奴隷が鎖をちぎり自由な人間になったとき、それを恐怖とすることはない。
驚いた。
一音一音が「明確に変わっていた」。
随分と「色」がはっきりしていた。
素直に、理解できなかった。
始まりの曲は「ソロになってからのヒット曲」であり、歌い慣れているというのは、当然あるだろう。
だが、指向性すら明確に「変わっていた」。
人垣越しに微かに見えるモニターに映し出される「彼」は、相変わらず大変派手だ。ただ、少し緊張感が強い感じがする。
この「ギタリスト」、ほとんど緊張しないらしい。凄まじい胆力。流石にパラリンピックで演奏するレベルな方である。動じないレベルが高い。だが、今までのアルバムツアーとは違うし、演出家まで入れている。まあ、多少の緊張感はあるか。
緊張感を加味したとしても、変わっていた。
明確に「ギタリスト」は「変わった」。
僅かに見えるモニターは、確かに「老け衰えたギタリスト」を映している。いや、その御年齢にしては十分にお元気だが。
しかし、あまりに「瑞々しい音」。
「円熟み」を綺麗に加算した「音色」。
前回見たときから、たった5ヶ月。
意味がわからない。
その初夏に聞いた「2人目のボーカリストとの曲」が流れる。演出で爆竹の音がした。会場の空気は完全に「彼」に支配されている。
思わず、立ち上がっていた。
全く違う。何が違う?「見たい」。
「彼」が、「ギタリスト」が「見たい」。
目算で80から120メートル先。「右手で進めと、指差しているギタリスト」が一瞬だが見えた。
俺と「彼」の間には1000人前後の人がいる。
普通なら見えない。にも関わらず「見えた」気がした。
何故か、それは、モニターに映し出される「年老いた彼」ではなく、あまりにも「綺麗な彼」だった。