102:あの時の約束の……
翌日は、いつもよりのんびり起きることになった。
そしてメイドのリリスとララは、王都観光を行う私のため、素敵なドレスを着せてくれた。
明るい水色の身頃には、白のレースで蝶がデザインされている。
スカートには、身頃と同じレースの蝶が舞うチュールが重ねられていた。
バックには、大き目のフリルのリボンが飾られ、実にオシャレ!
「アリー様、髪はいかがいたしましょうか!」
リリスとララに聞かれ、どうしようかと考えていると、扉をノックされた。
リリスが「はい!」と返事をしながら扉を開けると、そこにはランスがいる。
「おはようございます、ランス様!」
挨拶をしながら、頬がほころんでしまう。
朝からランスは、なんて爽やかな姿をしているの!
淡い水色のシャツに白のタイとベスト、上衣とズボンはサファイアブルー。そこに合わせた白の革のブーツが、とても素敵! 白のタイに飾られた自身の瞳と同じターコイズブルーの宝石もとても美しいし、いいアクセントになっていた。
額に巻かれた包帯が、サラサラの前髪の隙間から見えると胸が痛むが、あとは完璧。
「アリー様、おはようございます。以前、髪飾りを送る約束をしていましたが、実は昨日の夕方、屋敷に完成品が届いていたのです。本当は昨晩渡すつもりでしたが、ロキが爆弾発言をするので、つい忘れてしまい……」
そう言いながらランスは、ホワイトブロンドの美しい髪を揺らし、私のそばにやってくる。そして目の前で水色の箱の蓋を開けた。
「まあ!」「素敵!」
リリスとララが声を揃える。
箱の中には、ランスがタイにつけているのと同じ、ターコイズブルーの宝石がめしべ、花弁が銀細工で表現された、とても美しい髪飾りが収められていた。
「なんて繊細な作りで美しいのでしょう! これをいただいてもいいのですか?」
「ええ。アリー様の髪に飾っていただきたく。受け取っていただけると、光栄です」
「喜んでいただきますわ! ありがとうございます、ランス様。とても嬉しいです」
心から嬉しくなり、笑顔が止まらない。
そんな私を見て、ランスの顔も体も、キラキラと輝く。
「リリス、アリー様の髪につけてもらえるかい?」
「勿論でございます、ランス様!」
リリスは私の髪をとかすと、左耳に髪をかけ、それを押さえるように髪飾りを留めてくれた。
「いかがですか、ランス様、アリー様」
リリスに言われ、鏡を見たランスと私は、思わず鏡の中で目を合わせる。
これは王都から村へ向かう道中。
スイートアリッサムを髪に飾った時と同じだ。
「リリス、気に入ったよ、ありがとう」
「リリス、ありがとう。これで問題ないわ」
ランスと私が同時に答えるので、リリスは驚きながらも喜んでいる。
「ではこれで準備は完了ですか、アリー様?」
ランスの整った顔が、喜びで上気している。
「はい! 準備は完了です」
椅子から私が立ち上がると、笑顔のランスが告げる。
「今日は朝食をレストランでとろうと思います。ララ、アリー様のカバンを」
「承知いたしました、ランス様」
私がララからカバンを受け取ると、ランスは自身の手を差し出す。
ランスの手に自身の手をのせると、彼は私をエスコートして歩き出した。
エントランスに着くと、既にそこには馬車が止まっており、中にはロキが待っていた。
今日のロキは、レンガ色のセットアップに、自身の瞳の色と同じ栗色のタイとブーツ、シャツはクリーム色で、マルーン×オレンジの縦縞のベストという、赤髪との相性も完璧なコーディネートをしている。
「おはよう、アリー嬢! デートの邪魔かもしれないが、ランスの奴はまだ聖騎士だからな。ここは王都だし、アリー嬢と二人きりでは、俺と違い、あらぬ噂になりかねない。ということでお邪魔虫として、同行させてもらうよ」
そう言って長い脚を組むと、ロキが微笑んだ。
「おはようございます、ロキ様。お邪魔虫なんて、そんな! 護衛も兼ねて来てくださるのでしょう。いつもありがとうございます」
「アリー嬢、そうとは限らない。俺とアリー嬢のデートに、この鉄仮面がお邪魔虫かもしれない」
ロキとそんな軽口を叩いていると、ジルベールのことを思い出してしまう。
ナオミとジルベールは、今頃どうしているかしら?
そんなことを思いながら、馬車に乗り込む。
「では、出発してくれ!」
ロキがまるでこの馬車の主のように、御者へ合図を送る。
ゆっくりと馬車が動き出す。
「これから向かうのは『猫の隠れ家』というお店で、夜間勤務明けの宮殿の騎士や兵士もよく足を運ぶカフェです。焼き立てのパンを半分にして、よく焼いたベーコンを片方にのせ、もう片方にポーチドエッグをのせ、卵黄を使ったソースをたっぷりかけて食べるエッグベネディクトが有名なのですよ。きっとアリー様も気に入ると思います」
ランスがそう説明すると、ロキはさらにこんな情報も教えてくれる。
「アリー嬢、『猫の隠れ家』は、カスタードプリンも美味しいぞ。きっとアリー嬢なら、エッグベネディクトをペロッと平らげ、カスタードプリンもパクッと食べることができるはずだ」
二人の話を聞いているだけで、お腹が鳴りそうになってしまう。
「何より王都で、一番と二番人気の男と食べる朝食だ。きっと食が進むぞ」
「まあ、ロキ様ったら。でもそうですね。確かにお二人との朝食。嬉しくて、沢山いただいてしまいそうですわ」
そう私が答えると、ランスが優美に微笑んで尋ねる。
「アリー様、勿論、一番は自分ですよね」
「いや、鉄仮面、そこは俺が一番だ」
「ロキは少し黙ってほしい」
まるで兄弟喧嘩の二人を、微笑ましく眺めていると『猫の隠れ家』に到着した。
お読みいただき、ありがとうございました!
【新章追加しました!】
『悪役令嬢、ヅラ魔法でざまぁする【読者様の声を反映:改訂版】』
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断罪終了後に、まさかの前世の記憶が覚醒。
回避行動を一切とれないまま、終身刑で投獄されてしまった悪役令嬢。
しかも無実の罪を着せたのは、元婚約者とヒロイン!
森で伝説の魔女と出会った悪役令嬢は、ヅラ魔法と新たなる魔法でざまぁする。
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読者様と共に進化し続けるヅラ魔法を、お楽しみください!
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常連さんは「まさか!」と思うあの作品の新章。
心の準備ができた方はご覧くださいヾ(≧▽≦)ノ