森の中でゆっくり眠る
森の中に寝そべっている。ひとりで。
木漏れ日の感じからして、今は多分午後3時くらいで、お昼寝するにはちょうどいい時間だ。
背中で感じる地面は、ふかふかした感触で、鮮やかな緑の柔らかい草が一面に広がっている。
目の前の木の枝には、カラスが止まっていて「カラスだなあ」と思ってみていた。
でも、カラスが飛び立とうとして広げた羽を見ると、それはクロアゲハみたいな羽だったので「カラスじゃないなあ」と思った。
鱗粉がキラキラ輝く柔らい羽をゆっくりと羽ばたかせて、ひらひら舞うようにして、俺の視界から消えていった。
ありえない生き物を見たのに、俺はこれが夢じゃないことをわかっていた。
五感の明晰さが、これが現実の出来事であると教えてくれていた。
夢じゃない。オーケー。
いきなり森の中にいる。オーケー。
わけのわからない生き物がいる。オーケー。
俺は多分、異世界に転移した。オーケー。
オーケー。異世界転移。結構なことである。
テンションが上がるぜ。これから大冒険が待っているのだろう。
嘘。
その時の俺はそんなことどうでもよかった。
いろいろあって疲れたし、ゆっくり休みたい。
知らない森の中にいて、もしかしたら危険な場所かもしれないけど、お昼寝にはぴったりの時間だ。
なので、俺は眠りについた。
起きるころには夕暮れだろう。
夜の森は恐ろしいに違いない。
知らない間に、危険な野獣に食い殺されるかもしれない。
まあでも、異世界転移パワーでうまく切り抜けることができるかもしれない。
あるいは、そんなものはなくて、ただ食い殺されるかもしれない。
まあどちらでもいい。
俺は疲れている。今は眠い。
とにかく俺は眠ることにした。
いい夢を見れることを祈った。