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深く深く深く深く深く呪われた生き物

ところで、俺の魂は呪われている。

それはもう、深く深く深く深く深く。

それで、俺は鬼の村にはいられなくなって、旅に出ることとになった。

鬼たちが、俺の呪いを穢れとして忌み嫌ったわけではない。

この世界の「放り出された生き物」は多かれ少なかれ生まれた時から呪われている。

呪いのせいで「放り出された」という宗教観のようなものをを持っている。

「放り出される」とはなんなのか?

僕たちの世界で言うところの、理性を持っている生き物といえるかもしれない。

この概念を正確に翻訳することは難しいけど、僕が昔いた世界での「理性」という概念が持つポジティブなイメージはそこにはない。

「放り出される」ということは少し悲しいことなのだ。

多くの人間は、放り出されている。

動物の中にも、放り出さているものがいる。

鬼たちはこの世界に来て放り出された。


「放り出される」ことと「呪われていること」には密接な関係があるというが、その関係性については諸説ある。

「呪われているから放り出される」のか、「放り出されたので呪われる」のか、という因果関係の解釈の違いがあるし、「放り出されている度合いと呪いの度合いに比例関係があるのか?」という論争もあったという。また、「完全に放り出されているのか、一部だけ放り出されているのか?」という論争もあったという。


こんなふうに説明すると、単なる抽象的な宗教観のように思われるかもしれないが、呪いには少なからず実態がある。

ちゃんと呪いを感知できるシャーマンが存在する。

シャーマンは呪われた生き物と呪われていない生き物を峻別する能力を持っている。

それがどういった種類の能力なのかは、本人たちも理解していないようだが、とにかく分かるのだという。

彼らは、主に人間や鬼が行う畜産分野で活躍している。

家畜の豚や鶏に子どもができると、シャーマンは彼らが呪われているかどうかを一匹ずつ判別する。

呪われている生き物を食べると、更に新たな呪いがかかるとされているのだ。

呪われている家畜は、同じ種類の動物で構成される「放り出された生き物」たちのコミュニティに預けられることが多い。それらのコミュニティは一般名詞としては「動物の名称+族」と呼ばれる。例えば、豚により構成されたものは、豚族という。もちろん、固有の呼び名を持つ歴史の長い部族もいるが、イタリアのブドウの土着品種のように種類が多すぎるので、他の部族から判別することは難しい。

ちなみに、人間や鬼以外で、畜産を行う部族は、ほとんどいないのだという。

多くの部族は畜産を生理的にグロテスクなものとして認識している。

彼らは、「まあ、人間が畜産するのは仕方ないよね。生きなきゃいけないし」という穏健なスタイルをとっているが、心の奥底では、人間を深く軽蔑しているようだ。

どんな世界でも、文化の違いがあって、それをお互い許容してはいれど、深い深い場所では、やはり断然しているのだなあ、と思い僕は感慨深い気持ちになる。


そういうわけで、俺は呪われている。

それはもう、深く深く深く深く深く。

鬼たちはそれを穢れだと思っているわけではない。

ただ、あまりにも深く呪われているので、ある程度呪いを解かなければいけないのだという。


「呪いというのは……呪いというのは…」

鬼の村のシャーマンである、デャーは、とても低い声で、ゆっくりと厳かに切り出す。

シャーマンはワンセンテンスを2回続ける。

別に、もったいぶった話し方でプレミア感を出しているというわけではなく、言葉を魂に響かせるためにそのように話す。

はじめは、体に言葉を聞かせ、それから次に魂に言葉を響かせる。

デャーの言葉をそのまま書き起こすと煩雑になるので、要点を以下にまとめる。


【呪いについて】

·誰にも当てはまるような普遍的な呪いというのは存在しない。

·呪いは、その生き物の魂に対応した特殊な形式性を持っている。

·ゆえに、一般的な呪いの解き方というものは存在しない。

·呪いの在り方と、呪いの解き方は、呪われた生き物自身が見つけ出さなければいけない。

·呪いの在り方を見つけ出す方法として、一般的に魂と呪いの間に隙間を作り、その隙間から呪いを掴み取るというやり方がある。

·魂と呪いの間に隙間を作るには、旅をするのがいいと言われている。動き続けることで、空間的にも隙間が生じるし、環境が変わると魂と呪いがどちらもビックリして、隙間が生じるとされている。

·以上


デャーの説明の中にはよくわからないところもあったけど、まあ「旅をして成長しろ」みたいなニュアンスなんだろうな、と少なからず納得した。

俺は、鬼の村にずっといたい気もしていたけど、なんかそういうわけにもいかなくなったのだ、ということは、とにかく理解した。

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