ね。でも自覚できるなら良かったと思う。
「その力はなんというか、自分の生命力というのでしょうか。生きる気力が強くなった瞬間に、その力が発動するようなのです」
「そうなのですね。魔物はランス様の強い生命力にあてられ、消失する……ということでしょうか?」
「そのようなのです。そしてその瞬間。どうやら自分は……アリー様の様子を見るに、光でも発しているのでしょうか……?」
その言葉にもしや、と思う。
もしかしてここずっと感じていたあの光。
正体は、ランスが使う生命力だったということ……!
「ランス様からは、何度も光を感じています!」
そう答えた瞬間。
彼の顔が赤くなり、また光が発せられた。
「い、今もまさに光を感じました。とても眩しいです」
「失礼しました!」
ランスは平謝りだ。
「そんな。大丈夫ですよ。眩しいだけですから」
そう答えるとランスは、困った顔で私を見ている。
「アリー様と行動している間、自分は……そんなに何度も輝いていましたか?」
「ええ、何度も。何十回も輝いていたと思います」
そう答えた瞬間。
閃光にも近い光に、目を完全に閉じることになった。
「……今も、光りましたか!?」
「盛大に」
「くっ」と唸ったランスは「目を閉じたままでいてください、アリー様!」と叫ぶ。
「はあ」と返事をし、目を閉じていると。
ランスが深呼吸を繰り返しているのが分かる。
「大丈夫です。その何度も本当にすみません……」
「いえ、どうも光が見えているのは私だけのようですし、他の方に迷惑はかかっていないので、安心して良いと思いますよ」
「そう……ですね」
まだ深呼吸を繰り返している。
「聖女でもないのに、魔物は見えて、そしてランス様の生命力も見える。なんだか不思議ですよね」
「それは……そうですね」
そこでようやくランスは「目を開けていただいて大丈夫です」と告げた。