プロローグ
「!? な、どうして!」
「本当に申し訳なく思います。でも自分は聖剣よりも、この生命力で魔物を撃退してきたんです。これまでも、そして今も」
信じられなかった。
魔物を撃退する聖騎士は。
聖女の聖なる力が込められた聖剣で、魔物を倒すのが常套。それなのにこの美貌の聖騎士は、聖剣ではなく、自身の生命力で魔物を撃退すると言っている。
しかもその生命力って……!
聖騎士は、聖女に仕え、忠誠を誓い、生涯独身を通すのが慣例。つまり司祭や修道士と同じように、聖騎士であるならば、純潔が求められた。
それなのに!
魔物を倒せるというランスの生命力は……性的な興奮により高まるもの。
つまりはより魔力の強い魔物を倒すためには。
ランス自身が性的に興奮する必要があるというのだ。
その興奮が高まった時。
彼の生命力はとんでもない勢いで輝き、この光を浴びたり、触れたりした魔物は、この世界から退場する――つまりは消滅することになる。
そして今。
私とランスは森の中で、熊のような姿の魔物<ビースト・デビルベア>に遭遇してしまった。その大きさは、通常の熊の倍以上。3階建てぐらいのサイズだった。
これを倒すためには――。
「死にたくなければ、協力してください!」
「死にたくないので、聖剣で戦ってください!」
分かっていた。あのサイズのビースト・デビルベアを倒すのに、聖剣では小さすぎると。つまようじで象に挑むぐらい、無謀だと。
「責任は取りますから!」
「えっ!」
ランスがぐいっと私の腰を抱き寄せる。
さらに荒々しく顎を持ち上げられ――。
◇
事の発端は、ビースト・デビルベアと遭遇する数日前にさかのぼる。
私こと、アリー・エヴァンズは、バーリン修道院に所属する修道女だった。年齢は18歳。
鏡に映る自分は……修道女仲間からは「まるで貴族の令嬢みたい!」と言われる。
髪はローズブロンドで、瞳と頬と唇は、初々しさを感じさせるローズピンク。肌はミルクのように潤いがあり、弾力もあった。手足はほっそりしていたが、質素倹約な修道院暮らしながら、胸はきちんと育ってくれている。
貴族の令嬢……。実際にこの修道院には、元貴族の令嬢も何人かいた。彼女たちと私は……似ているのかしら?
元貴族の令嬢は、信仰に目覚め、修道院に自分の意志で入った者もいれば。結婚適齢期を大幅に過ぎ、神との結婚をすすめられ、修道院に入った者など様々。では私、アリーはなぜ修道女をしているのか。それには理由がある。
私は元々、バーリン修道院に併設された孤児院で育った。赤ん坊だった私は、孤児院の前に捨てられており、そのまま拾われたのだ。どういった理由で、そこに捨てられたかは……不明。
ただ、私がいれられた籠には、ペンダントが一緒に置かれていた。皆初めて見たという透明で、まるで夜空を閉じ込めたような丸いガラス玉がついている。このペンダントが唯一、私を捨てた両親につながるもの。今も胸につけている。
このなんだか珍しいペンダントのおかげで、孤児院の先生たちは、こんな想像をすることになる。
もしかしたら貴族の令嬢が過ちをおかし、身ごもってしまった。産んだものの、育てるのは無理。そこで孤児院の前に置き去りにした――。
でもこんな事例はここ、ローゼル王国ではよくある話。
ともかく私は孤児院で育ち、そして12歳になると同時に修道女となり、神に仕えてきたわけだ。孤児院の子供の面倒を見て、神に祈りを捧げ、家事をこなす。そんな日々を送っていたのだけど――。
18歳の誕生日を迎える3日前。
私の胸に、ピンク色の薔薇の痣のようなものが突然現れた。
聖女は、18歳の誕生日を迎えた日に、胸にピンク色の薔薇の痣が現れると言われている。
聖女。
私が暮らすこの世界には、魔物が存在しており、国同士での戦争がない代わりに、魔物と人々は戦ってきた。魔物は人間を襲い、その魂を喰らうからだ。
この魔物から人々を守ることができるのが、聖女だった。
聖女の持つ聖なる力を込められた武器を手に、聖騎士は魔物と戦う。
魔物が闊歩するこの世界で、聖女は不可欠。
だが、現在ローゼル王国に聖女は不在。
そう、聖女は必ずしもいつもいてくれるわけではない。
ゆえに現在の聖騎士は、先代聖女の銅像に忠誠を誓い、彼女が残した聖なる武器を手に、魔物と戦っていた。でも、そろそろ武器は痛んできている。
よってもし私が聖女であるならば!
これはもう、一大事だった。
ということで修道院長は急ぎ、王都へ報告する。
私が修道女ということで、聖女であることへの期待が高まった。
すぐに王都から聖騎士の迎えが来てくれた。
聖騎士は全員、揃いも揃った美青年で。
しかも独身!
そして私が聖女であるならば。
彼らは私にその純潔を捧げてくれるというのだから……!
聖女と聖騎士は結ばれることはできない。
だからこれは……究極のプラトニックラブよね。
ともかくそんな素敵な聖騎士達に囲まれ、立派な馬車に乗せてもらった。素敵な刺繍と美しいレースがたっぷりの白いドレスを着せてもらい、私は王都へ向かう。そしてそのまま初代聖女の名を冠した聖アグネス神殿へ行き、そこで聖女であるかの確認――儀式が行われた。
まずは胸の薔薇のように見える痣は、本当に聖女の証である聖痕であるか。聖女が唱える「聖なる言葉」を読めるか。魔物の姿を見ることができるか――魔物の姿は、聖女、聖なる力を宿す武器を持つ聖騎士には見えるが、それ以外の人々は見ることができない。聖なる力を武器に付与することができるか。そんないくつかの確認を行った結果。
魔物を見ることができた。聖なる言葉を読むことはできた。だが……。
胸に現れた痣は、過去の聖女の胸の聖痕と比べると……かなり微妙。色が薄く、虫刺されとも言えなくない。これを薔薇と言っていいのか。聖痕と言っていいのかと、議論を呼ぶ。
さらに。聖なる力を武器に付与する――これができなかった。これは致命的。聖なる力なくして、聖女とは……言えない。
つまり私は……聖女ではなかったわけだ。
正直。
いろいろ夢を見てしまった。
捨て子だったのだ。
孤児院で育ち、そのまま修道院で暮らし、平穏無事に時が流れ、そのまま天に召される――と思った。でも聖女になれば、それは激変すると考えていた。
幼い頃。
貴族から寄付された絵本や童話を読んでいた。
その童話では、森に捨てられた女の子を、王子様が迎えに来る。女の子を森にさらった魔女を、王子様は倒す。最後に女の子は王子様と結ばれ、お城で幸せに暮らす――。そんな物語があった。
金髪碧眼の素敵な王子様は迎えに来なかったが、うっとりするような美しい聖騎士がやってきてくれた。彼らに囲まれ、聖女とあがめられたら……。
だが夢破れた私は、修道院へ戻されることになった。
連れてこられた時は。
見目秀麗な聖騎士が沢山来てくれた。それはそれだけ聖女だろうという期待があったからだ。でも今は……。
聖女ではないただの修道女を、王都から遥か遠い村まで送り届ける。
その旅のお供をしてくれる聖騎士は、たった一人だと……言われた。
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