113:謎解き(ランス視点)
アリーについて話を聞きだそうと思ったのに。
ロキやアリー、聖女に対するクルエルティ・ヴィランの侮辱の言葉。
我慢ができず、聖槍を放ってしまった。
そこでため息をつき、奴との会話から得られる情報がないか確認する。
……アリーのことを聖女だと思っていたのか……?
クルエルティ・ヴィランの言葉をいくつか思い返す。
聖女の聖騎士。既にキスをしていた。
聖女は純潔のまま。ただの聖騎士ごとき。
あなたはそれでも聖騎士。
聖女の力をかり、四天王を倒した。
僕が手に入れるのは、彼女の精神<魂>。
閃きが走った。
クルエルティ・ヴィランがそう認定したのだから、アリーは……正真正銘の聖女だ。
ロキが言っていた仮説。
冗談だろうと信じなかったが、彼女がつけているペンダントは、本物なのだ。シャドウマンサー<魔を招く者>が用意した、魔力が込められたペンダント。なぜ焼却されているはずの、聖女を害するかもしれない魔力が込められたペンダントを、アリーが持つことになったのか。それは分からないが、あれは聖女の力を抑える道具だ。
だからこそ、聖女であるか判定を受けた時、アリーは聖なる力を正しく発揮できず、聖女とは認定されなかった。だがあのペンダントをはずせば、アリーは聖女になれる。聖なる力を行使できるはず。
そうか。
四天王を倒した時、アリーはペンダントをつけていなかった。ビースト・デビルベアの時は、間違いない。つけていなかった。
セント・ポイズンの時は、つけていたはずだが……。でもあの時は、自分よりもアリーが主体的に動いてくれたから、はっきり分からない。
でもクルエルティ・ヴィランが「聖女の力をかり、四天王を倒した」と言っているのだから、きっとセント・ポイズンの時も、ペンダントはつけていなかったに違いない。
ペンダントをはずし、魔物が寄って来たと考えたが、それも違うのかもしれない。魔物は……聖女を襲いに来たのではないか? 本来、聖女は神殿にいて、あんな風に外出しない。きっと聖女の気配を感じ、本能的に魔物は聖女を倒そうと集まって来た。
きっと、そうなのだろう。
そしてクルエルティ・ヴィランの目的も、よく分かった。他の魔物と同じだ。聖女を害したいと思った。だが奴の場合は、聖女の魂を喰らうわけではなく、その魂を穢そうとしたのか。それは何も直接肉体を堕とすわけではない。精神を、魂を穢すことで、聖女を貶めると。つまりアリーの魂は今、クルエルティ・ヴィランの魔術により、どこかに閉じ込められている。
だからアリーは眠っているが、いくら声をかけて動かそうと、目が覚めない。
さらにクルエルティ・ヴィランは、閉じ込めたアリーの魂を穢そうとしたが、アリーと自分が既にキスをしていたことで、それが阻まれた。なぜキスが、クルエルティ・ヴィランの行動を阻むことになったのか……。
聖女の聖騎士。
聖なる騎士ではなく、聖女の正当な騎士、という意味だったら?
自分は数多いる聖騎士とは違う。
アリーの、聖女にとっての、唯一無二の騎士なのでは……?
選ばれた騎士である自分とアリーが結ばれると、クルエルティ・ヴィランは、聖女を穢すことができないのでは? その効力は絶対で、キスだけでも縛りになっていると。
自分とアリーが……聖女は既にキスをしていた。だからクルエルティ・ヴィランは、アリーと……聖女とキスをできなかった。だからこその寸止め。寸止めされ、頭にきて、自分を殺すためにクルエルティ・ヴィランは現れた。縛りを解除するため、自分のことを害しに来た――ということか。
そこで俺よりも先にロキと遭遇し……。
ロキは賢い。それに体力も運動能力も、並みはずれて高い。
デュアルナイトに今は収まっているが、本人が認定申請を受ければ、グランドナイトにだってなれるはず。だから……大丈夫だ。きっと生きている。
それにアリーも無事のはずだ。何もされていない。
クルエルティ・ヴィランは、聖女を完堕ちさせると言っていたのだから、まずは自分を排除し、縛りを解除。それからだ。聖女に――アリーへ手を出すのは。
いろいろ分かったが、あのロキの状況からすると、クルエルティ・ヴィランは相当強い。そして聖女であるアリーのサポートがないと、たとえ彼女の正当なたった一人の騎士……正騎士であっても、奴を倒しきれないと言うことだ。
そうなると自分が取るべき行動は……。
アリーの元に戻り、あのペンダントをはずす。ペンダントをはずし、彼女が覚醒してくれればいいが、どうだろう? 眠ったままの聖女であるアリーにキスをするだけで、彼女の聖なる力のサポートを受けられるのだろうか?
受けることができれば、それでクルエルティ・ヴィランも倒せるだろう。周辺にいる魔物も一掃できるはずだ。
ともかく今、ここでクルエルティ・ヴィランと勝ち目のない戦闘を繰り広げ、無駄死にするわけにはいかない。
撤退し、アリーの元へ向かう。
まずは『天国の門』の上部に設置された女神像に抱えられた状態のロキを見る。
相当な傷を負い、気絶している可能性が高い。
ロキはあのまま動かなければ、クルエルティ・ヴィランは放置するだろう。
それに奴の関心は今、俺にある。大丈夫だ。
次に心臓を串刺しにされた状態のクルエルティ・ヴィランを見ると……。
「……!」
貫いたと思った心臓は、そうではない。
クルエルティ・ヴィランは聖槍の軌道を読み、自身の胸に風穴を自ら用意していた。そこに聖槍を貫通させていたのだ……!
聖槍に触れないよう、ゆっくり体を起こそうとしている。
正騎士では倒せない――というのは、本当だな。
倒せはしない。でも足止めぐらいにはなるはず。
聖弓を手に矢を連続で三本、奴の足をめがけて放つ。
「なっ……」
魂を喰われた人間の体が、盾のようにクルエルティ・ヴィランを守った。
放った矢は、その人間の体と……。
見えないが、どうやら魔物が集まってきているようだ。
二本の矢は、クルエルティ・ヴィランを守る魔物に命中したと判断する。
聖水を撒くことは失敗した。さらにクルエルティ・ヴィラン自身がここにいることで、より多くの魔物が寄ってきている。
ならば。
今すぐ、アリーの元へ。
振り返らず、駆け出した。